憎しみに未来はない

中日関係新思考

両国人民に向け,歴史問題や領土問題を超えた和解を実現するための指針,「中日関係新思考」を提起する.

憎しみに未来はない
著者 馬 立誠 , 及川 淳子
ジャンル 書籍 > 単行本 > 政治
刊行日 2014/01/28
ISBN 9784000259446
Cコード 0031
体裁 四六 ・ 上製 ・ カバー ・ 310頁
定価 3,080円
在庫 在庫僅少
凍結した日中関係をどう立て直すか.国交正常化以後の両国首脳による関係改善のための努力を回顧し,日中両国に一大センセーションを巻き起こした2002年の「対日関係新思考」以降の中国国内での対日言論を評論し,ここに提唱する「中日関係新思考」.両国人民に向け,歴史問題や領土問題を超えた和解を実現するための指針を提起する.

■編集部からのメッセージ

 日中関係を新たに思考する度量の広さ

 本書の原題は「仇恨没有未来」という.邦題を決めるとき,ひとしきり翻訳者の及川淳子さんとの間でやりとりがあった.問題は「仇恨」の訳語だ.「憎しみ」でいいのだろうか,それだけで中国語のニュアンスを十全に伝えられるだろうか,かといって適当な訳語は思い浮かばない,ということで,双方が思案投げ首となった.「じゃあ『にくしみ』という和語を漢語でどう表現するかな?」「やはり『仇恨』になりますねえ」というわけで,何とか収まった.
 とはいえ,「仇恨」を「憎しみ」と言い換えるだけでは,日中問題の重要な要素を脱色してしまうことになりかねない.日中関係における「歴史問題」は,ある歴史上の出来事をめぐっての評価・解釈の違いだけではおさまらない.そこに尊敬・侮蔑・栄辱・恩讐といった感情がまつわりついている.そこが厄介だ.
 この硬直した日中関係を切り開く要諦を,著者馬立誠は「仇恨没有未来」という一語で簡潔に言いきり,日中関係を正常に保つことが双方にとって得策であることを訴える.「和すれば共に利をもたらし,離れれば共に傷つく」「感情を政策に置き替えるな」「理性によって妄動を制御せよと」という道理に裏打ちされた,平明な思考である.そこには,日中間のもつれた感情の入り込む余地は小さい.
 このメッセージの淵源をたどると,鄧小平と胡耀邦の対日観があるという.さらに,朱鎔基・胡錦濤・温家宝ら首脳による日中和解のための行動,何方・朱良・袁偉時・時殷弘・馮昭奎ら知識人の発言など,さまざまな有識者からの対日メッセージが連ねられていく.罵声や怒号にかき消されそうになりながらも,いわゆる「日中友好人士」といわれる狭い枠内の人びとだけではない,日中和解を希求する広範で多様な声が中国社会にも脈々と流れていることを思い知らされ,勇気づけられる思いがする.馬立誠さんの懐は広く深い.
馬場公彦
馬 立 誠(Ma Licheng)
1946年生まれ,中国四川省成都出身.『中国青年報』評論部副主任,『人民日報』評論部主任編集者(論説委員に相当),香港フェニックステレビ評論員を歴任.長年にわたり中国の社会変革やナショナリズムに関する研究と執筆に取り組み,現在は北京を拠点に言論活動を続けている.主要な著作は,『交鋒――当代中国三次思想解放実録』(共著/邦訳『交鋒――改革・開放をめぐる党内闘争の内幕』中央公論新社),『呼喊――当今中国的五種声音』(共著),『<反日>からの脱却』(中央公論新社),『謝罪を越えて――新しい中日関係に向けて』(文春文庫),『反日――中国は民族主義を越えられるか』(中公文庫),『歴史的拐点――中国歴朝改革変法実録』,『交鋒三〇年――改革開放四次大争論親歴記』,『当代中国八種社会思潮』(邦訳『中国を動かす八つの思潮――その論争とダイナミズム』科学出版社東京)ほか多数.及川淳子(おいかわ じゅんこ)
日本大学大学院総合社会情報研究科博士後期課程修了,博士(総合社会文化).法政大学国際日本学研究所客員学術研究員,法政大学大学院中国基層政治研究所特任研究員,桜美林大学北東アジア総合研究所客員研究員,日本大学文理学部非常勤講師.専門は現代中国の社会,知識人,言論空間に関する研究.著書『現代中国の言論空間と政治文化――「李鋭ネットワーク」の形成と変容』(御茶の水書房)ほか.

書評情報

アジア時報 2015年9月号
神奈川新聞 2015年7月2日
中国研究月報 2015年7月号
日本経済新聞(朝刊) 2014年4月20日
朝日新聞(朝刊) 2014年4月6日
毎日新聞(朝刊) 2014年3月23日
国際貿易 2014年3月11日号
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