電子書籍対応

『食道楽』の人 村井弦斎

『食道楽』の著者としてのみ知られる村井弦斎.その数奇なもう一つの近代の落丁をなす生を描き出した力作!

『食道楽』の人 村井弦斎
著者 黒岩 比佐子
ジャンル 書籍 > 単行本 > 伝記
刊行日 2004/06/25
ISBN 9784000233941
Cコード 0023
体裁 四六 ・ 上製 ・ カバー ・ 256頁
在庫 品切れ
明治の大ベストセラー『食道楽』の著者としてのみ知られる村井弦斎の初めての評伝.幕末の儒家に生を亨け,新聞小説家として名をなし,婦人啓蒙へと転じて健筆を振るい,その晩年は仙人への途を歩んだ人.厖大な資料を博捜し,その数奇な生の光と影を時代背景に溶かし込んで描き出す.もう一つの近代の落丁を埋める力作!

■内容紹介
 今からおよそ100年前に,10万部以上という当時としては破格の大ベストセラーである『食道楽』という小説を書いた作家がいた.その名前は村井弦斎.弦斎は「報知新聞」をはじめとする新聞・雑誌に数多くの小説を連載し,その小説が洛陽の紙価を高からしめた,とさえ評された人気作家である.「報知新聞」に足掛け6年連載した未来小説『日の出島』は,明治期に書かれた最も長い小説として話題を呼び,さらに,“百道楽”を小説に書くという壮大な構想のもとに生まれたのが,『釣道楽』『酒道楽』『女道楽』などの教訓小説だった.1903(明治36)年に連載された『食道楽』は,小説の中に西洋料理,日本料理,中国料理など実に630種ものレシピを織り込んだ奇書で,世間を大いに驚かせた.当時,ヒロインの名前をつけた料理屋が開店したり,「食道楽」という雑誌が創刊するなど,“食道楽ブーム”が巻き起こる.歌舞伎座でも弦斎の脚本による『食道楽』が公演され,舞台の上で役者がシュークリームを作って観客に配るなど,その奇抜な趣向が話題を呼んだ.
 村井弦斎は『食道楽』で得た収入で,神奈川県の平塚の地に1万6400坪の土地を購入し,菜園,果樹園,温室,養鶏場,山羊舎などを設けて,自ら食道楽を実践した.料理上手で美しい妻と6人の子どもたちと共に,ユートピアのような生活を営む弦斎は,当時の文士の理想の姿として羨望されもした.だが,あろうことか,晩年の弦斎は,美食とは対極にあるとも思える“断食”や“木食”の研究に没頭するようになる.35日間の長期断食を実践して本を出し,山中で約半年間も穴居して,自然にあるものだけを食べるという“天然食”の記録を雑誌に発表するなど,あたかも「仙人」のような生活を実践したため,次第に奇人視されるようになっていく.晩年の弦斎は文壇からすっかり忘れられ,今では文学史の上でもほとんど話題にされることはない.
 本書は,その忘れられたベストセラー作家である村井弦斎の厖大な書簡やノートや手帳などの未公開資料を調査し,謎に満ちた数奇な一生を解き明かした初めての本格的評伝である.その人生の行路には,矢野龍溪,斎藤緑雨,宮武外骨,渋沢栄一,大隈重信など,思いがけない人々との交渉が見え隠れする.村井弦斎の生の光と影を,幕末から昭和の初めまでの大きな時代背景に溶かし込んで描き出した本書は,もう一つの近代の落丁を埋めるものといえよう.
『食道楽』の人について

I 儒者の子――父の影の下で
1 生い立ちと時代背景
漢学の家/大逆転
2 東京外国語学校時代
ロシア語を学ぶ/洋学と漢学
3 挫折
脳病/「衛生」と「経済」/渡米
4 報知社入社
渋沢栄一と父清/矢野龍溪との出会い/『経国美談』の文体実験

II 「新聞小説家」村井弦斎
1 初期の小説をたどる
父からの“自立宣言”/亡き母への追慕/「郵便報知新聞」第一作/家庭小説を先駆ける/報知の四天王
2 大長篇『日の出島』へ
「都新聞」時代/日清戦争と「報知」/『日の出島』連載開始/ル・サージュ作『ジル・ブラース』/文壇批判としての「文学魔界」論
3 教訓小説としての『食道楽』
禁酒と廃妾の勧め/630種の料理/自費出版/食道楽ブーム/宮武外骨のパロディ

III ユートピア
1 多嘉子との結婚
「わが理想に適ひたる妻」/斎藤緑雨との交錯/妻への433通
2 日露戦争と『HANA』
日露戦争勃発/異色の英文小説/戦時下での看護婦たち/海外の書評など/鷗外の『花子』像
3 美食の殿堂――「報知新聞」から「婦人世界」へ
平塚「対岳楼」/婦人雑誌への転身/「成功者」/「ニコニコ」と長面会

IV “仙人”への途をゆく
1 断食・木食の研究
脚気論争/35日間の断食/『小松嶋』と木食仙人/山中穴居生活の実践
2 社会奉仕活動と健康食養法
古典芸能へのパトロネージュ/健康法ブーム/命がけの「研究」
3 人類と宇宙の一元論
関東大震災後/奇跡の治療法/息子の自殺/存在した遺稿

現代に生きる村井弦斎
  「20世紀の予言」/「食育」の思想/ジャーナリスト村井弦斎


調査・取材協力(個人・団体)
主要参考文献
村井弦斎年譜
あとがき
人名索引
黒岩比佐子(くろいわ ひさこ)
1958年,東京都生まれ.慶応義塾大学文学部卒業.ノンフィクションライター.著書に『音のない記憶――ろうあの天才写真家 井上孝治の生涯』『伝書鳩――もうひとつのIT』(いずれも文藝春秋刊)がある.

書評情報

毎日新聞(朝刊) 2011年10月9日
読売新聞(日曜版) 2011年9月18日
東京新聞(朝刊) 2011年6月27日
読売新聞(朝刊) 2008年2月19日
産経新聞(朝刊) 2008年1月30日
栄養と料理 2005年4月号
技術教室 2005年3月号
西日本新聞(朝刊) 2005年2月27日
日刊ゲンダイ 2004年12月27日
週刊現代 2004年10月16日号
日刊ゲンダイ 2004年10月2日
週刊ポスト 2004年9月10日号
図書新聞 2004年9月4日号
産経新聞(朝刊) 2004年8月22日
朝日新聞(朝刊) 2004年7月25日
日本経済新聞(朝刊) 2004年7月18日

受賞情報

第26回サントリー学芸賞〔社会・風俗部門〕(2004年)
ページトップへ戻る