民主化以後の韓国民主主義

起源と危機

独裁政権を打倒して民主主義をかちとった韓国社会の政治経験は,現代民主主義の課題と可能性を示している.

民主化以後の韓国民主主義
著者 崔 章集 , 磯崎 典世 , 出水 薫 , キム・ヒョンヨン , 浅羽 裕樹 , 文 京洙
ジャンル 書籍 > 単行本 > 政治
刊行日 2012/01/17
ISBN 9784000248631
Cコード 0031
体裁 A5 ・ 上製 ・ 278頁
在庫 品切れ
1987年6月,韓国の民衆は軍部独裁政権を打倒し,自らの手で民主主義をかちとった.以来,新憲法の制定,文民政権の復活,落薦・落選運動など,韓国は民主主義の実験場となった.本書は,この実験に参与した政治学者が,原理論と現実政治との間を往復して描き出した韓国現代政治史像の決定版であり,また透徹した民主主義論でもある.

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私は,民主化以後の韓国社会が,質的に悪くなったとみている.階級間の不平等な構造はいっそう早い速度で深化しており,過去には教育と勤勉によって可能だった社会移動の機会は大きく減少した.いつのまにかソウルの江南(カンナム)〔瑞草区,江南区,松坡区などソウルの漢江(ハンガン)以南の地区で富裕層の住人が多い〕を中心にして上層階級文化が発展し,所得の高さと教育の機会がしだいに比例する現実となった.その結果,上位中産層以上の特権化した社会部分と,残りの庶民といえる社会部分の間の乖離は深くなった.
 政党が中心となる民主政治は,非常に保守的なイデオロギーの範囲内で,既存の政治形態を持続させたまま,社会からの期待とはほど遠い政治階級(political class)の争いの場に近いものになってしまった.誰でも知っているように,韓国政治に対する否定的な評価は冷笑を超え,ほとんど無関心の対象となっている.社会的な不満が満ち溢れているが,正常な制度と手続きを通じて解決できるという期待もなく,なにか強力な変化を望む社会的心理が,韓国政治のひとつの特徴として定着した.
 今日の韓国社会における民主主義は,こうした現実に圧倒されている.このような条件の下で,多様な社会的要求に基礎を置いて代案を組織するという,政治本来の機能が発揮されることを期待するのは困難だ.さらに,こうした状況で,韓国社会がもう少し人が生きるに足るものに発展し,民主主義が人々の期待を充足させながら,社会的に健康な根を張ることはできない.なぜこのようになってしまったのか? なぜ,韓国民主主義は社会的要求と変化に応じることができないまま,無力になっているのか? なぜ,制度化された政治にかかわる勢力は,現実を改善できる代案を積極的に組織化できないまま,保守的な競争に終始しているのか? この本を通じて私が向き合おうとする問題は,まさにこのことだ.
(「この本を書くことになった理由」より)
第1部 問題
第1章 民主化以後の韓国社会の自画像

第2部 保守的民主主義の起源
第2章 国家形成と早熟な民主主義
第3章 権威主義的産業化と運動による民主化
第4章 民主化移行の保守的帰結と地域政党システム

第3部 民主化以後の民主主義
第5章 民主化以後の国家
第6章 民主化以後の市場
第7章 民主化以後の市民社会

第4部 結論
第8章 民主主義の民主化
崔 章 集(チェ・ジャンジブ)
1943年生まれ,65年高麗大学校政治外交科卒業.69年同大学院修士課程修了.74年に渡米し,シカゴ大学で博士号(政治学)取得.83年高麗大学校政治外交科助教授,87年同教授を経て,2007年に退職.現在,高麗大学名誉教授.その間,高麗大学校アジア問題研究所所長,大統領諮問政策企画委員会委員長などを歴任.
主著として『韓国の労働運動と国家』(ヨルム社,1988年),『韓国民主主義の条件と展望』(ナナム出版社,1996年),『どんな民主主義なのか』(共著,フマニタス,2007年)などがある.

書評情報

朝日新聞(朝刊) 2012年12月9日
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