精神を切る手術

脳に分け入る科学の歴史

「精神外科」は「過去のあやまち」にすぎないのか.歴史から考える,刺激的な脳科学論.

精神を切る手術
著者 橳島 次郎
ジャンル 書籍 > 単行本 > 自然科学総記
刊行日 2012/05/23
ISBN 9784000258432
Cコード 0040
体裁 四六 ・ 上製 ・ 226頁
在庫 品切れ
脳の中を切るロボトミーなどの精神外科は,非人道的な手術として,日本では封印された.しかしそれは,「過去のあやまち」として片付けてよいものではなく,現代の脳科学の研究・臨床とさまざまな形で関わっているのではないか.「精神を切る手術」の歴史から考える,刺激的な脳科学論.


■著者からのメッセージ
 精神医療の専門家ではない私が,脳を切って精神疾患を治そうとする試み=「精神外科」について本を書くことになったのは,脳科学の研究と応用がもたらす問題について考えたかったからです.
 人の精神の活動がどのように実現するか知るために,脳に分け入ることはどこまで許されるでしょうか.この問題を考えるために私は,人間の脳に一番ひどいことをした例とされる精神外科について知ることから始めようと思い立ちました.何が許されないか,最も極端な例から学ぼうとしたのです.
 そこで精神外科の歴史を調べてみると,その時々の脳研究の進展と様々な関わりをもっていることがわかりました.ロボトミーのような手探りで大きく脳を切る手術は行なわれなくなりましたが,脳内の一点をピンポイントで切ったり電気刺激したりする手術が,今も海外では難治性の精神疾患を治す最後の手段として行なわれていることも知りました.医学的にも倫理的にも,黒か白かを断じるのは難しいことを思い知らされました.
 精神外科について欧米では再検証が重ねられていますが,日本では全否定された末に忘れ去られようとしています.この本では,誤って伝えられることも多い精神外科の歴史と脳研究との関わりについて,私が知りえたかぎりのことを書きました.専門の方だけでなく,人の脳の不可思議さに思いを寄せる多くの方にお読みいただければ,著者としてこの上ない喜びです.
序章 なぜ「精神を切る手術」か――脳の科学と臨床の関係を考えるために

第1章 「偉大で絶望的な治療」――欧米での精神外科の発端と展開
 1 創始者モニスと伝道者フリーマン
 2 様々な代替法の開発――消えた流れと今につながる流れ
 3 退潮と非難を超えて――生き残った精神外科

第2章 封印された過去――日本の精神外科の歴史
 1 ロボトミーの始まりと広まり
 2 ロボトミーに代わる術式の展開――戦後日本の脳外科,神経科の動向との関わり
 3 学会による否定決議とタブーの定着

第3章 脳への介入の「根拠」と「成果」――脳科学と精神外科の相互交渉
 1 ロボトミーは前頭葉への注目で始まった――勃興期の精神外科と脳神経回路説
 2 記憶の研究を革新した一症例――眼窩皮質下切截の「副産物」
 3 どこをどう切ればよいか――脳画像研究の進展と精神外科の現在
 4 医療の名のもとに脳にどこまで介入してよいか――治療と臨床試験の狭間で

終章 脳科学に何を求めるべきか――社会への応用に対する科学研究のあり方

注・参照文献
橳島 次郎(ぬでしま・じろう)
1960年生まれ.生命倫理政策研究会共同代表.東京大学大学院社会学研究科博士課程修了(社会学博士).三菱化学生命科学研究所社会生命科学研究室長などを経て現在に至る.
専門は,生命科学・医学の研究と臨床応用を中心にした科学政策論.
著書に『先端医療のルール――人体利用はどこまで許されるのか』(講談社現代新書,2001年,NIRA大来政策研究賞受賞),『生命の研究はどこまで自由か――科学者との対話から』(岩波書店,2010年).
共著に『優生学と人間社会――生命科学の世紀はどこへ向かうのか』(講談社現代新書,2000年).

書評情報

こころの科学 165号(2012年9月)
HONZ 2012年8月15日掲載
日医雑誌 第141巻第5号(2012年8月)
WEDGE Infinity 2012年7月27日掲載
朝日新聞(朝刊) 2012年7月15日
毎日新聞(朝刊) 2012年6月24日
読売新聞(朝刊)〔大阪〕 2012年6月17日
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