随筆 辞書を育てて

国語辞典編纂者の随筆集.昭和初期の下町言葉から平成の流行語まで,時代の鏡となる言葉たちが語りだす.

随筆 辞書を育てて
著者 水谷 静夫
ジャンル 書籍 > 単行本 > 評論・エッセイ
刊行日 2012/06/07
ISBN 9784000258456
Cコード 0095
体裁 四六 ・ 上製 ・ 214頁
在庫 品切れ
半世紀以上『岩波国語辞典』編纂に携わってきた国語学者の随筆集.江戸の空気が濃厚に残る昭和初期の浅草での子ども時代から,勤めを退いた現在までの想い出に,辞書のため用例として収集されてきた言葉たちが絡んでいく五十篇.かつて下町に息づいていた地名,失われた東京弁の語彙や,風物とともに消えた言葉も甦る.

■著者からのメッセージ

 私の名を知る人は私を計量(または数理)国語学者とか国語辞書編纂者とかと見ておいでらしい.別に異存はない.たゞ近来の私には両方をこなす程の元気が無い.そこで数理的研究を中止し,辞書の仕事に労した.疲れの度合は辞書の方が上を行くが,当の分野で働き得る人物の数から見ると,これらの間なら辞書作りの方が断然少ない.今までの行き掛りも有る.だからこちらに就いた.
 随筆は辞書改修の仕事の合間々々の息抜きに書いた.初めは私の所謂ゼミに属した学生が読むことを前提にした.或程度の分量に達すると,それら卒業生ばかりでなく,話題に関心を寄せてくれさうな友人知人(理科系の人々を含む)にも配りたくなり,教師を辞めた三年目に『一寸した事』と題する私家版にした.
(中略)
これが案外に好評だった.味を占めたといふのでないが,その後も同じ調子で随筆を書き連ねた.
(「はしがき」より)
はしがき

第一章 町の子だった日
幼い夢 
〇〇屋
そんな事もあった
皮肉な「歡送」 
「ちゃん」「おっかあ」 
母の自慢話
夕焼け小焼け

第二章 そのかみの鼓動
馴染んだ東京弁
突っ掛け持ち
紺屋高尾
銭形平次に鞍馬天狗
言葉の新旧里程標
番傘に思ふ

第三章 東京の地名を歩く
居周り半みち
向島北寄り
谷中を歩く
ふるさと
昭和出来の民話
鳥越
練馬大根
湯島の梅

第四章 兵隊は
雑兵の記
苦い質問
軍国
赤ゲットで地麦酒
陸奥の吹雪

第五章 辞書編纂の折節に
辞書改修者の躊躇
電車が歩く
その筋
漢語の書き替へ
既に古語?
対語
「ヒト」
「際」
山が見えた

第六章 文芸の小みち
紙碑 惹かれる小説たち
勢語私解(抄)
長明さんの飯
歌の嗜み
『警視庁草紙』
めるひぇん
『名人傳』

第七章 勤めは引いた
言葉
筆記具
昭和レトロ
『不完全性定理』
振り仮名
地図を逆さに見れば
「国際化」といふムラ意識
国語学が楽しかったか

(扉及び本文中の絵は筆者による)
水谷静夫(みずたに しずお)
1926年,東京浅草生まれ.国語学者.
1948年東京大学卒業後,国立国語研究所勤務を経て,1964-91年,東京女子大学で教鞭をとる.コンピュータを用いた言語処理を早期から導入し,日本語の実態を分析.『岩波国語辞典』の編纂に,初版(1963年)から現在の第7版(2009年),第7版新版(2011年)までかかわる.著書に,『言語と数学』(森北出版,1970年),『数理言語学』(培風館,1982年),『曲り角の日本語』(岩波新書,2011年)ほか.

書評情報

北日本新聞(朝刊) 2012年9月9日
毎日新聞(朝刊) 2012年9月2日
東京人 2012年9月号
朝日新聞(朝刊) 2012年8月5日
書道界 2012年8月号
読売新聞(夕刊) 2012年7月9日
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