『図書』のメディア史

「教養主義」の広報戦略

この一〇月で再刊後八〇〇号を数える『図書』.PR誌の軌跡から「岩波文化」の現在を問うメディア史.

『図書』のメディア史
著者 佐藤 卓己
ジャンル 書籍 > 単行本 > 社会
刊行日 2015/10/29
ISBN 9784000610742
Cコード 0036
体裁 四六 ・ 並製 ・ カバー ・ 334頁
在庫 品切れ
戦中戦後に一時の中断をはさむとはいえ,一九三六年の『岩波書店新刊』発刊から七九年,この一〇月で再刊後八〇〇号を数える岩波書店のPR誌『図書』.「読書家の雑誌」には,激動の時代を生きた著者や数多くの読者の,書物と向き合った悦びと苦悩が刻まれている.「岩波文化」の変容をとおして,読書空間の現代を照らし出すメディア史の快作.

■編集部からのメッセージ

本書の著者である佐藤卓己さんは『物語 岩波書店百年史 2 「教育」の時代』の著者でもあります.佐藤さんはその執筆過程で多くの史料にふれることになりましたが,紙幅の関係で充分に論じることのできなかった点が数多くあったといいます.なかでもメディアとしての『図書』は,もっとも大きなテーマとして残されました.『百年史』では第3章第2節で,「「読書人」の雑誌の誕生」という見出しのもとに,その〈始まり〉を位置づけるのみにとどまっています.
 しかしながら,『百年史』本文中の随所で,多くの重要な論述の典拠に『図書』収録のエッセイや文化講演会の記録,さまざまな講座,シリーズについての「刊行のことば」や座談会,「岩波通信」「こぼればなし」が示されており,まさに『図書』は「岩波文化」をPRする,小社の重要なメディアであったことがわかります.
 戦中戦後の混乱期に一時の中断をはさむとはいえ,1936年の発刊から79年,戦後の再刊号である1949年11月号から数え2015年10月号で800号を迎える『図書』.本書は『図書』をメディア史の観点から位置づけるとともに,『百年史』ではふれることのできなかったトピックをも織り込んで描く,『図書』という窓をとおして見た,もうひとつの『百年史』ということができるでしょう.
 しかし,その歴史的検討から浮かび上がるのは,時代と切り結んできた一出版社の姿だけではありません.小社と関係をもった数多くの著者や読者の,そしてなによりも,彼らが対峙した時代そのものの姿でもあります.
 その意味で,本書は一出版社の,歴史あるPR誌の軌跡の検証にとどまるものではありません.佐藤さんのこれまでの多くの著作と同様,日本近代史のある一面をクリアに切り取った快作として,大きな反響を呼ぶことはまちがいありません.


■ 本文より

本書全体は『図書』を読み込むことで岩波書店における宣伝,ないし広報の戦略的意義を検討することになるが,創業者・岩波茂雄自身もその意義には自覚的であった.岩波は自らを「種蒔く人」,さらに「学問や識見や芸術を日本の社会に撒布普及させる配達夫であり撒水夫」と評し,教養主義の広報者を自認していた.だとすれば,岩波書店の編集と販売の,あるいは「教養」と「メディア」の有機的な結合を反映する雑誌として,『図書』の重要性は注目に値する.
佐藤卓己(さとう たくみ)
1960年広島市生まれ
1984年京都大学文学部史学科卒業
1987-89年ミュンヘン大学近代史研究所留学
1989年京都大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学
京都大学博士(文学).東京大学新聞研究所・社会情報研究所,国際日本文化研究センターを経て
現在―京都大学大学院教育学研究科教授
専攻―メディア史・大衆文化論
著書―『増補 大衆宣伝の神話――マルクスからヒトラーへのメディア史』(ちくま学芸文庫,2014年),『現代メディア史』(岩波書店,1998年),『『キング』の時代――国民大衆雑誌の公共性』(岩波書店,2002年,サントリー学芸賞受賞),『言論統制――情報官・鈴木庫三と教育の国防国家』(中公新書,2004年,吉田茂賞)

書評情報

産経新聞 2016年1月3日
毎日新聞(夕刊) 2015年12月8日
読売新聞(朝刊) 2015年12月7日
出版ニュース 2015年12月上旬号
信濃毎日新聞(朝刊) 2015年10月18日
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