豚を盗む

『ありのすさび』『象を洗う』に続く,ほのぼのしたユーモアとペーソスあふれる好評のエッセイ集.

豚を盗む
著者 佐藤 正午
ジャンル 書籍 > 単行本 > 評論・エッセイ
刊行日 2005/02/04
ISBN 9784000246262
Cコード 0095
体裁 四六 ・ 並製 ・ カバー ・ 304頁
在庫 品切れ
海の見える部屋から,1本の古い大木が見える部屋に引っ越した.だが独身小説家の日々の暮らしは,あいもかわらず淡々と過ぎてゆく.「生きることの大半はくり返し」とうそぶきながらも,なにげない出来事に注ぐまなざしには,ほのぼのしたユーモアとペーソスがあふれる.『ありのすさび』『象を洗う』に続く,好評エッセイ集.



■著者からのメッセージ
 この本には2001年以降に書いた連載エッセイが2本,1986年から2004年のあいだに一つひとつ発表した長短もさまざまな文章が40編ほど,それから90年代前半に書いた短い小説がふたつ収録されています.
 つまりこの本には時間の幅があります.1986年といえば小説家としてまだ駆け出しの2年目の年です.2004年はちょうど20年目にあたります.ひとりの小説家の20年の時間の幅が読み取れる本だといえば聞こえがいいですが,実のところ,こういう性格の本が出来あがったのは僕の狙いではなく,時のもたらす偶然からです.
 特にふたつの短い小説についていえば,僕はもう忘れていました.この本の編集者である坂本政謙君がどこかから掘り出してきて,目の前に差し出してくれるまで,それを書いたことすら忘れていました.ひとつは11年前,もうひとつは13年前にそれぞれ掲載誌からの依頼を受けて書いた作品(のよう)です.憶えていろというほうが無理なくらいむかしの話です.
 でも久しぶりに読み返してみて,記憶が戻りました.このふたつの小説は,2編とも,あまり歓迎されなかったということをすぐに思い出しました.読者に歓迎されない以前に,編集部の段階で,という意味です.結果として掲載されているのだから原稿料は貰ったのだろうし,歓迎されるもされないもないじゃないかとも思うのですが,それでも,よみがえった記憶には独特の冷たい温度があり,暗い色がついているのを感じます.当時は僕の真冬の時代でした.真冬の時代というのは,シニカルな目つきで世間を見て(世間からは白い目で見返されたかもしれませんが),偏屈な老人になって徹底的に人づきあいを嫌い,仕事場のコタツでひとり蜜柑の皮をむいてばかりいた時代のことです.もののたとえです.長年生きていると人にはいろんな時代がめぐってきます.ちなみにいま現在は冬の時代です.
 で,そういう僕個人の時代性が,書いた小説に反映するようなことはない(あるまい)と思いたいのですが,原稿を受け取った編集部には受け渡しの段階で伝わらないはずはなかっただろうし,伝われば当然それなりのお返しの対応をうけたことも想像がつきます.おそらくそのせいで僕はふたつの小説のことを忘れたがっていたのだと思います.思い出したくない当時のもろもろの空気みたいなものが,重い蓋になって記憶を押さえこんでいたのだと思います.でも今回ふたつとも読み返して,まあそこまで邪険にあつかわれるいわれもないかなと最終的に判断したので,坂本君と相談して,この本に収録することに決めました.
 次に連載エッセイの話に移ります.たぶん読者のこの本に対する関心は(関心があるとすれば)いちばんにタイトルに向けられるのだろうと想像します.それはわかります.前作が『象を洗う』で,そのときもこの小説家はタイトルの意味について妙な理屈をこねてたけど,こんどは何だ,『豚を盗む』? からかってるのか読者を.さあ,早く聞かせてみろ.こんどはどういう意味だ?
 もちろん意味は説明します.それだけは忘れずにやってください,と坂本君に注意されているので今回もやります.でもおいおいやります.
(「あとがき」より)
転居

I 小説のヒント
  スカボローフェア
  スカボローフェア2
  十年後のスパゲティ
  十三年前の冬
  リンゴのおいしい食べ方
  バナナのおいしい食べ方
  カトラリー
  十七歳

II つまらないものですが.
  ファーストキス
  少数派
  ほんとの話
  ジーパン
  サイン
  苦手
  人嫌い
  合鍵
  小銭
  わからない
  自慢話
  文章の巧拙
  叔父さんの恋

III 豚を盗む
  浴衣と爆竹の長崎
  お国自慢
  王様の生活
  食生活の内訳
  草枕椀
  仕事用の椅子
  毎日が同じ朝に
  ラッキー・カラー
  憧れのトランシーバー
  植物の「気」
  台所のシェリー酒
  きのう憶えた言葉
  言い違え
  ペイパー・ドライバー
  シートベルト
  わが師の恩――マスダ先生
  親不孝
  飴と薬
  時のかたち
  雨を待つ日々
  エアロスミス効果
  長く不利な戦い
  約束
  二十年目

あとがき
初出一覧
佐藤正午(さとう しょうご)
1955年8月25日,長崎県佐世保市生まれ.北海道大学文学部中退.83年に「永遠の1/2」で,第7回「すばる」文学賞を受賞.
著書に「彼女について知ることのすべて」(集英社,1995年),「取り扱い注意」(角川書店,1997年),「バニシングポイント」(集英社,1997年),「Y」(角川春樹事務所,1998年),「カップルズ」(集英社,1999年),「きみは誤解している」(岩波書店,2000年),「ジャンプ」(光文社,2000年),「ありのすさび」「象を洗う」(岩波書店,2001年),「Side B」(小学館,2002年)など.
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