政治の混迷と憲法

政権交代を読む

「政治主導」のスローガンとは裏腹に,停滞が続く政治.憲法学の視点から,あるべき議会政の姿を考察.

政治の混迷と憲法
著者 高見 勝利
ジャンル 書籍 > 単行本 > 政治
刊行日 2012/02/22
ISBN 9784000258289
Cコード 0031
体裁 四六 ・ 上製 ・ カバー ・ 304頁
在庫 品切れ
「政治主導」や「首相の強いリーダーシップ」のスローガンとは裏腹に,「ねじれ国会」の下,停滞を続ける日本政治.なぜ,この間の政治改革はうまくいかなかったのか.そして選挙制度改革が進められようとしているいま,日本の議会政はどうあるべきか.憲法学の視点から,政権交代期の国会運営を定点観測してきた著者の分析と提言.

■著者からのメッセージ

 いま日本で山積する主要な政治課題について何も決められないのは,憲法そのものに欠陥があるからだとして,憲法改正による首相公選制の導入,参院廃止・一院制への移行を明示した大阪維新の会の衆院選向けた公約骨子(「維新八策」)が,永田町を震撼させている.しかし,いずれの案も,これまで,永田町の政治家の間で議論され,国会両院における憲法審査会の審議と並行して,その実現に向け,首相の私的懇談会や与野党横断的の議連すら組織されたテーマである.「言うのは簡単だ」,「わざと飲めない政策を出し,既存政党との違いを出そうとしている」,「いささか性急な印象を受ける」といった上記の案に対する拒絶反応は,永田町政治家の改憲論が単なる口先だけのものでしかなかったことを図らずも露呈させた.
 ただ,憲法の視点から見れば,何も決められないのは,憲法の定める統治の仕組みに問題があるのではなく,憲法運用の稚拙さにある.とりわけ,憲法上国民から国政を付託された国会議員たる政治家が,迫り来る選挙のみを意識し,国民代表者にあるまじき行動に終始していることにある.これは憲法以前のモラルの問題であるが,「政治の混迷」として語られるものも,実は憲法運用の衝にあたる政治家のモラルハザードに起因するところが少なくない.それゆえ,まずなによりも,平然と「選挙第一」を口にするような政治家を,国民が政治の世界から放逐することから始めなくてはならない.来るべき総選挙がその好機となることを期待したい.
 さて,その総選挙だが,一票の格差是正に関する各党協議が進展をみないまま今後も推移するならば,消費増税をめぐる政局の展開如何によっては,最高裁が「違憲状態」にあるとした現行選挙制度の下での解散・総選挙もありうる.かりにそうした事態になれば,「違憲の総選挙」を惹起させた現職国会議員の無為無策が指弾されることになろう.また,新たに選出された衆議院議員も,憲法的正当性を持ち得ないこととなろう.
 本書が,読者の皆さんに,上記のような問題を考えて頂く一助となるなら,このタイミングで本書を上梓した意味があったと言えよう.
(2012年2月24日記)
はしがき
序章 一人別枠方式に関する最高裁判決と国会の対応
Ⅰ 民主党政権の成立まで
第一章 憲法から見た小泉流「官邸主導」
第二章 〇七年参院選後の議院内閣制の変容と参院のあり方
第三章 「ねじれ国会」と憲法 
第四章 解散政局に明け暮れた自公政権下最後の国会
第五章 「政権選択」選挙と憲法問題
Ⅱ 民主党政治はなぜ行き詰まったのか
第六章 憲法政治の諸相
第七章 日本の逆を行くイギリスの議会改革
第八章 政権交代と政党政治の行方
第九章 憲法の視点から見た参院選挙制度改革
第一〇章 西岡参院議長の憲法発言を読み解く 
Ⅲ 改憲論議の諸前提
第一一章 憲法九条の「解釈改憲」と「明文改正」
第一二章 国民投票法制の整備における憲法上の問題点
第一三章 国民投票法――先送りされた重要問題  
第一四章 天変地異と憲法

終章 「戦後民主主義」後の憲法学の課題
あとがき
高見勝利(たかみ かつとし)
1945年生まれ.東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了,法学博士.九州大学法学部助教授・教授,北海道大学法学部教授,国立国会図書館専門調査員などを経て,現在,上智大学法科大学院教授,北海道大学名誉教授.専攻は憲法.
著書に,『憲法Ⅰ ・Ⅱ(第5版)』(共著,有斐閣,2012年)『現代日本の議会政と憲法』(岩波書店,2008年)『芦部憲法学を読む』(有斐閣,2004年)『日本国憲法解釈の再検討』(共編著,有斐閣,2004年)『宮沢俊義の憲法学史的研究』(有斐閣,2000年)『人権論の新展開』(編著,北海道大学図書刊行会,1999年)など.
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