未来世代への「戦争」が始まっている

ミナマタ・ベトナム・チェルノブイリ

原発事故,化学兵器などがもたらした未来世代の健康への継世代的影響を報告し,未来に向けて何をなすべき女性の視点で考察する.

未来世代への「戦争」が始まっている
著者 綿貫 礼子 , 吉田 由布子
ジャンル 書籍 > 単行本 > 社会
刊行日 2005/07/22
ISBN 9784000248518
Cコード 0036
体裁 B6 ・ 上製 ・ カバー ・ 280頁
在庫 品切れ
未曾有の大惨事となったチェルノブイリ原発事故,ベトナムでの化学兵器ダイオキシンの大量散布,ミナマタの公害病などによる環境汚染が,未来世代の健康に継世代的な影響をもたらしている.現地での子ども調査・研究をもとに悲惨な状況を報告し,未来に向けて私たちが何をすべきか女性の視点で考察する.

■著者からのメッセージ

海は,魚たちや私とも,私の子宮を通してわが子の身体ともつながっているんですね.」

ミナマタの母親の感性とその言葉は,“ベトナム戦争での化学兵器使用によるダイオキシンと戦後生まれの子どもたち”,“チェルノブイリ原発事故による放射能と事故後生まれの子どもたち”との関係性をも鋭く言い表している.汚染地域の子どもたちは,未来を身体に溶かし込んで生まれてくるのだ.


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未曾有の大惨事となったチェルノブイリ原発事故,ベトナム戦争での化学兵器使用,海の汚染によるミナマタ病の発生は,未来世代に継世代的な影響をもたらしている.エコロジーとフェミニズムの交差する視点で,汚染地域の子どもの健康をとらえた本書は,危機的な未来を照らし出している.
第一部 戦争と平和のはざまで
序 章 私たちの「未来への視線」
  “未来の毒”としての「兵器」/先駆的な研究者との出会い/チェルノブイリ事故と「環境ホルモン」/「環境ホルモン」の重大な意味
第1章 通時的に捉える「戦争」
    住民が「戦争勃発か」と感じたチェルノブイリ事故/リスク社会から降りよう!/未来世代に対する倫理/「共生」のおよぶ範囲
第2章 チェルノブイリの子ども世代は何を発信しているか
    「女性ネットワーク」走り出す/浮かび上がった疑問/「事故時の子ども」と「事故後生まれの子ども」/点と点をつないで「病」を捉えてみる/キエフの遺伝科学者たちとの討論から/子どもたちの発信していること

第二部 環境汚染地域の子どもたち
第3章 ミナマタ―いのちの鎖は切れやすい
    水俣の母親との会話から/先天性水俣病の発症クロノロジー/『水俣の科学』による謎解き/ヒバリガイモドキと海の汚染/水俣周辺住民の子どもたち/臍の緒研究の問いかけること/非典型の「先天性」について/母親の生殖健康について/生態系の内側に在る人間
第4章 チェルノブイリの子どもが示唆する人類の未来
I チェルノブイリ事故を取り巻く国際環境政治
    まずフィンランドへ飛ぶ/汚染の現場で考える/原発事故と国際政治/原子力利用推進のための国際的取り決め事項/チェルノブイリの初期(1986~89年)に起こったこと/廃炉への道探る/子どもの被害をめぐる科学論争続く
II 初期(80年代)から二期(90年代以降)へ―子どもの健康問題を追う
    事故から10年目の子どもの状況/15年目に向けた私たちの子ども研究視覚/国連機関の果たした役目/明るみに出たWHOの立場/トルストイの墓前で想う
第5章 「チェルノブイリ子ども国際会議」開催の意味を問う
    チェルノブイリの「子ども健康研究」の変遷/初の「子ども会議」2003年に開かれる/子どもの健康研究を現時点でどのように捉えたか/懸念を深める新たな子どもの健康問題/「子ども会議」の議長ニャーグさんと語り合う
第6章 チェルノブイリの子どもは未来を照らし出している
    「100年の子ども」を射程にいれて/2004年までの「子ども健康調査」について/私たちの提言―子どもの健康研究パラダイムについて/私たちの提言・考察への反応/近未来世代研究の今後のアプローチ/南ウラル核施設女性労働者の子孫研究は“不可逆性”を示唆/チェルノブイリの子どもは「未来」を照らし出している
第7章 未来世代の「新しい病」
    遺伝の新しい考え方/遺伝子の発現を攪乱させる化学物質/放射線が引き起こす遺伝的(ゲノム)不安定性/「新しい病」の考察
第8章 ダイオキシン研究―ベトナムの子どもとセベソの子ども
    ダイオキシン研究との出会い/二つのダイオキシン環境汚染地域/NGO活動でセベソ研究は組み換えられた/ベトナム人の健康被害に関する初の「国際科学者会議」/「ベトナム―アメリカ科学会議」のゆくえ/ベトナム戦争の亡霊か?/女性の生殖健康をめぐり「セベソ」と「ベトナム」研究がはじめてつながる/世界的につながった「ダイオキシンと女性の生殖健康研究」/ダイオキシンと性比研究
第9章 ベトナム,「ダイオキシン裁判」で化学兵器製造企業を訴える
    ベトナム戦争における用語の欺瞞性について/ベトナム戦争で使用した化学兵器は国際法違反か?/WHOも警鐘を鳴らしていた/裁判が起こされるまでの背景/裁判のアウトライン/この裁判で原告たちは何を主張し,何を求めているか/なぜこの訴状はニューヨーク連邦裁判所に提出されたか/ダイオキシン被曝者の子や孫に見られる生殖健康の疫学調査/いま出産を迎える若い世代に現れているダイオキシンの影響/「ダイオキシン裁判」の意味すること/ベトナム側の訴え棄却される―人権を守る闘いはこれからも続く

第三部 私たちの希求する社会への模索
第10章 未来像を紡ぎ出すために
    日本のエコロジー観の草分け―南方熊楠/「文明の負荷」をめぐって―玉野井芳郎/『自然死』―マーチャントの女の視点から/「新しい市民社会」をめぐって/日本における平和研究の仲間たちと「草の根」を語る/私たちの「草の根」活動の視座/日本の草の根運動が「反原発」から「脱原発」へ歩みだした日/1998年,初の脱原発運動―日比谷公園に2万人/日本の原子力の状況―相次ぐ事故/報告書「低線量放射線リスク」は何を伝え,どう扱われたか/原子力にまつわる九つの「神話」/原子力の「安全神話」を打ち壊した警世の人―ロベルト・ユンク
第11章 生態学的倫理を問う
    科学技術社会はどのように変容してきたか/「人間そのものが技術の対象になった」/経済学における世代の倫理をめぐって―岩井克人との対話/未来への運動論と「予防原則」/ハンス・ヨナスの未来への倫理観から学ぶ/科学技術には使ってはならないものがある
第12章 私たちの希求する社会とは
    「不知火」の能で再生への祈り/Of Mice and Men?―生きとし生けるもの/倫理的規範としての“物差し”/「平和の概念」を捉えなおす/未来世代への「戦争」は始まっている/私たちの希求する未来社会とは/ふたたび,能「不知火」に事寄せて結びとする

あとがき
文献
綿貫礼子(わたぬき れいこ)
サイエンス・ライター,専門:環境学,平和研究,環境ホルモン,薬学.中国大連市生まれ.1955年東京薬科大学卒業,薬剤師,東京医科歯科大学医学部生化学科,その他で生化学分野の研究ワークを経て,1970年より環境汚染調査研究,平和研究にたずさわる.1990年より「チェルノブイリ被害調査・救援」女性ネットワーク代表,1997-2000年津田塾大学非常勤講師,主な著書:『生命系の危機』(社会思想社現代教養文庫),『胎児からの黙示』(世界書院),『リプロダクテイブ・ヘルスと環境』(共編,工作舎),『環境ホルモンとは何か I ,II』(共著,藤原書店),『地球環境と安全保障』(共編,有信堂)など
吉田由布子(よしだ ゆうこ)
熊本県生まれ.1976年千葉大学教育学部卒業.会社勤めのかたわら,1990年より「チェルノブイリ被害調査・救援」女性ネットワーク事務局を担当し,現在,同事務局長.また,NGO「エコロジーと女性」ネットワークの事務局として,環境ホルモン,ホルモン剤等の問題にも取り組む.著書に『誕生前の死―小児ガンを追う女たちの目』(共編,藤原書店),『ピルの危険な話』(共著,東京書籍)など

書評情報

クロスロード 2006年3月号
毎日新聞(朝刊) 2005年10月27日
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