生きものの流儀

動物行動学の第一人者が,動植物の巧妙な生のあり方を通して人間の生の豊かさを問うエッセイ.

生きものの流儀
著者 日高 敏隆
ジャンル 書籍 > 自然科学書 > 生態・環境
刊行日 2007/10/18
ISBN 9784000050562
Cコード 0045
体裁 四六 ・ 上製 ・ カバー ・ 174頁
在庫 品切れ
愛や幸福などという感情は所詮イリュージョンにすぎない.まぎれもない事実は生物はみな死ぬことである.この狭間の中にわれわれの生はある.動物行動学の第一人者であり,ローレンツやドーキンスなどの翻訳を手がけ,ファーブルやユクスキュルにも造詣の深い著者が,動植物の生のあり方を通して人間の生の豊かさを問う極上の随筆.


■著者からのメッセージ
 知っている方も多いと思うが,『風の旅人』という雑誌がある.ユーラシア旅行社という旅行会社が出版している大判の雑誌である.旅行のPR誌ではなくて,要するに「人間とは何か」,「人間と人間以外の世界との関係とは何か」を追究していこうという,美しい写真の入った,しゃれた哲学誌である.
 2003年4月に創刊されてほぼ1年ほど経ったころ,編集長の佐伯剛氏から,思いがけない手紙がとどいた.この雑誌に書いてほしいというのである.
 ぼくにいったい何が書けるのだろうか? まったく自信がなかったが,とにかく大変深みのある雑誌なので,ついに引受けてしまうことになった.
 一応はいわゆる「理系」,「自然科学系」であるぼくは,かつて京都大学の理学部長もつとめていたこともあったが,いろいろな疑問がふくらんでくるばかりであった.
 「理学部は真理を探究する」と皆おっしゃる.けれど,世の中に「真理」などというものがあるのだろうか? 「大切なのは科学的事実の発見だ」ともよく言われる.では「科学的事実」とは何なのか? そもそも「事実」とは何なのか? 世の中に「事実」なんていうものがあるのだろうか?
 人間は何か「現実」のものを見たり感じたりしたときに,どうやら必ずその「説明」を必要とする動物らしい.そのことをぼくは,ずいぶんと昔から感じていた.
 しかし,その説明とは,その現実に対して人間がもつイリュージョンにすぎないのではないか? けれどそのようなイリュージョンがなかったら,人間は「現実」を認識できないのではないか? 
 結局のところ,「何が現実か」という連載になったとき,佐伯氏からは,毎回無理難題としかいいようのない難しいテーマが与えられた.それは「意識とは」,「愛とは」,「命とは」,「心とは」,「幸福とは」というような問題に至っていった.
 そのたびにぼくは,苦しみ,苦しまぎれにイリュージョンを組み立てて,それらのテーマに応えようとした.
(「あとがき」より)
1 われわれは何を見ているのだろう
焼野原の東京
想像と現実の関係
自然を学べ

2 生きものの論理
環世界
生物たちの論理
人は現物が見えるか
人間の領域

3 意識・愛・時間
―イリュージョンのなかの人間
意識と無意識
愛……この不確かな豊か
時間と人間

4 人間のこころ
心と命
植物と人間の関
生きる苦しみ
現実の功罪

5 生きる喜びと「いのち」
生きる喜び
幸福とは何か?
人間の命
イリュージョンとしての「われらの時代」

あとがき

挿画=山下正人
日高敏隆(ひだか としたか)
1930年生まれ.1952年東京大学理学部動物学科卒.東京農工大学講師・助教授・教授を経て,1975年京都大学教授に就任.1993年に京都大学を退官した後は,滋賀県立大学初代学長,総合地球環境学研究所初代所長を歴任.現在は,京都大学名誉教授.岩波生物学辞典第4版,『ファーブル博物記』(全6冊,岩波書店)の編集ほか,一般向けの科学啓蒙書や,ローレンツ,ドーキンスの翻訳など著訳書が多数ある.

書評情報

母の友 2008年3月号
日本農業新聞 2007年11月26日号
ページトップへ戻る