生き延びるための思想

ジェンダー平等の罠

「男なみ」をめざすことで袋小路に入り込んでしまったフェミニズムの思想的陥穽を衝く刺激的問題提起

生き延びるための思想
著者 上野 千鶴子
ジャンル 書籍 > 単行本 > 社会
刊行日 2006/02/07
ISBN 9784000221511
Cコード 0036
体裁 四六 ・ 上製 ・ カバー ・ 292頁
在庫 品切れ
「男なみ」をめざすことで袋小路に入り込んでしまったフェミニズムの思想的な落し穴を指摘し,国家暴力と対抗暴力とを問わず,男仕立ての「死ぬための思想」を根源的に批判.「暴力」に抗して人間らしく生きるために,今何が問われているのかを明晰に論じる.上野の多彩な活動を結節する思想的な核を浮彫りにする重要な一冊,


■編集部からのメッセージ
 あらゆる領域で男女共同参画が実現することがフェミニズムの究極のゴールなのか.もしもそうであるとするならば,戦闘行為への女性の参加も積極的に推し進められるべきことなのか.本書は,湾岸戦争や「イラク戦争」を通してクローズアップされてきた女性兵士の問題を手がかりにしつつ,女性と暴力・権力の関係について考察します.人権,市民権という近代国家の「権利概念」の本質を問うことなく,女の「男なみ」化を主張するリベラル・フェミニズムの思想的な限界を厳しく批判.「国家暴力」の問題とあわせて,「連合赤軍」をはじめとするこれまで死角となってきた「対抗暴力」の問題にまで射程をのばし,差別のなかの暴力の連鎖構造と「被害と加害の二重性」を浮彫りにします.「命よりも大事なもの」という男仕立ての「死ぬための思想」を根源的に批判し,人間らしく生きるために今何が問われているのかを明確に論じます.
 フェミニズム論からスタートした著者の問題関心は,問題意識の深まりとともに,前著『ナショナリズムとジェンダー』に見られるような国民国家論的議論から,介護問題や福祉論に至るまで幅広い領域をカバーするものとなっていますが,近年の著述を集成し思考の展開がたどれるよう編集された本書は,そうした多彩な活動を展開する著者の問題意識が一点に凝縮し結節するものとなっています.フェミニズム思想の豊饒を理解するうえで欠かせない問題提起といえるでしょう.
はじめに――あげた手をおろす

第 I 部
一 市民権とジェンダー――公私の領域の解体と再編――
二 女性兵士の構築
三 対抗暴力とジェンダー
四 「プライバシー」の解体――私的暴力と公的暴力の共依存をめぐって――

第II部
五 記憶の語り直し方
六 「民族」か「ジェンダー」か?――強いられた対立――
七 ナショナリズムを超える思想
八 「国民国家」論の功と罪――ポスト国民国家の時代に「国境の越え方」を再読する――
九 銃後史という思想
十 アジア女性基金の歴史的総括のために

[補論]生き延びるための思想

参考文献
初出一覧
あとがき
上野 千鶴子(うえの ちずこ)
社会学者.1948年富山県生まれ.京都大学大学院博士課程修了.現在,東京大学大学院人文社会系研究科教授.
『家父長制と資本制――マルクス主義フェミニズムの地平』『近代家族の成立と終焉』『差異の政治学』(以上,岩波書店),『ナショナリズムとジェンダー』(青土社),『〈私〉探しゲーム』(筑摩書房),『ミッドナイトコール』(朝日新聞社),『老いる準備』(学陽書房),共(編)著『ことばは届くか』『当事者主権』『岩波女性学事典』(以上,岩波書店),『主婦論争を読む』(勁草書房)など,著作多数.

書評情報

朝日新聞(朝刊) 2006年3月26日
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