再検討 教育機会の平等

いま,教育機会の格差・不平等の拡大が深刻だ.平等原理の大切さと平等のための条件を改めて考える.

再検討 教育機会の平等
著者 宮寺 晃夫
ジャンル 書籍 > 単行本 > 教育
刊行日 2011/08/09
ISBN 9784000225878
Cコード 0037
体裁 A5 ・ 並製 ・ カバー ・ 310頁
在庫 品切れ
経済格差と貧困の拡大に伴い,教育機会の格差・不平等も深刻になっている.しかし,そもそもなぜ平等であることが望ましいのだろう.そしてどのようにそれを実現するか.教育の費用,自由な選択,個性の尊重,能力や差別,多様性と人権等の難問に向き合い,「平等の理由」と「平等の条件」を理論・実践の両面から追究する.

■編者からのメッセージ


 あれほど盛んだった「学力格差」論議は,ここのところ,だいぶ落ち着いてきたようにみえます.議論の鎮静化をもたらしたのは,平成21年度版『文部科学白書』だったように思います.『白書』で,文科省自身が,「経済格差と教育格差の関係」を認めたのです.学力格差の発生源が,社会全体を蝕んでいる経済格差にあることを認めたのです.それとともに,教育だけでは解決できない大きな社会問題を浮かび上がらせました.本書が,「教育機会の平等」の再検討に着手したのも,この問題と立ち向かうためです.
 それにしても,なぜ自由ではなく平等なのでしょうか.
 本書は,自由の価値を軽くみてはいません.平等優先主義を唱えてもいません.親と子どもが,教育機会を自由に取得していく権利を尊重しながらも,自由と自由がぶつかり合うなかで,権利が平等に保障されていない状況を,問題にしたいのです.そこで本書は,「平等の理由」を探り,「平等の条件」を明らかにしていくことにしたのです.
宮寺晃夫
序論    なぜ「教育機会の平等」の再検討なのか――市場社会と教育機会 宮寺晃夫
第一章   「奪われなさ」と平等原理――社会からみた機会の不平等 佐藤俊樹
第二章   教育費のエコノミックスとポリティックス――人的資本・ネットワーク外部性・信用取引 稲葉振一郎
第三章   学校から仕事への移行期変容――新たな不平等構造の出現と「移行期」の学習保障 乾彰夫
第四章   「共生・共育」のなかで「教育機会の平等」を考える 篠原睦治
第五章   個性化教育の可能性――愛知県東浦町の教育実践の系譜から 森直人
第六章   教育機会の平等――中国教育改革の挑戦 労凱声
第七章   在日外国人の子どもの教育機会――日系ブラジル人を中心に 小内透
第八章   人種格差社会アメリカにおける教育機会の平等――ポスト公民権運動期の黒人の教育権 中村雅子
第九章   「熟議民主主義」は何をもたらすか――多様性と統合の綱引き 平井悠介
第一〇章 能力にもとづく選抜のあいまいさと恣意性――メリトクラシーは到来していない 広田照幸
第一一章 「教育機会の平等」の復権――子どもの学校を親が決めてよいのか 宮寺晃夫
宮寺晃夫(みやでら あきお) *編者
1942年生まれ.筑波学院大学経営情報学部教授,筑波大学名誉教授.
教育哲学.著書に,『教育の分配論――公正な能力開発とは何か』,『リベラリズムの教育哲学――多様性と選択』(以上,勁草書房)など.
佐藤俊樹(さとう としき)
1963年生まれ.東京大学大学院総合文化研究科教授.
比較社会学,日本社会論.著書に,『格差ゲームの時代』(中公文庫),『意味とシステム』(勁草書房),『社会学の方法』(ミネルヴァ書房,近刊)など.
稲葉振一郎(いなば しんいちろう)
1963年生まれ.明治学院大学社会学部教授.
社会倫理学.著書に,『社会学入門――〈多元化する時代〉をどう捉えるか』(NHKブックス),『増補 経済学という教養』(ちくま文庫)など.
乾 彰夫(いぬい あきお)
1950年生まれ.首都大学東京教授.
教育学,中等教育論,学校から仕事への移行研究.著書に,『〈学校から仕事へ〉の変容と若者たち――個人化・アイデンティティ・コミュニティ』(青木書店),『不安定を生きる若者たち――日英比較フリーター・ニート・失業』(編著,大月書店)など.
篠原睦治(しのはら むつはる)
1938年生まれ.和光大学名誉教授.
臨床心理学,障害児・者問題.著書に,『関係の原像を描く――「障害」元学生との対話を重ねて』(編著),『脳死・臓器移植,何が問題か――「死ぬ権利と生命の価値」論を軸に』(以上,現代書館)など.
森 直人(もり なおと)
1970年生まれ.筑波大学大学院人文社会科学研究科准教授.
社会学,社会階層論.主な論文に,「「総中流の思想」とは何だったのか――「中」意識の原点をさぐる」(『思想地図』vol.2,NHKブックス別巻),「家計からみた近代日本の階層文化と教育戦略」(『季刊家計経済研究』第77号)など.
労凱声(Lao Kaisheng)
1948年生まれ.首都師範大学(中国・北京)教育科学学院主席専家教授.
教育学,教育法学.著書に,『変革社会中的教育権与受教育権』(中国・教育科学出版社)など.共編著に,『日中教育学対話 Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ』(春風社).
小内 透(おない とおる)
1955年生まれ.北海道大学大学院教育学研究院教授.
教育社会学.著書に,『在日ブラジル人の教育と保育の変容』(編著,御茶の水書房),『教育と不平等の社会理論――再生産論をこえて』(東信堂)など.
中村雅子(なかむら まさこ)
1954年生まれ.桜美林大学心理・教育学系教授.
教育学,教育史.著書に,『アメリカ史研究入門』(共著,有賀夏紀・紀平英作・油井大三郎編,山川出版社),『アメリカニズムと「人種」』(共著,川島正樹編,名古屋大学出版会)など.
平井悠介(ひらい ゆうすけ)
1978年生まれ.鎌倉女子大学児童学部専任講師.
教育哲学.主な論文に,「教育における国家的統合と価値としての政治的平等――1990年代アメリカのリベラル派の市民教育理論に焦点を当てて」(『教育学研究』第74巻第4号),「教育に対する国家関与と親の教育権限――エイミー・ガットマンの「討議的民主主義」理論の視点から」(『教育哲学研究』第90号)など.
広田照幸(ひろた てるゆき)
1959年生まれ.日本大学文理学部教授.
教育社会学.著書に,『ヒューマニティーズ 教育学』(岩波書店),『格差・秩序不安と教育』(世織書房),『自由への問い5 教育』(編著,岩波書店)など.
楊 奕(Yang Yi)
同志社大学社会学部教育文化学科准教授.教育学.

書評情報

読売新聞(朝刊) 2011年9月17日
朝日新聞(朝刊) 2011年9月11日
ページトップへ戻る