中勘助せんせ

『銀の匙』の作家の知られざる精神遍歴を,キリスト教伝道者塩田章の残した訪問記と書簡から再現する.

中勘助せんせ
著者 鈴木 範久
ジャンル 書籍 > 単行本 > 評論・エッセイ
刊行日 2009/12/10
ISBN 9784000241649
Cコード 0095
体裁 四六 ・ 上製 ・ カバー ・ 220頁
在庫 品切れ
『銀の匙』の作家の知られざる横顔.その不思議な個性の遍歴を,キリスト教伝道者塩田章の残した訪問記と往復書簡から再現する.「気のおけぬ」塩田青年に見せた素顔,「おみかんちゃん」との濃密な往来……作家の日常のたたずまいに,情感の揺れや「執心と規律」の葛藤が浮かぶ.自ら「無仏教者」と称した精神の秘密に迫る評伝.

■著者からのメッセージ

人間通

鈴木範久

 戦中戦後を通じて二十数年間,中勘助のもとに百数十回以上も通った塩田章さんは,三十年ほど前に世を去った.生前の塩田さんと親しかったにもかかわらず,その勘助訪問記が遺されていることを知ったのは最近である.それは,ふだん携帯していた手帳や句帖にメモのかたちで書きとめられていた.訪問の帰途にバス停や電車のなかでの,ちびた鉛筆による走り書きである.手帳そのものも古びて文字のかすれている部分もあり,率直に言って読みにくい.ところが,大きな虫眼鏡の助けを借りて,少しずつ読みすすめるにしたがい,近頃,これほど楽しい仕事はなかったと思うことしきりであった.いつのまにか,塩田さんをはじめとする戦地帰りの青年たちの一人と化して,ともに勘助のもとに集まっている自分に気づく.一高で藤村操と同じクラスに属した勘助は,それ以来,数々の身近な死に直面し,その凝視を通じて質的に生を深化させていく.そんな勘助を,塩田さんは「中勘助せんせ」の「人間通」と呼んだ.


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静かな日々の陰翳 『銀の匙』の作家の不思議な素顔 その死まで,作家の周辺にいた キリスト教伝道者“塩田章”の記録をもとに, 日本の近代文学史に稀な個性の秘密に迫る.
はじめに

 第一章 勘助塾 
   一 『やまびこ』の青年たち
   二 出会い
   三 雀のお宿訪問――狛江

 第二章 しづかな流れ 
   一 死者・生者
   二 ボルネオの「しづかな流れ」
   三 帰国兵

 第三章 雀のお宿 
   一 雀のお宿訪問――越生
   二 元旦儀礼

 第四章 涙と坐忘 
   一 「せんせ」の涙
   二 『銀の匙』と「私の本棚」
   三 坐忘会
   四 世界三大悪妻

 第五章 おみかんさん 

 第六章 犬と猫の話 
   一 『犬』と検閲
   二 猫の話

 第七章 無仏教と無教会 

 第八章 鳥の話 
   一 小鳥の生まれ変わり
   二 くひな笛

 第九章 余光 
   一 入院の日々
   二 全集の刊行
   三 最後の対談

 終章 「せんせ」らしさ 

  あとがき
  略年表
鈴木範久(すずき のりひさ)
1935年生まれ.専攻,日本宗教史.現在,立教大学名誉教授.
著書:『明治宗教思潮の研究』(東京大学出版会,1979),『内村鑑三をめぐる作家たち』(玉川大学出版部,1980),『内村鑑三』(岩波新書,1984),『内村鑑三日録』全12巻(教文館,1993-99),『日本キリスト教史物語』(教文館,2001),『日本宗教史物語』(聖公会出版,2001),『聖書の日本語』(岩波書店,2006)ほか.
編集:『内村鑑三全集』全40巻(岩波書店,1980-84),『近代日本キリスト教名著選集』全32巻(日本図書センター,2002-04)などの編集のほか,『宗教学辞典』をはじめ,いくつかの日本語辞書の編纂に携わる.
翻訳:内村鑑三『代表的日本人』(岩波文庫,1995)など.

書評情報

婦人公論 2010年4月7日号
山陽新聞(朝刊) 2010年2月22日
河北新報(朝刊) 2010年2月14日
神戸新聞(朝刊) 2010年2月14日
図書新聞 2010年2月13日号
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