自由を耐え忍ぶ

巨大資本が文化の多様性を封殺している.不自由な自由を耐え,民主主義を再生させるオルタナティブ.

自由を耐え忍ぶ
著者 テッサ・モーリス‐スズキ , 辛島 理人
ジャンル 書籍 > 単行本 > 政治
刊行日 2004/10/15
ISBN 9784000234030
Cコード 0031
体裁 四六 ・ 上製 ・ カバー ・ 228頁
定価 3,630円
在庫 在庫僅少
自由を与えるとの美名の下で,大国の政治が人々の生活を監視し,巨大資本が文化の多様性を封殺し,人々の資産を囲い込んでいる.テロの恐怖が,正義や法の裏づけのない国家の暴力を助長し,非寛容的な原理主義を蔓延させている.不自由な自由を耐え,劣化した民主主義を再生させるオルタナティブを提示する.

■著者からのメッセージ

重要なのは,たとえそれが小さな試みであっても行動することである.誰の人々の生において,我々をとりまく不正義に抗する行動が可能な場所があるはずでだ.抗議の手紙を書いたり,電子メールを送ったり,ある特定の問題を学ぶために読書するといったささやかな行動でもいい.
 その行動は間違ったものかもしれない.この複雑な世界において,行動することは過ちを犯す危険をともなうものである.単純で小さな行動であっても,それは瞬時に政治的な議論を誘発する.日本政府に費用弁償をさせられたイラクでの人質たちに日本にいる人々が寄付を申し出た時,それは直ちに論争を挑発した.寄付を申し出ることは日本政府による不当な要求を正当化するものだ,と論じるものもいた.彼ら彼女らは,海外における日本人の保護や救助は憲法で定められた政府の責務であるとして,裁判で争うべきだと主張した.一方,裁判には時間がかかり,すでに疲弊している人質やその家族に一層の心労をかける,との論じる者たちもいた.
 このように小さな行動が議論を巻き起こすのは,失敗ではなく成功の一つの合図である.目の前の不正義に応答して行動することがデモクラシーの第一歩とするなら,その行動の結果を観察し検証することが次のステップだ.行動が巻き起こした様々な反応に注意深く耳を傾け,その問題にかかわる議論に参加する.まさにその過程で,個々の行動が他の行動と結合し連関する.そうすることによって我々自身が次の行動を起こす際,その行動はより深い理解をともなうものである.そうすることによって,「自己責任」と「関係ないのに口出しする」ことを同一視する全体主義的個人主義の内向きな方向性から我々は逃れうるし,自分自身への責任と同時に我々の世界にも責任を負う新しい意味を持った開かれた「自己責任」論の展望が可能となる.
 21世紀における自由とデモクラシーの再発見は,大きな理論や政党のマニフェストから始まるものではない.個々人の日常生活のあらゆる局面,まさに今,ここで,始められるのものである.そして,それは,この言葉を書いた後の私が,この本を読み終えた後のあなたが始める.




 本書は,過去二年の間に世界で起きた出来事を観察し,私が感じた悲しみと不満を動機として書かれている.その感情は,日本,オーストラリアあるいは世界中に散らばる私の友人たちも,きっと共有するものだろう.友人たちと悲しみを共有し,そして意見交換を行いつつ,私はこの危機的な世界を批判的に分析し,未来の光明を探る作業を開始した.本書は現在の世界の危機的状況の根源に至り,その危機が提供する可能性を読者と共に考える試みである.

「あとがき」より  テッサ・モーリス-スズキ
テッサ・モーリス-スズキ(Tessa Morris-Suzuki)
1951年イギリス生まれ.バース大学で博士号取得.現在,オーストラリア国立大学教授(太平洋アジア研究学院ANU・RSPAS).日本経済史・思想史.主な著書に,The Technological Transformation of Japan : From the Seventeenth to the Twenty-First Century (Cambridge U.P.,1994), Re-Inventing Japan : Time, Space, Nation (M.E. Sharpe,1998), 『辺境から眺める――アイヌが経験する近代』(みすず書房,2000年),『批判的想像力のために――グローバル化時代の日本』(平凡社,2002年),『過去は死なない――メディア・記憶・歴史』(岩波書店,2004年)などがある.
訳者:辛島理人(からしま まさと)
1975年大阪生まれ.1998年一橋大学経済学部卒業.2001年一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了.現在,オーストラリア国立大学太平洋アジア研究学院博士課程在学中.専攻は,歴史学・経済学,アジア太平洋地域における知識の社会史.

書評情報

朝日新聞(朝刊) 2011年9月11日
しんぶん赤旗 2005年2月20日
ふぇみん 2004年11月25日号
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