音楽とはなにか

理論と現場の間から

常に音楽の現場に注目し,旋律の引用論,見えない音楽理論など斬新な概念を提示してきた著者の渾身の労作.(CD付)

音楽とはなにか
著者 徳丸 吉彦
ジャンル 書籍 > 単行本 > 音楽
刊行日 2008/12/19
ISBN 9784000223959
Cコード 0073
体裁 A5 ・ 上製 ・ カバー ・ 362頁
在庫 品切れ
「旋律の引用論」の提起から,東洋音楽が持つ「見えない音楽理論」の発見へ.やがてアジアの民族音楽の保存にかかわり,民族音楽の活性化の理論として「フィールドバック」の概念を提起する.音の生じる現場に注目してきた著者が常に考えてきたのは,人間にとって音楽とはなにか,という問いである.生涯をかけた渾身の労作.(CD付)

■著者からのメッセージ

 この本は,雑誌や講座のために執筆したものをまとめたものです.日本で出版されたものですが,手に入りにくくなったものもありました.今回は,年代順ではなく,内容の上で関連のあるものをいっしょにし,この40年の間に,私が音楽学の領域で何をし,どのように動いたかを,分かっていただけるようにしました.たとえば,情報理論による音楽分析,三味線音楽やモーツァルトにおける間テクスト性(引用がその一種),民族音楽学史,開発と文化政策,といった内容を並べると「徳丸は何をやっているのか」という昔からの批判が聞こえてくる気がします.しかし,私の中では,すべて筋があるのです.そのことを,お茶の水女子大学の最終講義で話しましたので,それを序論として冒頭にもってきました.
  音楽学の領域に入り始めた頃から1980年代まで,私の研究対象は,楽譜によってであれ,人間によってであれ,伝承された音楽でした.それらを,まず音の動きとして捉え,どういう音が一連の塊として意識されているのか,そして,それらがどのようなコンテクストに置かれているのか,といった問いを立てることが可能でした.ところが,1990年代に入ると変わってきました.音によるテクスト自体が消滅することが起こるからです.研究対象を記録しようと思っても,対象が消滅してはどうしようもありません.それを「自然淘汰」と呼ぶ人は,ほとんどが,社会的に保証されている大きくて強い音楽の研究者です.こうした問題意識から,私は文化政策の実施にかかわるようになりました.それを,コンテクストを焦点にして振り返って考えたのが,新たに書いた最後の章です.

 
序章 最終講義――音の動きの分析から,社会的脈絡における音楽の研究へ  
 
第 I 部 音楽とはなにか――音の分析から音楽記号学へ   
 
1 情報理論からみた音楽
 
2 三味線音楽における引用
 
3 モーツァルトと間テクスト性
 
4 音楽記号学とアジア・日本音楽
 
第 I 部収録論文へのコメント
 
  
第II部 見えない音楽理論――日本音楽にひそむ構造 
 
5 日本伝統の音とは (平野健次氏と共著)
 
6 見えない理論――音楽の理論・楽器・身体 (蒲生郷昭氏と共著)
 
7 表象としての日本音楽
 
第II部収録論文へのコメント
 
  
第III章 フィールドから考える――民族音楽学へ
 
8 民族音楽学再構築と自分の歴史
 
9 比較音楽学から民族音楽学へ
 
10 ミャンマー ヤンゴンとマンダレーの古典音楽
――器の音,そして声 (山口修氏と共著)
 
11 開発と音楽文化のゆくえ
 
12 生きた伝統としての音楽活動の支援
 
13 音楽・テクスト・コンテクスト
 
第III部収録論文へのコメント
 
 
 
あとがき
 
索引
 
付録CD「ミャンマー ヤンゴンとマンダレーの古典音楽――器の音,そして声」
 
 
 






徳丸 吉彦(とくまる よしひこ)
1936年東京生まれ.東京大学文学部・同大学院修士課程にて音楽学・美学を学ぶ.1982年にカナダのラヴァール大学より,『三味線音楽の旋律的様相』で博士号を取得.国立音楽大学,お茶の水女子大学(途中でモントリオール大学客員教授,カリフォルニア大学ロサンゼルス校客員教授),放送大学での勤務を経て,現在は聖徳大学教授,放送大学客員教授,お茶の水女子大学名誉教授.音楽学(とくに音楽記号学と民族音楽学)と芸術文化政策を専攻.
主な著書に,『民族音楽学』(東京,放送大学教育振興会,1991),『民族音楽学理論』(東京,放送大学教育振興会,1996),『三味線音楽の旋律的様相』(仏語,パリ,ペーテルス,2000),『音楽・記号・間テクスト性』(英仏独語,東京,アカデミア・ミュージック,2005)があり,また,共編に『ガーランド世界音楽事典7 東アジア』(英語,ニューヨーク,ラウトリッジ,2001)がある.

書評情報

音楽の友 2009年3月号
邦楽ジャーナル 2009年2月号
ページトップへ戻る