組織ジャーナリズムの敗北

続・NHKと朝日新聞

朝日の報道に端を発した二大組織の「大喧嘩」.その教訓とは何なのか.膨大な資料や取材から徹底検証する.

組織ジャーナリズムの敗北
著者 川﨑 泰資 , 柴田 鉄治
ジャンル 書籍 > 単行本 > 社会
刊行日 2008/02/26
ISBN 9784000237178
Cコード 0036
体裁 四六 ・ 並製 ・ 218頁
在庫 品切れ
2005年1月,朝日新聞がNHKの番組の改変には政治家が関与していたという記事を掲載,そこから二大組織の「大喧嘩」に発展した.そこで問われたことは何だったのか.膨大な資料や取材に基づき徹底検証し直し,日本の組織ジャーナリズムの抱えている問題に迫る.権力に対して物言える,健全なジャーナリズム再生のための道筋とは?

■著者からのメッセージ

NHKは橋本前会長が任期の最終日,わずか数時間の差で辞表を受理され引責辞任の引導を渡された.同僚の特ダネをニュース原稿処理の端末で放送前に知り,株の売買をして利益を得たというインサイダー取引をした職員が三人も出るという組織の劣化の果てだ.
 本書のメインテーマ,「番組改変」に関する経緯と,「政治家の意図を過剰に忖度」したという高裁判決も無視し,政治介入を否定し続けるNHK当局.裁判の証人尋問で番組改変と介入の実態を訴えた二人の番組制作者の勇気ある告発に弁護団の飯田正剛弁護士が「よくあそこまで言ってくれたと尋問しながら感動した.二人はジャーナリズムとしてのNHKを変えなければという本当の良心に従って行動した」と激賞した言葉の差は大きい.NHK再生の鍵はこの言葉の中にある.

■著者からのメッセージ

基本的には正しかったスクープ記事を,僅かな「詰めの甘さ」を理由に全面的に謝ってしまう――日本を代表する新聞がそんなことでいいのか.そんな姿勢で権力と闘えるのか.「朝日新聞よ,しっかりせよ!」と叫ばずにはいられない.
 日本はいま,自衛隊の海外派遣だ,有事法制だとキナ臭くなるなか,再び個人より国家を優位に置く戦前のような社会を目指す動きがとうとうと進んでいる.そんな時期だけに,ジャーナリズムにはひときわがんばってもらわねばならないのだ.
 NHKも朝日新聞も目を覚ませ! 戦前のように,組織を守るために権力に擦り寄ることは絶対にするな.筆を曲げるくらいなら筆を折るくらいの気概を持て!
(柴田鉄治)
序章 「NHKvs朝日」問題の再検討がなぜ必要なのか

なぜ組織ジャーナリズムを問うのか/なぜNHKと朝日新聞なのか/「NHKvs朝日」問題の再検証がなぜ必要なのか/この本を読んでくださる方へ



第1章 政治介入と「番組改変」の真実
――2001年1月,何が起こったのか

1 女性国際戦犯法廷開催と番組の制作
  企画から編集までのプロセス/ドキュメンタリージャパンがロケ開始/NHK内部で亀裂が表面化/ついにDJが編集から離脱
  2 番組制作の修羅場
    予算説明と番組制作/26日,前代未聞の試写/右翼の乱入,不吉な予感
  3 暗転――放送前日,1月29日
    一転,幹部が前言を翻す/制作現場とNHK経営の決裂/改変の具体的指示
  4 「政治介入」の現場
    NHK幹部,安倍氏ら政治家と面談/放送当日の惨劇――闇のなかの海老沢会長と伊東局長の密談/現場の最後の諫め



第2章 腰砕けになった朝日新聞――なぜひるんだのか

1 激突から朝日の「敗北」へ?
  何が起こり,どうなったのか/発端の記事とNHKの内部告発/両者譲らず,非難の応酬/トーンダウンから謝罪へ
  2 ひるんだ理由・「左翼偏向」攻撃
    政治家,メディアによる「朝日はアカ」の大合唱/社会の「右傾化」と朝日の「孤立化」/「白虹事件」の影?/少数意見尊重はジャーナリズムの原点
  3 ひるんだ理由・録音テープ
    「録音の有無」を逆手に取ったNHK/「辰濃記者事件」のトラウマ/「沖縄密約事件」の影にもおびえた?
  4 ひるんだ理由・取材資料流出事件
    『月刊現代』の魚住論文/「松尾証言」の核心部分/中川,安倍両氏のウソを暴く/対応のおかしさ,あらためて浮き彫りに
  5 不可解な第三者委員会への諮問
    なぜ,朝日新聞側だけが……/結論の報じ方も不可解だった!/どうすればよかったのか



第3章 他メディアはどう報じたか

1 政治家の主張に同調したテレビ,雑誌
  お寒い日本のメディア状況が浮き彫りに/安倍氏の「フジテレビ介入事件」も
  2 新聞は例によって「2極分化」
    読売,産経は「戦犯法廷を取り上げたこと自体が誤り」と/読売新聞主筆の驚くべき論評/不可解な毎日新聞の社説/「世界の注目,日本の沈黙」
  3 核心を衝いた高裁判決
    内部告発で審理をやり直す/「政治家の意図を過剰に忖度して」/高裁判決に対する報道にもさまざまな「歪み」/報道の自由と取材される側の「期待権」



第4章 ここまで来ていた組織の劣化

1 朝日新聞の場合
  新聞社にあるまじき「武富士事件」/箱島社長の「普通の会社」宣言と社内言論の封殺/「厳罰主義」と不祥事続発の悪循環/遡れば「サンゴ事件」「花田事件」/「秋山体制」への期待と懸念
  2 NHKの場合
    組織劣化の原点と拡大化路線/労働組合の劣化/組織に問われる忠誠とは何か/海老沢会長なき後の海老沢体制



第5章 迷走する放送改革・進まない新聞改革

1 迷走するNHK改革――公共放送論議の欠如
  泥縄の「NHK新生プラン」と「新経営計画」/NHK改革案の乱立/放送法改正と言論・表現の自由/受信料支払い義務化,値下げと次期経営五年計画/地デジ強行と格差問題――貧乏人はテレビを見るな?
  2 深刻な危機のなか進まない新聞改革
    朝日・読売・日経の「3社連合」って何?/販売拡張競争の闇/新聞は,「破綻したビジネスモデル」か?/記者クラブからの離脱はできるか/テレビ局の系列化はやめるべき



第6章 政治権力と組織ジャーナリズム

1 政府の歴史認識の変遷をたどる
  「河野談話」「村山談話」と政権/政府の歴史認識に抵抗する動き
  2 安倍政権とメディア
    闘う安倍首相に怯えたメディア/危険な体質を見逃したメディア/タブーの増大と臆病なメディア
  3 メディアが報じないこと
    小泉・安倍政権に迎合したメディア/ポスト小泉・安倍政権とジャーナリズム



終章 メディアは,なぜここまで蝕まれたのか

社会の劣化/歴史は繰り返す――NHK会長人事の波乱/どうなる最高裁の判決/「個の志」を「組織」がつぶすな


あとがき
川﨑泰資(かわさき やすし)
1934年生まれ.東京大学文学部卒業.
NHK政治部,ボン支局長,放送文化研究所主任研究員,甲府放送局長,会長室審議委員等を経て,2005年3月まで椙山女学園大学教授.現在は,学校法人椙山女学園理事,参与.
著書『NHKと政治』,『ジャーナリズムの原点』(共著),『検証日本の組織ジャーナリズム』(共著)など.

柴田鉄治(しばた てつじ)
1935年生まれ.東京大学理学部卒業.朝日新聞社社会部,福島支局長,論説委員,科学部長,社会部長,出版局長,論説主幹代理,総研センター所長,朝日カルチャーセンター社長,国際基督教大学客員教授を歴任.著書『科学報道』,『科学事件』,『ジャーナリズムの原点』(共著),『新聞記者という仕事』,『検証日本の組織ジャーナリズム』(共著),『世界中を「南極」にしよう』など

書評情報

文化通信 2009年1月1日号
北海道新聞(朝刊) 2008年5月25日
読売新聞(夕刊) 2008年5月14日
図書新聞 2008年5月3日号
週刊読書人 2008年4月25日号
神奈川新聞 2008年3月23日
東京新聞(夕刊) 2008年3月22日
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