享保のロンリー・エレファント

将軍様の象がやってくる! 長崎から江戸へ異国の地を歩く象.ざわめき揺れる人間模様を描いた時代小説.

享保のロンリー・エレファント
著者 薄井 ゆうじ
ジャンル 書籍 > 単行本 > 創作作品(小説・詩・戯曲)
刊行日 2008/05/09
ISBN 9784000225656
Cコード 0093
体裁 四六 ・ 上製 ・ カバー ・ 266頁
在庫 品切れ
享保13年,将軍ご所望の象が,はるばると海をこえ長崎の湊に着いた.象は陸路,異国の地を歩いて江戸城を目指す.瀕死の象を診る医師,象の糞を売る百姓,象を斬ろうとする京娘,象の錦絵を描く絵師,象とともに去る茶屋女,そして象にまたがる将軍吉宗──.象の歩く町々角々にざわめき揺れる人々の心と人間模様を,ファンタジックに描いた小説.


■著者からのメッセージ
 あたらしい時代小説の愉しみ
 時代小説を書くのは僕にとって,はじめての,とてもエキサイティングな体験でした.これまで書いたことがないので,どんな文体にするか,どんな会話体にするか,そして最大の悩みは,生半可な知識しか持ち合わせていない時代考証はどうするのか.書く前のそんな悩みを打ち消すように,ある時代小説の作家が僕にこうおっしゃいました.
「その時代のすべてを知らなくても書けます.あなたは現代のことを,すべて知ってから現代小説を書いているのですか」
 その言葉で吹っ切れた.よし,どうせ書くのなら僕らしい料理方法の時代小説を書こう.そんな意気込みで,時代小説のファンにも,時代小説をあまり読んだことのない人にも,愉しみながら読めるような物語に書き上げたつもりです.舞台が享保であるというだけで,いつの時代も人の心は同じなんですね.時代小説でありながら,ときおり外来語がカタカナで出現するのは,奇をてらったわけではなく,より読みやすく,理解しやすくという必然的な作業でした.
 享保年間,一頭の象が長崎から江戸へ歩き,吉宗の時代を走り抜けました.珍獣である象に湧く市井の人びと.象で利を得ようと奔走する人,象のために人生が大きく変化する人たち,その喜びや悲しみ,そして生きていく力の湧きどころなどを,七つの短篇におさめました.短編集でありながら,全体に大きな仕掛けも用意してありますので,あわせてお愉しみください.それにしても,人って,珍しいものが大好きなんですね.
薄井ゆうじ
わらしべの唄
獺祭の湊
象鳴き坂
半鐘さん
マン・オン・ザ・ムーン
千日手の解法
エピローグ 象を引く
薄井ゆうじ(うすい ゆうじ)
作家.1949年茨城県生まれ.イラストレーター,デザイン編集会社経営を経て,『残像少年』で第51回小説現代新人賞,『樹の上の草魚』で第15回吉川英治文学新人賞受賞.著書に『くじらの降る森』(講談社文庫,全国学校図書館協議会選定図書),『夕海子』(アートン,2002年),『午後の足音が僕にしたこと』(光文社文庫),『水の年輪』(岩波書店,2004年),『彼方へ』(光文社文庫),『イエティの伝言』(小学館文庫),『爺爺ライダー』(アートン,2006年)など多数.
ページトップへ戻る