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チャップリンとヒトラー

メディアとイメージの世界大戦

歴史の中で激突する同年同月生まれの二人の才能と思想.『独裁者』をめぐるメディア戦争へスリリングに迫る.

チャップリンとヒトラー
著者 大野 裕之
ジャンル 書籍 > 単行本 > 芸術
刊行日 2015/06/25
ISBN 9784000238861
Cコード 0074
体裁 四六 ・ 314頁
在庫 在庫あり
20世紀に最も愛された男チャップリンと最も憎まれた男ヒトラーは,わずか4日違いで生まれ,同じちょび髭がシンボルとなった.二人の才能,それぞれが背負う歴史・思想は,巨大なうねりとなって激突する.知られざる資料を駆使し,映画『独裁者』をめぐるメディア戦争の実相,現代に連なるメディア社会の課題を,スリリングに描き出す.


■著者からのメッセージ
 ここ5年間,チャップリンとヒトラーとの闘いを追ってきました.チャップリン家の資料をひもとき,草稿や日誌,当時の新聞記事を読み込みました.チャップリンに対してのナチスからの度重なる妨害の記録を読んで心が重たくなり,一般人からの脅迫の手紙に心底恐怖を感じました.そんな中でも,「今こそヒトラーを笑い飛ばすべきだ」と信念を貫いたチャップリンから喜劇の役割というものを教わりました.
 1万ページに及ぶ資料の解析に時間をかけたことで,脱稿は遅れに遅れました.しかし,結果,戦後の70年の夏に出版することになったのは,偶然とはいえ,意味があったのかもしれません.「メディア」という戦場で「イメージ」を武器に闘った二人の話は,過去のこととは思えないほど,21世紀の〈世界大戦〉を先取りしていて,今まさに現在進行形の話です.
 それゆえに,本書を出版したことが何かの区切りになるとは思えません.引き続き,多くの方々と議論を深めていくことができればと思っています.どうぞよろしくお願いします.
 (ともあれ,本書の調査と執筆の過程で,人が生き抜くためには,〈ユーモア〉がどうしても必要なんだ,ということを思い知りました.)
大野裕之




■編集部からのメッセージ
 1889年4月16日,チャップリン誕生.同年4月20日,ヒトラー誕生.20世紀に最も愛された男と最も憎まれた男は,わずか4日違いで生まれ,その後,同じ「ちょび髭」がシンボルとなりました.さて,この「ちょび髭」は,偶然の共通点なのか,どちらかがどちらかを真似たのか――
 この髭問題,本書では冒頭に早々と事実が明かされます.答えは,意図せぬ偶然によるもの.運命のいたずらか,数日違いで生まれ,たまたま同じ「ちょび髭」を生やしたチャップリンとヒトラーは,歴史の大きなうねりのなか,それぞれに破格の才能を発揮し,巨大な影響力を持つ存在,20世紀のモンスターへと成長しました.やがて両者は,「イメージ」という武器を手に,「メディア」という戦場――現代において,その闘いがますます激しくなっている戦場――で,直接的に対決する時を迎えます.それが,映画「独裁者」でした.
 著者の大野裕之さんは,日本チャップリン協会会長にして,海外での評価も高いチャップリン研究の第一人者.大野さんは本書で,NGフィルムやチャップリン家の所蔵品,当時の新聞雑誌といった膨大な資料を駆使し,

 ▼なぜ,チャップリンは「独裁者」を撮ることにしたのか
 ▼「独裁者」はどう作られたのか,どう公開されたのか
 ▼「独裁者」製作・公開のプロセスで,どのような対立が生じ,どのような反響が巻き起こったのか

等に迫ります.史実を丹念に追いながら,その展開はドラマティックかつスリリング! 貴重な図版も多数掲載しています.本書から浮かび上がるチャップリンvsヒトラーのメディア戦争の実相は,現代を生きる私たちにとって非常にアクチュアルな課題を突き付けるものでもあります.自らを「平和の煽動者」と呼び,笑いによって世界を変えようとしたチャップリン.21世紀の今,あらためてチャップリンに学ぶべきことは少なくありません.多くの方に本書を手にとっていただけることを願っています.
 プロローグ 四日違いの光と影

 『独裁者』ストーリー
 凡例


第一章 チャップリンの髭,ヒトラーの髭

二人の天才の誕生 チャップリンと第一次世界大戦 自由公債キャンペーン 『担へ銃』――史上初の厭戦映画 ヒトラーの髭はチャップリンのまねか


第二章 ヒトラーの台頭とチャップリン攻撃

世界メディアの誕生,そしてベルリン来訪 天才演説家の誕生と反ユダヤ主義の伸張 「チャップリン=ユダヤ」攻撃の開始 二人の運命を変えたトーキー ベルリン再訪――ナチスとチャップリンの初の直接対決 「愛国心は狂気だ」 第三帝国の映画統制――チャップリンの全面禁止 ナチスの嫌がらせ訴訟 世界に広がった「チョビ髭比べ」


第三章 「チャップリンのナポレオン」――幻の反〈独裁者〉プロジェクト

ナポレオン映画化プロジェクトの始まり ナポレオンと身代わりの「一人二役」 脚本完成――反戦の思いをこめて 『モダン・タイムス』公開と「ナポレオン」への迷い 断念


第四章 「プロダクション♯6」――『独裁者』製作準備

『独裁者』製作のきっかけ アイディア熟成とストーリー構成作業 強制収容所の実態を予言 ヒンケルとナパローニ――二人の独裁者の原型 最初のストーリー構成 『独裁者』製作の噂とナチスの妨害 スタジオ準備期へ ヒンケルの妻 兄シドニーと弟ウィーラー 脚本完成 ヒトラーの反応とドイツ,イタリア,そしてイギリスからの圧力 本国アメリカでの逆風 第二次世界大戦開戦の報せ


第五章 開戦,そして撮影開始

白熱する撮影 ヒンケルに変貌したチャップリン 地球儀のダンス 「小型飛行船」とジャック・オーキーの参加 本撮影終了 長期化する戦争,長期化する製作


第六章 演 説

カットされた「踊る兵士たち」 ラストシーンの最初の構成 「演説のアイディア」 撮影台本における演説シーン ヒトラーの進撃とチャップリンの孤独な闘い ヒトラーのパリ入城の翌日に演説の撮影 逆風から待望へと変わった世論


第七章 完成――作品分析,公開とその衝撃

チャーリーの道のり 『独裁者』細見 サイレント/トーキー映画 「ユダヤ人映画」の枠を超えて 音楽映画,ダンス映画としての『独裁者』 「心理」その1 ゲットーの謀略 「心理」その2 ヒンケルとナパローニ ユナイトの宣伝作戦――子供たちは独裁者ごっこをしましょう! 公開の日 賛否入り混じったアメリカの批評 国を挙げて大絶賛したイギリス ドイツの反『独裁者』キャンペーン チャップリンとヒトラーの「世界大戦」 戦中の日本人と『独裁者』 ヒトラーは見たのか


第八章 『独裁者』というメディア

終わらなかった闘い 冷戦期のチャップリン――「平和の煽動者」の苦難 アメリカでのチャップリン再評価 日本公開と『独裁者』の現在 笑いという武器――戦時中の他の反ナチス映画との比較 ヒンケルのデタラメ演説を「翻訳」 フィルムには毒が入っている 永遠に「現在」を拓く,ラストの演説


 エピローグ 「それが私たちの希望だ――」


 『独裁者』結びの演説
 謝辞
 主要参考資料・文献
 注
 『独裁者』スタッフ・配役など
 ヒンケルのデタラメ・ドイツ語解読
 図 著作権・所蔵元・出典
大野裕之(おおの ひろゆき)
1974年大阪府生まれ.京都大学大学院人間・環境学研究科後期博士課程所定単位取得.専攻は映画・演劇・英米文化史.日本チャップリン協会会長,劇作家,映画プロデューサー.劇団とっても便利代表.チャップリン映画祭や日本版DVD,英米のチャップリン関連映画を監修するなど,チャップリン研究家として国際的に活動.著書に『チャップリン・未公開NGフィルムの全貌』(NHK出版),『チャップリン再入門』(NHK出版,生活人新書),『チャップリンの影 日本人秘書・高野虎市』(講談社)など.チャップリン研究に対して,2006年にイタリア・ポルデノーネ映画祭特別メダル受賞.脚本・プロデュースを手掛けた映画「太秦ライムライト」(2014年)は第13回ニューヨーク・アジア映画祭最優秀観客賞,第18回ファンタジア国際映画祭シュバル・ノワール賞など多くの賞を受賞している.

書評情報

毎日新聞(朝刊) 2020年2月23日(評者:竹林 賢さん)
anan 2017年7月号(No.2059)
週刊現代 2016年3月5日号
読売新聞(朝刊) 2016年2月8日
毎日新聞(朝刊) 2016年1月31日
読売新聞(朝刊) 2015年12月27日
図書新聞 2015年12月5日号
新英語教育 2015年12月号
サライ 2015年12月号
聖教新聞 2015年11月11日
すばる 2015年10月号
キネマ旬報 2015年10月上旬号
週刊読書人 2015年9月25日号
産経新聞 2015年8月23日
しんぶん赤旗 2015年8月23日
週刊東洋経済 2015年8月22日号
朝日新聞(朝刊) 2015年8月9日
日本経済新聞(朝刊) 2015年8月9日
読売新聞(朝刊) 2015年8月9日
京都新聞(朝刊) 2015年7月26日
HONZ 2015年7月7日掲載

受賞情報

第37回サントリー学芸賞〔芸術・文学部門〕(2015年)

電子書籍

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