銀の匙

初版復刻版

繊細な感性と美しい文章で綴られた『銀の匙』.この不朽の名作が初版のままの美麗な装幀で甦る.

銀の匙
著者 中 勘助
ジャンル 書籍 > 単行本 > 創作作品(小説・詩・戯曲)
刊行日 2015/05/08
ISBN 9784000004107
Cコード 0093
体裁 四六 ・ 上製 ・ 320頁
在庫 品切れ
夏目漱石が未曾有の秀作として絶賛した『銀の匙』.著者独特の繊細な感性と比類なく美しい文章で綴られたこの回想は,幾世代を越えて読み継がれ,今も読む者に深い印象を与えずにはおかない.大正十五年の初版刊行に際しては著者自身が仔細に造本,装幀を指示していた.その初版そのままに,この不朽の名作がいま美しく甦る.

■編集部からのメッセージ

まず左の写真をご覧下さい.これは大正15(1926)年2月22日,中勘助から岩波書店出版部宛に送られた葉書です.文面はこう読めます.
ハガキ1
「銀の匙」の表紙の背は丸形でなく「沼のほとり」同様に角形に願ひます,念の為申上げます
二月廿二日 神奈川県平塚町西海岸 中勘助
製本の仕様を図で指示するこの葉書から二カ月後の1926年4月,著者が情熱を傾け,推敲を重ねた『銀の匙』が岩波書店から世に出たのでした.中勘助の生誕130年没後50年の今年,この『銀の匙』が89年前の初版のままの美麗な装幀・造本で甦ります.著者自身の手になるあざやかな色調の装幀や,今日ではまず見られない題簽貼りの造本は,著者の美意識を知る手掛かりにもなることでしょう.
「銀の匙」は初め夏目漱石の推薦によって東京朝日新聞に連載され(大正2年4月8日~6月4日,大正4年4月17日~6月2日)ました.その後大正10年に連載が1冊に纏められるのですが,これは仮綴,紙表紙というだけでなく(表紙の著者名は那珂),新聞切り抜きをそのまま印刷に回したもので,冒頭にはなんと483項目もの正誤表が付されています.著者もこの本には不満であったようで,全面的な改稿に取りかかり,完成したのがこの大正15(1926)年版という訳です.このかんの事情を伝える中勘助の葉書(岩波茂雄宛)から.
「銀の匙」手を入れてみると改めたいところがかなり沢山ある.で,もし先〔大正10年版〕の紙型が焼けないで残つてゐるやうだつたら価格によつては,僕の方で譲り受けて破棄してしまひたいと思ふ
ハガキ2
宛先が小石川区小日向の岩波茂雄宛とあるのは神田神保町の岩波書店が前月の大震災で焼けたため当時の茂雄の自宅を数ヶ月だけ仮事務所にしていたからであろう.実はこの小石川の家は岩波茂雄が中勘助から買った家で,かつて勘助が少年時代を過ごし,『銀の匙』の舞台となった家なのである.
日付は大正12年10月10日,なんと岩波書店も大火で被害を受けた関東大震災直後のことです.大正10年版を絶版にしたいとの意向を伝えつつ,同時に版元への助力の申し出ともとれる興味深い内容ですが,「焼けないで云々」は実にリアリティーがあります.
岩波文庫では132万部に達している『銀の匙』(和辻哲郎解説)ですが,『犬』(富岡多恵子解説)や『中勘助詩集』(谷川俊太郎編)など多くの作品が岩波文庫に収められています.また関連書として『中勘助『銀の匙』を読む』(戸川信介著,岩波現代文庫),『中勘助せんせ』(鈴木範久著),スローリーディングの実践本『〈銀の匙〉の国語授業』(橋本武著,岩波ジュニア新書)もこの機会に是非ご一読下さい.
前篇(一~五十三)
後篇(一~二十二)
中 勘助(なか かんすけ)
1885(明治18)年5月22日,東京神田に生まれる.小石川で少年時代を過ごし,一高から東大に進学,両校で夏目漱石の講義を聴く.漱石の推薦で「東京朝日新聞」に「銀の匙」を連載,作家の道に進む.「提婆達多」「犬」「菩提樹の蔭」などの問題作のほかにも数多くの随筆,掌篇,詩作を発表.1965年朝日文化賞受賞.同年5月3日,満80歳を目前に逝去.
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