経済再生の条件

失敗から何を学ぶか

日本経済はなぜ躓いたのか.政策調整の衝に当たった立場から問題点を反省的に分析した必読の経済政策論.

経済再生の条件
著者 塩谷 隆英
ジャンル 書籍 > 単行本 > 経済
刊行日 2007/06/20
ISBN 9784000227667
Cコード 0033
体裁 四六 ・ 上製 ・ 278頁
在庫 品切れ
日本経済は,20世紀末になぜ道を踏み間違えてしまったのか.何が間違っていたのか.高いコストを払って得たはずの教訓をどう生かすべきか.経済政策調整の要職にあった著者が,今にして思うことや反省すること,二度と繰り返してはならない失敗から学んだことなどを率直かつ明快に論じる.現実の経済が経済学の通説通りには動くわけではなく,国際環境や国内政治,社会情勢,官庁の力関係などとあわせて考えないと理解できないことを具体的に紹介.不幸な現実を出来させた,複雑に絡み合うさまざまな要因を一つ一つ解きほぐし,問題点を理路整然と

■著者からのメッセージ

塩谷英
 20世紀末に日本経済を未曾有の混乱に陥れた失敗から学んだ教訓は,次の3点に要約できます.1つは,戦略的思考に習熟することです.平家物語の「逆櫓(さかろ)」や「ガダルカナル戦」やクラウゼビッツの「戦争論」まで引き合いに出して戦略的失敗例を説明したつもりですが,果たして平和になれた人々の心に通じたでしょうか.2つは,80年代に人々をバブルへと駆り立てた「横並び意識」や「一元的価値観」からの脱却です.少数者,異端者が尊重される我が国伝来の多神教的寛容さの復活が必要です.3つは,高度成長の成功をもたらした「日本株式会社」と呼ばれた「勝ちパターン」が内向きに結束力を強化した「政官財癒着構造」のマイナス面の克服です.
 これらの教訓を活かして経済が再生されることを願って,「日本経済のルネサンス」を提言したところですが,現実に選択されつつあるのは,「神の見えざる手」に導かれた貧富の格差拡大への道のように思えてなりません.
 はじめに
序章
第1章 戦後最悪の不況体験
3重の財政収縮下で経済運営の基本方針取りまとめ/景気後退の認識の遅れ/ 「弾力条項」 を欠いた財政構造改革法/不良債権問題への危機感欠如/アジア金融危機の波及への認識不足/規制緩和政策の先駆け――「21世紀を切りひらく緊急経済対策」 /大外れだった政府経済見通し/三洋・拓銀・山一の破綻と金融逼迫/APEC首脳会議での体験/特別減税2兆円のサプライズ/不十分だった金融システム安定化策/遅すぎた財政構造改革法の弾力化/金融の量的緩和の遅れ/財政構造改革の挫折/不良債権処理を最優先した小渕内閣/経済戦略本部による積極経済政策の展開/政策転換による景気回復/20世紀末経済大停滞の原因を尋ねて
第2章 バブルはいかに発生したか
  バブルの生成・膨張の必要条件/なし崩し的に実施された金融自由化と銀行行動の変化/ 「テコの原理」 による株価の高騰/ 「土地担保主義」 が助長した地価高騰/なぜバブルと気付かなかったのか
第3章 バブルを助長した政策協調の欠如
  プラザ合意による円高容認/金融政策偏重の円高不況対策/円高差益還元に奔走した経験/米国による内需拡大要求/遅すぎた財政出動/日本の機関投資家が引き金を引いたブラックマンデー/遅すぎた公定歩合の引き上げ/大平・鈴木・中曾根内閣を貫ぬく財政再建路線/1990年度特例公債依存体質からの脱却/財政赤字の縮小と経常黒字の拡大/1980年代後半の政策目標とその優先度
第4章 「バブル崩壊」 以後の経済政策
  バブル崩壊/景気転換点の判断の誤り/ 「ガダルカナル戦」 にも似た政策の逐次投入/不良債権問題の系譜/株価下落で低下する銀行の対応力/資産価格の下落による金融システム不安が実体経済に及ぼす影響/早すぎた93年景気回復宣言/連立政権と財政再建/財政構造改革法
第5章 バブルの遠景 その1 高度成長の終わりの始まり
  昭和40年不況/昭和40年不況対策の後遺症/消費者物価の高騰と物価政策の登場/経済成長を加速した要因/国際競争力の強化/経済の効率化/高度成長の定着と終わりの始まり
第6章 バブルの遠景 その2 自己改革能力の喪失
  ニクソン・ショックと国際通貨体制の変動/通貨危機の背景と日本の対応/通貨危機へのシグナル/円切り上げの回避策/国際的開放と統制色の強まり/石油ショック・狂乱物価への対応/ 「新経済社会7カ年計画」 /第2次石油ショックへの対応/欧米諸国の内需拡大要求に呼応した中曾根内閣
第7章 バブル発生につながる価値観の形成
  「20世紀末日本型経済体制」 の形成/ 「20世紀末日本型経済体制」 の内容と機能/ 新しい価値観がもたらしたもの
第8章 経済的失敗の本質とその教訓
  国家・国民的目標の喪失/部分最適化政策の推進と中途半端な制度変更/状況判断の誤りと問題解決の先延ばし/政策優先度の選択の失敗/部分処理先行の失敗/戦略的構造改革の遅れ/戦略的土地対策の不在/情報伝達の遅れ/高度成長下で形成された意識・価値観が温床
第9章 日本経済のルネサンス
1 イノベーション力の強化
  イノベーションがもたらした高度経済成長/イノベーションの波及/新フロンティアの開拓を
2 日本経済社会の多元化
  「日本経済再建の基本問題」 /異なる価値観の並立/よき反対者に恵まれること
3 戦略策定部門の創設
4 情報伝達ルートの確保
5 分権的地域構造の形成
  注
あとがき
塩谷英(しおや たかふさ)
1941年生まれ.東京大学法学部(公法コース,私法コース)卒業.1966年経済企画庁入庁.経済企画庁各局のほか,環境庁,国土庁,ジェトロ(ニューヨーク),通商産業省等に勤務.国土庁計画・調整局長,経済企画庁調整局長を経て,1998年に経済企画事務次官.経済企画庁顧問を経て,NIRA(総合研究開発機構)理事長(2000-06年).早稲田大学大学院アジア太平洋研究科客員教授(2003-05年).現在,国際日本文化研究センター運営会議委員,日本経済教育センター副会長.

書評情報

日本経済新聞(夕刊) 2007年11月21日
日本経済新聞(朝刊) 2007年11月21日
ESP 2007年10月号
週刊エコノミスト 2007年9月25日号
読売新聞(朝刊) 2007年9月9日
朝日新聞(朝刊) 2007年8月19日
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