不思議の国ベラルーシ

ナショナリズムから遠く離れて

民族主義を真っ向から否定するベラルーシ.その生き方は民族とは,国家とは何なのかを私達に鮮烈に問う.

不思議の国ベラルーシ
著者 服部 倫卓
ジャンル 書籍 > 単行本 > 評論・エッセイ
刊行日 2004/03/25
ISBN 9784000246231
Cコード 0026
体裁 四六 ・ 上製 ・ カバー ・ 250頁
在庫 品切れ
ヨーロッパの中心にありながら国際舞台に登場することもほとんどないベラルーシ.強烈なナショナリズムの隣国のなかでひとり民族主義を真っ向から否定し,史跡は訪れる人もないまま廃墟と化し,偉人を称揚するでもなく,母語を使用する機会も稀だ.しかしこのようなベラルーシの生き方こそ,民族とは何か,国家とは何なのかを私たちに鮮烈に問いかけずにはおかない.

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ヨーロッパの中心にある不思議な国,ベラルーシ.数々の歴史的建築物に恵まれながら,古都や史跡は訪れる人もないまま廃虚と化し,偉人を称揚するでもなく,民族語であるベラルーシ語にいたってはその命運すら危ぶまれている…….周辺諸国の強烈なナショナリズムがつとに知られるなか,ひとりナショナリズムを真っ向から「公式に」否定しているのがベラルーシなのです.
その一方でベラルーシはソ連解体後,唯一国民が「入超」の国,しかも民族的にベラルーシ人以外の人たちが,それぞれの出身国の民族的くびきから逃れてやって来ています.あるいは「民族主義が失敗」したベラルーシこそ,「民族共存の楽土」なのか? けれどもそうした寛容の美風をもったまま,この21世紀を生き抜いていけるのか?ベラルーシの生き方は,民族とは何か,国家とは何なのかを私たちに鮮烈に問いかけずにはおきません.


■著者からのメッセージ

 我が国の論壇には,ナショナリズムを過激に否定すればするほど進歩的だというような風潮,ありますよね.でもそれは,ナショナリズムの「成功例」しか見ていないからではないでしょうか.ちなみに,この場合の「成功」というのは,人間を幸福にするという意味ではなく,ナショナリズムが盛り上がるという意味です.確かに,ナショナリズムは時に盛り上がりすぎて,災厄をもたらします.
 それでは,逆にナショナリズムの「失敗例」を目の当たりにしたら,どうでしょう.少なからぬ国民が独立を悪夢と受け止め,隣国(ロシア)に吸収されることを願っている国.大統領がナショナリズムを自己否定し,民族主義者を弾圧している国.そう,この本で紹介しているベラルーシという国が,まさにそれなのです.ベラルーシは「ナショナリズムに関する究極の問い」だと言えるかもしれません.
 かく言う私も,もともとはナショナリズムについてもっぱら否定的で,とくにベラルーシ・ナショナリズムとは距離を置いていました.それが今では…….民族・国民を「想像の共同体」と呼んだのはB.アンダーソンですが,私は本書でベラルーシという対象と格闘することで,想像の所産にすぎないはずのナショナリズムがいかにして人間の心をとらえるのか,身をもって体験したような気がします.ベラルーシという「愛すべき例外」と出会わなかったら,このようなことはなかったでしょう.私の不思議体験を,一人でも多くの読者に分かち合ってほしいと願っています.
序章 ベラルーシという愛すべき例外
第一章 悩めるナショナル・ヒストリー
第1節 「国民の歴史」という蜃気楼
第2節 ベラルーシに偉人はいるか
第二章 廃墟への旅
第1節 我が心の廃墟
第2節 文化財はどこへ行った
第3節 廃墟の歩き方
第三章 絶滅危惧言語の逆襲
第1節 国勢調査の光と影
第2節 ごちゃ混ぜバイリンガリズム
第3節 当世ベラルーシ言語文化事情
第四章 さまよえる独立国
第1節 ベラルーシ国民の肖像
第2節 ベラルーシ・ナショナリズムの蹉跌
第3節 玩ばれる独立
終章 生きよ,ベラルーシ
あとがき
索引
参考文献
ベラルーシ歴史年表
服部 倫卓(はっとり・みちたか)
1964年,静岡県生まれ.東京外国語大学外国語学部ロシヤ語学科卒.青山学院大学大学院国際政治経済学研究科修士課程修了(国際政治学修士).1998年4月から2001年3月まで在ベラルーシ共和国日本国大使館専門調査員.現在,(社)ロシア東欧貿易会・ロシア東欧経済研究所 調査役.
共著に,『CIS:旧ソ連空間の再構成』(国際書院,2004年)がある.
ホームページは http://www.geocities.jp/hmichitaka/

書評情報

世界週報 2004年7月27日号
月刊言語 2004年7月号
熊本日々新聞(朝刊) 2004年4月11日
河北新報(朝刊) 2004年4月11日
愛媛新聞 2004年4月11日
沖縄タイムス(朝刊) 2004年4月3日
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