フツーの子の思春期

心理療法の現場から

「別に,フツーです」を連発する彼らの生きている世界は? さまざまなケースから,今どきの思春期の謎に迫る.

フツーの子の思春期
著者 岩宮 恵子
ジャンル 書籍 > 単行本 > 教育
刊行日 2009/04/24
ISBN 9784000246491
Cコード 0037
体裁 四六 ・ 並製 ・ カバー ・ 228頁
在庫 品切れ
学校で,家庭で,以前の「普通の子」の常識が当てはまらない子たちの行動が目立ってきている? でも,「今どきの子はわからない」と断定しないで,友人関係,はまっているアイドル,小説など,彼らの生活をつぶさに見つめてみると…….デビュー作『生きづらい子どもたち』が高い評価を集めた著者の,待望の書き下ろし.

■著者からのメッセージ

 今までの著作である,『生きにくい子どもたち――カウンセリング日誌から』では,厳しい拒食の症状に苦しむ少女の回復経過について考え,『思春期をめぐる冒険――心理療法と村上春樹の世界』では,思春期の子どもの理解のために深く自分の心に向かい合っていく母親の真摯な取り組みを,村上春樹の小説での世界との関連のなかで論じてきた.これはどちらも,自分にとってもっともなじみ深い心理療法の視点から,心の深層で起こっていることについて考えたものだった.しかし今回,この本では,それとはまったく違う視点から思春期について考えることになった.
 今までの本では,クライエントの自分についての深い語りからの発見やイメージ表現を通じて,「深層」で動きだした力が現実への変化に繋がっていくプロセスについて考えていた.しかし今回は「表層」でのエピソードにとことん注目することで見えてくるものを中心に考えてみたのである.何せ,「深層」に至らない…いや,もしかしたら「深層」などという内面がないのではないかと思わされるような思春期の子たちともこれから会い続けるためには,このようなことを考える必要を感じたのである.
 思春期がある種の迷宮に入り込む時期であるのはいつの時代も変わらないが,トラッドな「ふつう」の思春期と今どきの「フツー」の思春期の迷宮の違いについて,ここで一度立ち止まって考えておくことが,これからの自分の臨床を考えるうえで切実に必要だったのである.
 「ふつう」と「フツー」について考えていくと,まったく違う部分もあるが,不思議な交錯もあり,迷宮の構造がとても似ているところもある.それについて正確な考察ができたわけではないが,今の時点で心理療法の現場から見えてきたものの記録として,荒削りのままではあるが,世に問うてみることにした.読者の方々が,「へえ,こんなこともあるのか」とか,「ああ,そうそう! こういうことってある!」とか,「そうか.困っていたのは,自分だけじゃなかったんだ」と感じていただけたら,それだけでもささやかな意味があるのではないかと思う.そして,そこから新たな思春期理解への可能性が拓けてくることを切に願っている.
(「あとがき」より)
 はじめに
1 「ふつうの子」と「フツーの子」
 1-1 「ふつうの子」がふつうじゃない!?
  牛乳爆弾の犯人/定石的アプローチが通じない展開/子どもの問題行動を「なかったことにする」/「ふつう」と「個性的」/フツーの子の思春期の迷宮
 1-2 子どもをとりまく環境
  「全部買ってくれ!」/何かこの日は違う気持ち/本気が欲しい/物(もの)との距離どり/「何でもいい.勝手に決めて」/生き方の選択肢の多さ/友だちができない子ども/子どもたちの暴走/あのときのもやもや/「ちゃんと言葉にして言いなさい」/なんだかぐにょぐにょした子/子どもたちの集団コミュニケーション/子どもは何に影響されているのか/「いじる」と「いじめる」
2 女の子たちの思春期
 2-1 こころの影
  お母さんの秘密/「すごくびみょ~な感じ」
 2-2 ネットのなかの影
  あるきっかけ/「学校に来る意味がない…」/学校内でのカースト制度/グループ以外は「他人」/ネット掲示板に書かれた悪口/「もう二度と学校に行けなくなる」/新たな展開/重くなる「個人のつながり」
 2-3 影のない友人関係
  友だちの「解散式」/「ふつうの子」の苦しみ
3 思春期とイメージ
 3-1 大人にとっての思春期の意味
  「冬ソナ」ブームと思春期/思春期の記憶/解離のある日常/冬ソナの物語/初恋の裏側の死/ポラリスとしてのユジン/思春期とつながり直す
 3-2 思春期とジャニーズ
  面接室で語られる「ジャニーズ」/伝える努力をしない子たち/同じ「担当」だと友だちになれない/「他の人に知られたくなかったのに」/内面のプロセスへの回路/外から内へのムーブメント/悩みのない相談室登校/誰とでもうまく合わせられる/「あの人たちは,痛みを知らない」/主体が生まれる兆しとジャニーズ語り
4 思春期と超越体験
 4-1 思春期と異界
  問いの始まり/異界と日常をつなぐ回路/『祈祷師の娘』の血のつながり/「超越」に開かれない自分/「自分」を歩み始める/思春期と家族の器/思春期における異質性と異能性/芸能界デビューを夢見る/揺らぐ日常/ふつうの子の異界体験『ヒカルの碁』/導くもののイメージ――両性具有的な「佐為」/思春期と喪失/幻の『ドラえもん』最終話
 4-2 フツーの子と異界
  「困ってることは別にないけど」/「名前のついてるものは,なんだかうるさい」/圧倒的な存在と出会いたい/「もの(物質)」と「もの(魂)」/突飛な行動/Rくんの変化/見えない箱庭/聴いているもの/自分だけの記号
5 思春期と心理療法
  「フツー」の子を見る別の視点/「発達障害」という視点/日常を超える経験への渇望/主体が生まれる契機/心理療法と「中間的なエレメント」
 参考文献
 あとがき
岩宮恵子(いわみや けいこ)
1960年生まれ.臨床心理士.島根大学教育学部教授.教員や心理職をめざす学生たちに対して講座で教鞭をとる傍ら,スクールカウンセラーとして,思春期の子どもたちと対話を重ねている.小説だけでなく,漫画やアニメにも詳しい.目下の癒しは『海街diary』(吉田秋生)と『きのう何食べた?』(よしながふみ).著書に,『生きにくい子どもたち――カウンセリング日誌から』(岩波現代文庫),『思春期をめぐる冒険――心理療法と村上春樹の世界』(新潮文庫)など.

書評情報

朝日新聞(朝刊) 2012年1月8日
母の友 2009年9月号
こころの科学 147号(2009年9月号)
シティライフ 2009年8月号
教職課程 2009年7月号
読売新聞(夕刊) 2009年5月18日
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