経済危機と学問の危機

いま何が問われているのか.6人のオピニオン・リーダーが叡智を結集し,日本の選択について考察する.

経済危機と学問の危機
著者 宮本 憲一 , 内橋 克人 , 間宮 陽介 , 吉川 洋 , 大沢 真理 , 神野 直彦
ジャンル 書籍 > 単行本 > 経済
刊行日 2004/03/25
ISBN 9784000227391
Cコード 0033
体裁 B6 ・ 並製 ・ カバー ・ 262頁
在庫 品切れ
好評を博した,延べ5時間に及ぶ白熱の「岩波書店創業90年記念シンポジウム」の記録に,書下ろし論考を加え,日本が直面する二つの大きな課題―経済問題と教育問題―について,6人のオピニオン・リーダーが考察.人間生活の様々な局面で荒廃が進み,先行きについての不安感が募り行く今,教育のあり方を含めて問題解決のための新しい知の枠組みが求められている.直面する二つの緊急の課題に即して叡智を結集し,21世紀日本の選択について考える.

■著者からのメッセージ

(前略)
 人々が経済危機を眼前にして恐怖に打ち震えているのは,経済危機から脱出するための海図が準備されていないからである.経済学の使命は,こうした経済危機から脱出するための海図を描くことにこそある.ところが,現在の経済学は経済危機の解決に対して,まったく無力であり,経済危機から脱出する海図を描くという学問的使命を放棄してしまっている.
 経済学の学問的危機は,経済危機よりも深刻である.既存の経済学は経済危機からの挑戦状を叩き付けられ,学問的使命を果していないにもかかわらず,慌てふためき狼狽しているわけではないからである.というよりも,既存の経済学は,この世をば我が世とぞ思い,栄華の夢に耽っている.
 経済学は社会現象の科学的法則「知」を確立した社会科学として君臨していると認識されている.そのため既存の経済学のメイン・ストリームは,経済理論に現実世界が忠実であれば,現実経済も繁栄するのに,経済理論に背反する不遜な圧力が加えられているから,経済危機という異常現象が生じると考えている.
 既存の経済学のメイン・ストリームによれば,現在の経済危機は,政治システムが傲慢にも,市場経済に差し出口を挿んでいるからだということになる.そこで「官から民へ」あるいは「民でできることは民で」を合言葉に,経済システムを「市場の神」に委ねる構造改革が断行されていく.
 ところが,規制緩和や民営化を目指して構造改革を断行すればするほど,経済危機は深刻化していく.そうなると「市場の神」の御告げを伝える神子だと称するエコノミスト達が,経済危機が深刻化するのは,「市場の神」への信仰心が不足しているからだと騒ぎたてる.「市場の神」は怒り,より多くの「痛み」という生け贄を所望されている.そのため経済システムだけではなく,政治システムや社会システムにも市場のメカニズムが導入されていくことになる.
 こうして「強者は強者として,弱者は弱者として生きる」ことを強制する市場のメカニズムが野放図に,あらゆる社会の領域に浸透していくと,社会秩序に亀裂が走る.つまり,凶悪化していく異常な犯罪の増加,蔓延する麻薬,自己が自己の生命を奪う悲惨な自殺など人間の絆の喪失による社会的病理現象が生じてしまう.
(後略)
(神野直彦「序章 経済危機と学問の危機」より
はじめに
  序章 経済危機と学問の危機  神野直彦
第I部 報告
  共同社会的条件の政治経済学――Sustainable Societyのために  宮本憲一
  若く,新しい「経済学」に期待する  内橋克人
  自由の自己運動は可能か  間宮陽介
  ケインズとシュンペーターの統合  吉川 洋
  ジェンダー視点で人間の経済を  大沢真理
第II部 シンポジウム 市場は万能か



第III部 新しい経済学のパラダイムを求めて
  都市再生と大学改革を検討する  宮本憲一
  「学問の危機」  内橋克人
  学問の危機と大学  間宮陽介
  現代マクロ経済学の課題  吉川 洋
  「ジェンダー」を無視し,「男性稼ぎ主」型に囚われつづけるのか  大沢真理
  危機と責任――まとめにかえて  神野直彦

書評情報

ESP 2004年12月号
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