坂東三津五郎 歌舞伎の愉しみ

俳優の視点から歌舞伎鑑賞の「ツボ」を伝授します.知的で洗練された語り口で,芸の真髄を明らかに.

坂東三津五郎 歌舞伎の愉しみ
著者 坂東 三津五郎 , 長谷部 浩
ジャンル 書籍 > 単行本 > 芸術
刊行日 2008/07/25
ISBN 9784000244428
Cコード 0074
体裁 四六 ・ 上製 ・ カバー ・ 266頁
在庫 品切れ
世話物・時代物をどう観るか,踊りの魅力とは,荒事・和事をどう愉しむか,新作の可能性とは──など,俳優の視点から,歌舞伎鑑賞の「ツボ」を伝授します.演題に即して観かたを具体的に解説.さらに舞台の想い出や演じる心意気にも触れ,三津五郎丈ならではの知的で洗練された語り口で,芸の真髄を解き明かします.(カラー口絵1丁)

■著者からのメッセージ

初舞台を踏んで46年,ほぼ毎月のように舞台に立ち,いろいろな芝居に出て,さまざまな役に取り組んできました.それでもまだ,出演したことのない作品もあれば,演じたことのない役もたくさんあります.それだけ歌舞伎という芝居は幅が広いのです.
 歌舞伎は約400年,特定のパトロンを持つことなく,毎月興行を打ち続けて,お客さまをいかに満足させ,いかに喜んでいただくか,ということを大命題に,今日まで闘ってまいりました.
 その時代時代によって,お客さまの求めているものは変わりますし,同じようなものばかりでは飽きられてしまいます.
 その結果,歌舞伎という芝居は,じつにたくさんの要素を含み,さまざまな顔を持つ,得体の知れない総合演劇に成長したのです.
 それはとりもなおさず,歌舞伎がお客さまの「目」によって磨かれ,お客さまの「心」によって鍛えられてきたことに他なりません.
 こののちも歌舞伎が発展していくには,演じる我々側の努力と共に,このようなお客さまの,優しくも厳しいまなざしが,絶対に必要なのです.
 今回岩波書店さんから,歌舞伎の入門書や専門書は数多くあるけれども,歌舞伎を観始めてひと通り知った上でさらに奥深い世界へと導ける,中級者を対象とした本を出したい,とのご要望を賜りました.
 そのような趣旨に副ったものに出来上がったかどうか,いささか心配ではありますが,この役者はこんなことを考えて舞台に上がっているのか,ということだけでも知っていただき,それを皆さまの歌舞伎への新たな興味につなげて下さるなら,この上ない幸せです.
十代目 坂東三津五郎(「まえがき」より)



■編者からのメッセージ

監事室という小部屋がある.
 歌舞伎座では,舞台上手,後方にあり,ガラスで客席と区切られている.本来は,松竹の社員が,舞台の進行を見守るために設けられている場所だが,満員御礼で切符の手配がつかない場合,関係者を入れることもある.
 平成17年7月のある日,どうしてももう一度観たい芝居があり,お願いして監事室に入れてもらったところ,ほどなくして「評判だから,観にきたんですよ」と,笑顔で三津五郎さんが現れた.
 監事室は,密閉された空間である.舞台の音は,スピーカーから流れるかわり,室内で話しても外に漏れる気遣いはない.この日,私は,三津五郎さんの解説付きで,歌舞伎を観るという幸運に恵まれた.役者としての実体験に裏打ちされ,しかも論理的.なるほどと膝を打つようなお話であった.
 そんな体験があって,この本が生まれた.歌舞伎を観始めて2年くらい経った中級者に,ぜひ三津五郎さんの話を読んでいただきたいと願った.
 幸い岩波書店がこの企画に賛成してくださり,三津五郎さんの快諾を得たので,隔月に一度のペースで取材が始まった.平成19年の3月から,平成20年の5月まで,追加取材を含めると8回にわたって行われたが,三津五郎さんの話しぶりは,企画の意図を踏まえたもので,乱れがなかった.役者の芸談ではなく,歌舞伎の愉しみを読者に伝えようとする姿勢が鮮明で,その明晰さに打たれた.
 私はこの一年あまりのあいだ,坂東三津五郎という家庭教師について,歌舞伎を勉強させていただいたと思っている.読者のみなさんとその喜びを分かち合えるのがうれしくてならない.
長谷部 浩(「あとがき」より)
まえがき  坂東三津五郎
第1章 世話物は,21世紀に生き残れるか
江戸の粋,姿と呼吸
  『文七元結』『権三と助十』『芝浜革財布』
舞台を支える役者の息
  『魚屋宗五郎』
大名と御数寄屋坊主の対決
  『河内山』『髪結新三』
江戸のダンディズム
  『三千歳直侍』『め組の喧嘩』
芝居の香りと場の空気
  『弁天小僧』
音楽劇としての歌舞伎
  『魚屋宗五郎』『伊勢音頭』
第2章 踊りの家に生まれて
坂東三津江とお狂言師の世界
三味線音楽のさまざま
  『紅葉狩』『三ツ面子守(みつめんこもり)』
動かない身体で表現する
  『玉屋』『傀儡師(かいらいし)』
吾妻徳穂先生の思い出
  『蝶の道行』
間と巧さ
  『三社祭』『喜撰』『座頭』『靱猿(うつぼざる)』『峠の萬歳』
明治のお師匠さんたち
  『累(かさね)』
踊りを封じる苦労がある
  『すし屋』『野崎村』『吉野山』
表現のさまざま
  『粟餅』『奴道成寺』『流星』『小原女』
理解するより,感じてほしい
第3章 時代物の噛みごたえとその深さ
文楽の大夫に教わる
  『逆櫓』『熊谷陣屋』
肚の太さ,胸に秘めたもの
  『絵本太功記』『石切梶原』『伽羅先代萩』
義太夫狂言とモドリ
  『熊谷陣屋』『毛谷村』『寺子屋』『忠臣蔵』『吃又(どもまた)』
「拵え疲れ」と文楽
  『熊谷陣屋』『蘭平物狂(らんぺいものぐるい)』
日本の文化と秘めたる思い
  『妹背山婦女庭訓』『鎌倉三代記』
第4章 荒事と和事
上方の和事に参加して
  『封印切』
江戸の和事の役柄
  『助六』『髪結新三』
荒事の禁物は,うまい
  『暫(しばらく)』『鳴神』
荒事のエッセンス
  『矢の根』『毛抜』
弁慶と代役
  『勧進帳』
第5章 鶴屋南北,泥臭い人間の言葉
油絵のような世界
  『盟三五大切』『鈴ヶ森』
グロテスクなエネルギー
  『東海道四谷怪談』
第6章 通し狂言と新作の可能性
ミドリと通し狂言
  『摂州合邦辻』
新作を立ち上げる
  『道元の月』
演出家,野田秀樹
  『野田版 研辰の討たれ』『野田版 鼠小僧』
型の復活と役の解釈
  『鎌倉三代記』
失われつつある踊りを復活する
  『馬盗人』『芋掘長者』
第7章 三津五郎おすすめの芝居
上級者にふさわしい演目とは
  『関の扉』『金閣寺』
大序の様式,吉原の町
  『忠臣蔵』『助六』
性根と肚
  『鎌倉三代記』
立ち位置と居所
  『摂州合邦辻』『弁天小僧』『勧進帳』
第8章 歌舞伎役者と芸の伝承
祖父と父の相克
継承をめぐる問題
遅咲きの役者として
襲名や追善が続く理由
役者を育てるには
芯になる役者の考え
後輩を教える
御曹司と叩き上げ
第9章 歌舞伎よもやま話
拍手のはなし
小道具のはなし
衣裳と鬘のはなし
化粧のはなし
隈取のはなし
楽屋と鏡台
セリとスッポン
歌舞伎の魅力とは何か
 あとがき  長谷部 浩
著者
坂東三津五郎(ばんどう みつごろう)
歌舞伎役者・日本舞踊坂東流家元.昭和31年九代目坂東三津五郎の長男として東京に生まれる.昭和32年「傀儡師」で曾祖父七代目坂東三津五郎に抱かれて初お目見得.昭和37年「黎明鞍馬山」牛若丸役で五代目坂東八十助を名乗り初舞台.平成13年十代目坂東三津五郎を襲名.昭和62年度芸術選奨新人賞,平成18年日本芸術院賞など受賞多数.著書に『十代目 坂東三津五郎』(日本放送出版協会),『あばれ熨斗』(三月書房),『粋にいなせに三津五郎』(ぴあ).
編者
長谷部 浩(はせべ ひろし)
演劇評論家,東京藝術大学美術学部准教授(近現代演出史).昭和31年埼玉県に生まれる.慶應義塾大学卒業.現代演劇・歌舞伎を中心に評論.著書に『菊五郎の色気』(文春新書),『野田秀樹論』『4秒の革命』(以上,河出書房新社),『演出術』(蜷川幸雄との共著,紀伊國屋書店),『傷ついた性』(紀伊國屋書店),『盗まれたリアル』(アスキー)など.

書評情報

sakura 2009年2月号
日本経済新聞(夕刊) 2008年11月19日
週刊朝日 2008年10月24日号
毎日新聞(朝刊) 2008年9月14日
日本経済新聞(朝刊) 2008年8月31日
朝日新聞(夕刊) 2008年8月25日
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