戦後日本の国家保守主義

内務・自治官僚の軌跡

内務・自治省系エリート官僚たちの思想と行動から,戦後日本の支配構造に新たな光を当てた画期的著作.

戦後日本の国家保守主義
著者 中野 晃一
ジャンル 書籍 > 単行本 > 政治
刊行日 2013/03/27
ISBN 9784000258951
Cコード 0031
体裁 四六 ・ 上製 ・ カバー ・ 166頁
在庫 品切れ
明治から昭和戦前期まで,大蔵官僚と並んで権威を誇った内務官僚は,敗戦により内務省が解体された後も,自治省などの後継官庁で生き延び,日本の支配を担ってきた.彼らは,現役時代は国家の中枢を支え,「天下り」後は「国家の触手」として社会に働きかけた.内務・自治官僚たちの思想と行動から,日本の支配構造に新たな光を当てた画期的著作.

■著者からのメッセージ

 本書で私は,国家機構のなかでもっとも中枢的な機能を担うという意味でも,国民の統合にもっとも直接的にかかわるという意味でも「国家のなかの国家」と言えるにもかかわらず,これまで十分な注意が払われることのなかった内務省とその後継官庁の主流たる自治省に焦点を絞りました.内務・自治官僚たちの描いた軌跡を通して,戦後保守支配の展開と変遷を解明することを試みたのです.
 本書は,独自に収集したエリート官僚のキャリアパスのデータに基づいています.そこで浮かび上がってきたのは,戦後,内務・自治官僚たちが,内閣官房,内閣法制局,宮内庁,防衛庁など国家の中枢を再構築したり,退官後もオリンピックや万博などを切り盛りして国威の回復と発揚に努めたり,準国家機関を増殖させて,「国家の触手」として社会統制や人民教化にあたったりしたさまです.
 国家の権威のもとに保守的な価値秩序へと国民統合を図る,戦前からつづく日本の統治思想と制度的特徴を,私は「国家保守主義」と呼んでいます.内務・自治官僚たちは,戦後日本において,国家保守主義の再建に中心的な役割を果たしてきたと言えるでしょう.
 国威回復に一定の成功を収めた内務・自治官僚たちは,その後,地方政治で革新自治体を切り崩し,さらに中央政界で臨調行革路線による革新陣営への攻撃を推し進めました.1980年代以降,彼らは世界的な隆盛を迎えた新自由主義転換に乗じ,国家の権威を笠に着て,自らの私的利益の確保と拡大に汲々とするようになっていきます.
 かくのごとく空洞化した国家保守主義の先に何が待ち受けているのでしょうか.そのことを展望するうえで,本書が一助になれば幸いです.
はじめに

第1章 内務官僚の系譜
戦後の地方自治行政をリードした旧内務官僚たち/国家官僚制における自治省の勢力圏/人事院/行政管理庁(総務庁)・総理府/防衛庁/沖縄開発庁・国土庁/宮内庁/内閣法制局・最高裁判所/内閣官房/内務省の遺産と新しい伝統

第2章 中央・地方政治への転身
戦後入閣を果たした旧内務官僚たち/内務省出身の政治家と国家保守主義/内務省出身の自治官僚と戦後地方政治/ポスト内務省世代の自治官僚と政界

第3章 戦後の準国家機関の再生
日本善行会/日本躾の会と日本レクリエーション協会/日本広報協会/ナショナル・ヒストリーの番人/行政改革と新自由主義転換

第4章 準国家機関の増殖と天下りの拡大
地方行財政関連団体/宝くじ関連団体/新自由主義転換と宝くじマネーの増大/新自由主義のインパクト/警察官僚の天下り

おわりに

人名索引
中野 晃一(なかの こういち)
1970年生まれ.東京大学文学部哲学科および英国オックスフォード大学哲学・政治コース卒業,米国プリンストン大学で博士号(政治学)を取得.現在,上智大学国際教養学部教授,同大学グローバル・コンサーン研究所所長.専門は比較政治学,日本政治,政治思想.著書に,Party Politics and Decentralization in Japan and France: When the Opposition Governs, Routledge, 2010, 『グローバルな規範/ローカルな政治――民主主義のゆくえ』(共編,上智大学出版,2008年),『ヤスクニとむきあう』(共編,めこん,2006年)などがある.

書評情報

週刊金曜日 2013年7月19日号
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