夏はなぜ暑いのか

地球上の身近な現象のメカニズムや謎を,実感のともなう簡単なことから解きほぐした楽しいエッセイ.

夏はなぜ暑いのか
著者 佐藤 文隆
ジャンル 書籍 > 自然科学書 > 物理・化学
刊行日 2009/05/28
ISBN 9784000057424
Cコード 0042
体裁 四六 ・ 上製 ・ カバー ・ 262頁
在庫 品切れ
夏は暑いとなぜいえるのか.金星や火星にも夏はあるのか.台風と銀河の渦巻きが似ているのはなぜか.地球上の身近な現象を,宇宙という大パノラマのなかに置いて眺めてみると,意外にも気づかなかった本当のメカニズムが見えてくる.実感できる簡単なことからさまざまな現象の謎を解き明かしていくユニークで楽しいエッセイ集.


■編集部からのメッセージ
 小学生に「夏はなぜ暑い?」と問うと,夏だから,冬じゃないから,と返事が返ってきて,高学年から中学生になると,お日様が光っているからとか,お日様が暑くなるから,というように,太陽をイメージした返事が返ってくるそうです.
 もちろん,大人なら,太陽だけでは説明できないことを知っています.火星や金星には夏はありません.では,正しい説明は何ですか,と聞かれたら,読者の皆様はどう答えるでしょうか.
 このように,地球上の身近な気象現象は,じつは太陽と地球という太陽系のなかでの話に置き換わります.さらには,太陽は銀河のなかのひとつの星(恒星)ですから,じつは,身近な地球現象と思われたことは大銀河のなかので話と関係してきます.
 あるいは,びっくりすることですが,台風の渦巻きと銀河の渦巻きのパターンは,じつは同じ物理原理から説明できます.
 「天から地をみる」という姿勢で,「天」の専門家が,「地」の素人の目で見たら,どんなことが見えてくるのか,科学の素養のあるなしにかかわらず,いろいろと考えさせてくれるエッセイ集です.
  そのほかに,著者の古くからの知己である南部陽一郎,益川敏英,小林誠の3氏が2008年度のノーベル賞をもらわれたことに因み,あまり知られていないエピソードも加えていただきました.
 本書は,既刊の『火星の夕焼けはなぜ青い』 『雲はなぜ落ちてこないのか』と合わせて三部作を構成します.既刊二冊は,宇宙論の専門家である須藤靖さんが,「一般の方にはなるほどと思わせる一方で,専門家にはわかったつもりになっていたことの本当の理由を,さらにもう一段高い視点から考え直させ自分の理解の浅さを痛感させる内容が満載」(『ブックガイド〈宇宙〉を読む』(岩波科学ライブラリー)より)と紹介してくださいました.ぜひご期待ください.


■番外編――夏はなぜ暑いのか

◎気候と天気はどう違う?
 私たちは毎日のあいさつによく“きょうはよい天気ですね”といいますね。天気というのは、ある場所での、ある時刻もしくはせいぜいのところ1日の期間の大気の状態のことをいいます。わかりやすく言えば「空の表情」です。だから〈きのうの天気〉とか〈京都の天気〉といってもよいですが、〈去年の天気〉とか〈日本の天気〉とはいわないのです。また、数日くらいの大気の状態や変わり方は天候と呼んでいます。
 天気や天候は絶えず変わります。これに対して、ある土地で長い間にわたる気象観測の結果を平均して求めた平均気温のようなものや、季節ごとの平均的な天気の変化のしかたは、その土地に特有のものですね。これがその土地の「気候」です。厳密には、気候というのは、1年を周期として、一定の順序で繰り返される大気の総合状態のことです。

◎気候を決めるのは?
 たとえば、海外旅行に出かけるとき、そこは“良い気候ですよ”とか“暑い所ですよ”といわれてもどんな服装で行けばよいのかとまどいますが、“いまの時期なら平均気温は15℃くらいです”と言われれば、自分の生活実感に合わせて服装を用意できます。このように、気温のほか、湿度、風向、風速、雲量、降水、日照時間などを数値であらわし、まとめあわせるとその気候がわかるので、これらの量を「気候要素」といいます。
 気候要素のなかでも、「気温」は私たちの生活に最も関係の深いものです。50℃以上の暑熱や-50℃以下の酷寒になると、私たちの生活は困難になります。また動植物の生存繁殖にも影響し、それが私たちの食物にも影響してきます。

◎その日の平均気温はいつ頃の気温か――最低と最高
 気温は、季節や場所にもよりますが、1日中で午前5時ころが最も低く、日の出とともに上がりはじめ、午後2時ころに最高となり、それから次第に下がりはじめます。このような変化を日変化といい、最高気温と最低気温の差のことを日較差といいます。1日中の気温の平均値、すなわち日平均気温(午前9時ないし10時ころの気温に近い)や日較差が、気候要素として大切です。晴れた日には日較差が大きいですが、曇った日や雨の日は日較差が小さくなります。
 気温の月平均値(各月の長年にわたる平均)の1年中での変化を調べると、たとえば東京では、1月が最低で3.2℃、8月が最高で26.4℃、年平均は14.3℃、したがって年較差は23.2℃となります。なんらかの気象状態によって非常に高温になることもあるし、非常に低温になることもあるので、過去における気温の最低・最高の記録値は、気候を知る上で大切な値です。少し古い記録ですが、東京では1876年1月13日に-9.2℃、2004年7月20日に39.5℃を記録しています。世界では、1983年7月21日に南極で-89.2℃、1921年7月8日にイラクで58.8℃を測定しました。(もっとも観測地点での記録値ですから、観測地点に指定されていない場所、たとえば東京の中心部の交差点がどんな温度になっているかは別です。)

◎湿度も重要だ
 空気中の水蒸気量、すなわち湿度は、海面、地面からの蒸発ばかりでなく、人間の皮膚からの蒸発や樹木の葉面からの蒸発量などにも関係して、生活に重要な影響があります。湿度のあらわし方には、1立方メートル中の水蒸気の質量(g)をもちいる絶対湿度と、空気の水蒸気量とその湿度における飽和蒸気量との比を%であらわした相対湿度の2通りあります。また水蒸気圧をもちいることもあります。
 相対湿度は水蒸気量と温度によって変わります。飽和水蒸気圧は温度の上昇とともに著しく増えるので、相対湿度は陸上では1日中で気温の最も高い午後1時から2時に最も低く、朝方午前5時ころに最も高くなります。1年の変化では地域によってかなり異なります。雪の多い地方では、1年を通じてあまり大きな変化はありませんが、東京のような地域では、夏のほうが冬に比べて比較的に相対湿度が高いということがいえます。ただし、総じて、相対湿度は日変化に比べれば年変化は小さいといえます。
 また、私たちが体に感ずる暑さ・寒さは、皮膚面からの熱の奪われる度合いにもよります。これを体感温度といって、いろんなあらわし方が研究されています。たとえば不快指数などです。

◎なぜ暑いのかの根源に迫る――日射と地球放射
 気温のような気候要素の平均値や、その変わり方を決める原因となるものが「気候因子」です。おもな気候因子は、緯度、海抜高度、水陸の分布、海岸からの距離、海流、地形などです。緯度が気候因子であることは、図1、図2を見れば一目瞭然です。図2の等温線はほぼ緯度に平行になっており、赤道から極に向かうほど平均気温は下がっていきます。これは、緯度が気温に影響していることをよくあらわしています。

図1 緯度と気候

図2 前年の平均気温

 地球上の気候を支配している根源は、太陽からのエネルギー(日射)です。大気の影響を無視すると、太陽光線と垂直な平面が受ける日射量は、約2cal/cm2/min(1370 W/m2)です。地球は、地球の公転面に対して23.5度だけ傾いています。このために、太陽光線のくる方向は季節によって変わります(図3)。また地球は球体をしていますので、太陽光線が真上にくるのは1か所だけです。あとの地点では太陽光線は斜めにさしこむことになります(図4)。
図3 太陽光線のあたりかたの季節による変化


図4 斜めに太陽光線があたるときの日射量


 図4で示すように、太陽光線が地面とθという角度の方向から入ってくるときの地面に当たる日射の強さをJとすれば、これだけの光が地面ABの単位面積にあたると、日射の強さは、J×BC/AB=J・sinθとなります。したがって、地面にあたる日射は、太陽が真上から照らす場合にいちばん強く、水平になるにつれて弱くなります。そのうえ、太陽光線が水平方向からくる場合には、光線が通過する大気の厚さが大きくなるので、それだけよけいに大気に吸収されます。赤道地方より高緯度地方のほうが、また夏より冬の陽射しが弱いのはこのためです。
 一方、地表面や待機もその温度に応じてエネルギーを放射しています。これを地球放射といいます。ある場所の気温は、暖かい空気や冷たい空気が流れてこないかぎり、日射と地球放射のバランスによって決まります。日中は地球放射量よりも日射量のほうが大きいので気温は上がります。夜になると日射量がゼロになり、地球放射でエネルギーを失う一方なので気温が下がります。
※以上は『科学の事典 第3版』(岩波書店)より抜粋(一部改変)


 さて、ここまできて、もっと深く知りたいと思われた方、あるいはまた日射量の原因である太陽活動とは何なの、などと素朴な疑問を抱かれた方はぜひ本書『夏はなぜ暑いのか』をお読みください。おまけで知ることもおおいにあります。
第一部 天から地を見る
  1 夏はなぜ暑い
  2 台風と銀河の渦巻パターン
  3 暦と天文学
  4 オーロラとプラズマテレビ

第二部 天を地の見方でみる
  1 太陽近傍
  2 電波をアマチュア天文へ
  3 宇宙線ルネサンス

第三部 宇宙と物理の進展
  1 星のエネルギーとハンス・ベーテ
  2 ブラックホールとジョン・ホイラー
  3 ビッグバン宇宙と南部,小林-益川

第四部 科学するこころ
  1 こころを駆動する
  2 地動説はわかる?
  3 仮想世界のつくり方
  4 科学の手法

第五部 科学を育む
  1 物理と天然
  2 ウソを教えない工夫
  3 地文台によるサイエンス
  4 科学を想う
佐藤文隆(さとう ふみたか)
1938年生まれ.1960年京都大学理学部物理学科卒業.
現在,甲南大学教授,京都大学名誉教授.専攻,宇宙物理学,一般相対論.
著書――『宇宙論への招待』(岩波新書),『アインシュタインが考えたこと』 『湯川秀樹が考えたこと』 『宇宙物理への道』(以上,岩波ジュニア新書),『火星の夕焼けはなぜ青い』 『雲はなぜ落ちてこないのか』 『孤独になったアインシュタイン』 『科学と幸福』 『宇宙物理』 『一般相対性理論』(共著)(以上,岩波書店),『ビッグバン』(講談社),『ビッグバンの発見』(NHK出版),『相対論と宇宙論』(サイエンス社)ほか.
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