親の仕事と子どものホンネ

お金をとるか,時間をとるか

子どもは親の働き方を,一体どう見ているのか? 日々悩む,すべての働く親に送る.豪州からの報告.

親の仕事と子どものホンネ
著者 バーバラ・ポーコック , 中里 英樹 , 市井 礼奈
ジャンル 書籍 > 単行本 > 社会
刊行日 2010/12/22
ISBN 9784000224093
Cコード 0036
体裁 四六 ・ 並製 ・ 262頁
在庫 品切れ
運動会の当日にどうしても外せない出張.ミスして帰宅して八つ当たり.重要な会議の日に限って子どもが少々発熱…….みんなが悩み,日々,天秤にかけながら,働いている.そして,その罪悪感を容赦なく襲うコマーシャリズム.働く親をみる子どもの本音を丹念に拾ったオーストラリアの報告と政策提言.子どもも親も,蝕まれている!

■著者からのメッセージ

 仕事がさらに重要になり,個々の家族の力が限定され,弱まっていく状況では,子どもを苦しめたくなければ,そして貧しい子どもをさらに苦しめたくなければ,働く人を支えるためにもっと多くのことをしなければならない.公正や公平,そして持続性という価値が,看板だけで終わらないためには,生活に対する新たな公的な支えが不可欠である.そのような公的な包容力の再生は,将来の経済成長と社会的結合にとって欠かすことができない.まず子どもを第一におき,保育者を重視し,費用と効果を公平に分け合い,市場がうまくいかないところではそれを操作し,希望と実際の間の調和を容易にし,そして豊かなものと貧しいもの,更に女性と男性の間の平等性を高めていかなければならない.

■訳者からのメッセージ

 著者ポーコックは,市場原理優先の労働政策や家族政策を批判する著作やメディアでの発言によって,当時野党であった労働党の政策立案に大きな影響力を持った.ワーク・ライフ・バランス施策を検討する議会の委員会に労働党委員によって証人として招かれていたことは,その一つの証左といえる.
 本書はその著者が,問題の労働法を前政権が導入した二〇〇六年に出版した単著である.
 したがって本書は,経済成長最優先の新自由主義に「No」の声を突きつけ,新たな政権に未来をゆだねた国の人たちの仕事と家族に関する問題意識と処方箋を示すものであり,国民を新たな選択に導くことに貢献した著作の一つとみることができる.その後日本も,オーストラリアと同様の問題点が取り上げられ,政権交代に結びついたともいえるが,長引く不況や円高への対策などが最大の関心事となり,働き方と家族や生活という問題は二次的な関心事となるようだ.
 ここで改めて,本書が取り上げた論点を考えることは,日本の読者にとっても意味のあることだろう.
 翻訳にあたって

第1章 序論
第2章 世帯と仕事と社会的再生産の分析枠組み
第3章 仕事,子ども――時間とお金のせめぎ合い
第4章 仕事の波及効果――親の仕事は子どもにどのような影響を与えるか
第5章 罪悪感,お金,市場
第6章 将来の仕事と家庭――変容と対等な分担
第7章 商品としての子ども――オーストラリアにおける保育
第8章 若者のとめどない消費,労働と消費のサイクル
第9章 子どもと仕事と持続可能な未来

 訳者あとがき
バーバラ・ポーコック(Barbara Pocock)
南オーストラリア大学ワーク・アンド・ライフ研究センター所長.専門は仕事・雇用・労使関係など.97年にジェンダー研究でアデレート大学にて博士号取得. 著作にLiving Low Paid: The Dark Side of Prosperous Australia (共著, Allen & Unwin ) The Work/Life Collision: What Work is Doing to Australians and What to Do about It(Federation press)など.
中里 英樹(なかざと ひでき)
甲南大学文学部教授.社会学(家族・ジェンダー・労働・人口).
京都大学大学院文学研究科博士後期課程研究指導認定退学(社会学専攻). 松阪大学政策学部助教授, 甲南大学文学部社会学科助教授(准教授)などを経て,現職. 著書に『論点ハンドブック 家族社会学』(共著, 世界思想社), 『育てることの困難』(共著,人文書院), 『近代日本文化論8 女の文化』 (共著, 岩波書店)など.
市井 礼奈(いちい れいな)
お茶の水女子大学ジェンダー研究センター客員研究員. 南オーストラリア大学にて博士号取得(経済学). お茶の水女子大学ジェンダー研究センター専任講師. 南オーストラリア大学ワーク・アンド・ライフ研究センター研究員等を経て,現職. 著書・論文に Gender Responsive Budgeting in Education(UNESCO) , 「東北アジアにおけるジェンダー予算の動向:日本,韓国,台湾を事例として」(共著, 『アジア女性研究』第18号)など.

書評情報

週刊朝日 2011年3月4日号
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