ゴヤの手紙

画家の告白とドラマ

スペインを代表する宮廷画家ゴヤに関わる手紙・公文書類を丹念に読み解き,大画家の心の動きを辿る.

ゴヤの手紙
著者 大髙 保二郎 編訳 , 松原 典子 編訳
ジャンル 書籍 > 単行本 > 芸術
刊行日 2007/07/13
ISBN 9784000228749
Cコード 0070
体裁 菊判 ・ 上製 ・ 函入 ・ 638頁
在庫 品切れ
スペインを代表する宮廷画家ゴヤに関わる手紙・公文書類を丹念に読み解き,その成功と苦悩の生涯を明らかにする.ここには,青年時代の友情や金銭上の問題,宮廷画家としての成功,アルバ女公爵との恋,「聾の家」での隠遁生活,息子や孫に寄せる愛情など,奇想と創意を求めた大画家の心の動きが克明に綴られている.


■本書について
本書はスペインを代表する画家,フランシスコ・デ・ゴヤ(一七四六-一八二八年)の現存する手紙を軸として,ゴヤ宛に書かれたさまざまな人物からの手紙,およびゴヤの生涯とその画業に関連する手紙,覚書,公文書の類をほぼすべてを網羅したものである.ただ,一部,内容的に重複したり,不要と思われる文書については訳者の判断により割愛した.
(「凡例」より)


■本文より
サバテール宛の手紙「もうこれ以上みんなが僕のことを思い出してくれなくてもいい」一七八八年七月二日(マドリード)
 親愛なる友へ.君の手紙を受け取って僕はとても嬉しかった.君からの注文を果たせていないことについては,本当に申し訳ないと思っている.なんと言っても君の頼みだからね.だが実のところ,トレド大司教からトレド大聖堂のために注文を受けた作品もまだ描けていないのだ.下絵すらできていない.僕にはどうしようもないということがわかってもらえるだろう.僕もみんなを満足させたいと思ってはいるのだ.でも,もうこれ上みんなが僕のことを思い出してくれなくてもいい.そうしたら僕はもっと落ち着いた生活をして,描かなくてはならない作品に取り組んで,余った時間を自分の好きなことのために使えるのに.(後略)

ペドロ・セバーリョス宛の絵画修復に関する答申「時もまた画家なのです」一八〇一年一月二日
 謹啓 昨十二月三十日,アンヘル・ゴメス・マラニョン氏に委託された作品の修復に関しての勅令を閣下より拝受致しました.そのため,カンヴァスに移し替えられて洗滌され,装いを新たにされたそれらの絵画を精査し,艶出しの方法やそこで使われる顔料の性質を吟味し,絵画がこうした作業によりよくなるのか,悪くなるのかについて私の考えをここに表明し,ご報告いたします.(中略) 閣下,私が見た限りでは,補筆された部分とそうでない処とを比較すると不調和が目立ち,あまり褒められるものではありません.と申しますのも,補筆された処では,そこにかつては認められた力強く大胆な筆遣いや繊細かつ卓抜なタッチなど,原作のもつ妙味が失なわれ,完全に破壊されているからです.私は生来,率直な性格である上に,残念な気持ちも手伝って,同氏には出来の悪さを包み隠さず伝えました.続いて他の作品も見せられましたが,それらも同様,専門家や真の教養人の目には,すべて壊され台なしにされたと映るでしょう.なぜならば,絵画はその保存という口実のもとに,手を加えれば加えるほど破壊されるものであり,その上,顔料は時の経過と共に相応の古色を獲得するものゆえ,たとえ原作者自身が今に生き返ったとしても,完全には修復しえないでありましょう.賢人の格言に曰く,時もまた画家なのです.(後略)
凡例
I 出生と不遇の修業時代 1746-1775年
II カルトン画家としての出発 1775-1780年
III サラゴーサ事件――義兄との対立と挫折 1780-1781年
IV 売れっ子肖像画家に 1781-1784年
V 宮廷,アカデミーでの栄達 1784-1789年
VI 精神と肉体の危機を越えて 1789-1794年
VII 画壇の頂点に立つ――成熟する絵画と批判精神 1794-1808年
VIII 戦争と革命,迫害,そして亡命へ 1808-1828年
  解説――言葉からイメージへ

あとがき
文献略号表
本書で扱われる度量衡および通貨表
主要人物紹介


書評情報

芸術新潮 2008年7月号
読売新聞(朝刊) 2007年12月23日
読売新聞(朝刊) 2007年12月9日
朝日新聞(朝刊) 2007年10月28日
週刊読書人 2007年9月28日号
読売新聞(朝刊) 2007年9月27日
ページトップへ戻る