カニのつぶやき

海で見つけた共生の物語

海の生きものたちを主人公に,生態の妙,多様性と共生,人との関わりを生き生きと描く,科学エッセイ集.

カニのつぶやき
著者 小菅 丈治
ジャンル 書籍 > 自然科学書 > 生態・環境
日本十進分類 > 自然科学
刊行日 2014/12/25
ISBN 9784000052191
Cコード 0045
体裁 四六 ・ 並製 ・ カバー ・ 190頁
在庫 品切れ
主人公はカニ,貝,エビ,魚など,海に暮らす生きものたち.身近な干潟やサンゴ礁,マングローブ林を舞台に,観察と発見の喜びに満ちた珠玉のエッセイ集.世界でもっとも多様な海洋生物が棲む沖縄~熱帯アジア各地の海で調査・研究を続けてきた著者が,生態の妙,多様性と共生のリアルな姿,人との関わりを生き生きと描く.


■著者からのメッセージ
 石垣島の干潟をスコップで掘り返しながらカニを研究する日々,通りすがりの人々から最も頻繁にかけられた言葉は「そのカニ食べられるんですか?」だった.しかしオーストラリアでは「そのカニのどこがおもしろいんだ?」と尋ねられることが多かった.
 「食べられるのか?」という質問にはイエスかノーで答えるしかない.「食べられない」とわかると,たいていは興味を失い立ち去ってしまう.一方で「どこが面白いのか?」という問いかけには,さまざまな答え方で応じることができる.会話が続く.海辺で魚介を漁って食用とする習慣を持つか否かという違いはあろうが,それにしても,もう少し「食えない者たち」に関心を持ってもよいのでは,と思う.
 「食べられる生き物」とは,ヒトの身体の維持,発達に必要な滋養の源だ.ヒトが自然の中で食うや食わずの生活を送ってきた数百万年の間,食料の調達は心の躍動とセットになっていたであろう.いまや食物はスーパーで買ってくれば事足りる.そこでは,食料を入手する過程で経験してきたはずの,工夫や技の鍛錬が収獲によって報いられたという充足感も,自然の恵みに運よくあずかることができたという安堵感も感謝の念も生じがたい.自然の中の発見や感動の体験は,精神の発達に本来欠かせないものではなかったか.「パンのみにて生きるにあらず」という.足下の食えない有象無象の生き物たちを,心の糧をふんだんに授けてくれる八百万の化身と思ってみてはどうだろう.
――「はじめに」より

■装画の参考資料として写真提供:北島英雄
はじめに――食えないカニたちと

オカガニたちの夜
ボルダリングの名手はヤドカリハンター
「豚足ヤドカリ」の教え
矛盾のなかに真理あり
「兵隊ガニ」の素顔
黒潮の右と左
誰かカニの雌雄を知らんや
岩穴暮らし
食われる者から見たサンゴ礁
リーフの外には何がいる?
クロツラヘラサギの保養地
自然と業のはざまで
大鵬の海へ
南波照間にソデイカを追う
ダルパパに会う
台湾曽根まで
熱帯の視座から
カニに春秋あり
ケアンズのカニ捕りツアー
イラワジのカニの村
ニッパヤシの便り
エビを育てる海辺で
海老は縁起物か
数の力
マタンは偉大なり
コレクター心理
「ひるぎの一葉」に始まる食物連鎖

あとがき
謝辞
小菅丈治(こすげ じょうじ)
1964年東京生まれ.鎌倉市の海辺で海の生き物に親しむ.京都大学理学部卒業.理学博士(九州大学).水産庁(当時)西海せいかい区水産研究所勤務,東海大学沖縄地域研究センター研究員,放送大学非常勤講師,株式会社テツゲン社員としてベトナムのアジア熱帯養殖研究所出向(副所長)を経て,現在,沖縄県立「石垣青少年の家」事務長.国際マングローブ生態系協会主任研究員.「熱帯の視座から沖縄の自然を見る」をテーマに,八重山諸島と東南アジアでのフィールドワークの成果を研究論文として発表する傍ら,講演会,自然観察会,学校現場での教育普及活動に取り組む.
著書に『有明海の生き物たち――干潟・河口域の生物多様性』(共著;海游舎),矢野和成編『南の島の自然誌――沖縄と小笠原の海洋生物研究のフィールドから』(共著;東海大学出版会).

書評情報

生物科学 第66巻第4号(2015年9月)
琉球新報 2015年3月29日
沖縄タイムス 2015年2月14日
沖縄タイムス 2015年2月11日
八重山毎日新聞 2015年2月1日
日本経済新聞(夕刊) 2015年1月21日
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