非線形とは何か

複雑系への挑戦

喧伝される「複雑さの科学」の深層にある非線形という数学的構造を広く一般向けに解説した意欲作.

非線形とは何か
著者 吉田 善章
ジャンル 書籍 > 自然科学書
書籍 > 自然科学書 > 数学
刊行日 2008/01/25
ISBN 9784000058773
Cコード 0041
体裁 A5 ・ 上製 ・ カバー ・ 214頁
在庫 品切れ
近代科学に対するアンチテーゼとして「複雑さの科学」というレトリックが氾濫する.しかし,その深層にある非線形という数学的構造は曖昧にされることが多い.本書は,線形と非線形,乱れと秩序などを対比させながら,その本質をできるだけ多くの方に知ってもらおうと書かれた意欲作である.最小限の厳密さはノートとして付す.

■編集部からのメッセージ

自然科学の基本用語のなかには,しばしば否定形で定義される用語があります.非平衡,非保存,不可逆,不安定,などなど.それらはもちろんのこと,否定詞を取った用語,平衡,保存,可逆,安定といった概念がまず定義されてはじめて成り立つ概念です.しかし,そうした否定形でない概念よりも,否定形で語られる概念の方がより重要な意味をもつことがしばしばです.本書で扱われる「非線形」もまたその典型例といえましょう.
 非線形は,数学においてもっとも基本的である「線形」の否定形ですが,数学世界にとどまらない大きな意味があります.書名のサブタイトルにある「複雑系」ということばをどこかでお聞きになったことがあるでしょうか.20年以上前に,要素還元主義を超える新しいパラダイムが必要だと叫ばれたとき,その理由の筆頭に出されたのが「複雑系」の解析でした.そこは,単純に要素を積み上げていけば理解できる方法ではなく,複雑なものを複雑なまま理解できる方法が求められたのでした.残念ながら,必ずしもそれは成功を収めたとはいえません.マクロに複雑に見える背景にはさまざまな要素が絡み,たとえばフラクタルやカオスもしかり,散逸構造もそうですが,1つだけの視点や原因から探る方法で解決できるものではないからです.
 いずれにせよ,もっとも大切な視点は古くて新しい「非線形性」をどう捉えるかでした.すでに述べたように,「非線形」は数学に由来する概念です.きちんと理解するためにはどうしてもそこを避けて通るわけにはいきません.しかし,だからといって,いきなり数式で説明されても雲をつかむような話になります.本書では,できるだけその考え方を理解してもらうことをモットーに解説しました.厳密な部分は,各章の末尾に「ノート」として付けました.最後まで読んでいただければ,この分野に向かうための大きな自信が得られることと確信します.


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非線形現象の典型例(ビリヤード)
1 非線形とは
自然と科学/スケールをもち現象と法則/線形理論の領野/非線形

2 規則性からカオスの深淵へ
秩序を読み解く/関数/分解によって現れる秩序/変動の中で変わらぬもの/対称性と保存則

3 複雑系に向き合う科学
予測困難な現象/ランダムという仮説/集団現象

4 ミクロとマクロの連接
構造とは何か/トポロジー/現象のスケール/法則のスケール/階層の連関と複雑性
吉田善章(よしだ ぜんしょう)
1958年,広島県生まれ.
1980年,東京大学工学部卒業.
1985年,東京大学大学院工学系研究科博士課程修了,工学博士.
現在,東京大学大学院新領域創成科学研究科教授.
主な著書に,集団現象の数理(岩波書店),非線形科学入門(岩波書店),応用のための関数解析(サイエンス社)がある.
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