遠野物語 遭遇と鎮魂

豊饒な物語群に,心理学,民俗学,国文学など多彩な書き手が迫る.執筆=三浦佑之,岡部隆志,田中康裕ほか.

遠野物語 遭遇と鎮魂
著者 河合 俊雄 , 赤坂 憲雄
ジャンル 書籍 > 単行本 > 評論・エッセイ
刊行日 2014/03/28
ISBN 9784000259538
Cコード 0095
体裁 四六 ・ 並製 ・ カバー ・ 276頁
在庫 品切れ
2011年の震災以降,東北という地域の古層をひもとく書物として,また,自然や山人など「異質な他者」との遭遇,別れと鎮魂を刻印した古典として再び注目された「遠野物語」.心理学,民俗学,国文学など多彩な書き手が,新たな読みを提示する.編者以外の執筆=今石みぎわ,田中康裕,岡部隆志,川野里子,猪股剛,岩宮恵子,三浦佑之.


■編集部からのメッセージ
 本書は,ユング派分析家である河合俊雄さんと,民俗学者の赤坂憲雄さんを中心とした「遠野物語研究会」から生まれた論集です.お二人につながる臨床心理学の分野の研究者・実践家,民俗学者,国文学者,歌人といったバラエティにとんだ方々が,いかにあの『遠野物語』にとりくんだか,新鮮な「読み」が提示されます.
 「『遠野物語』という言葉の織物は,豊饒なるカオスをはらんでいる.それゆえに,そのひとつひとつの物語の解釈もまた,きわめて多様な方位に向けて開かれている.そんなことは十分に承知していたはずだった.ところが,心の臨床にかかわる人たちと『遠野物語』をともに読む,ささやかな研究会を始めてみると,それはたちまちにして心地よく裏切られていった.……解釈の多様性の中身が,わたしの予想をはるかに越えていたのだった」(あとがき)との赤坂さんの言葉通り,すばらしい古典というのは本当に奥が深いものだとうならされる,そんなお原稿が集まりました.
 また震災以降,『遠野物語』はある特別な意味をもつ書物ともなりました.本書では,震災後に注目を集めた鎮魂の物語「九九話」に特に着目し,三浦佑之さんの九九話についてのお原稿に対し三人の書き手が応答するような趣向で,特別な一章を立てました.
 ゆっくりと『遠野物語』の傍らで本書を味読していただければ幸いです.
はじめに 河合俊雄

Ⅰ 「遭遇」という主題
出会いのトポス――描かれた山と人間 今石みぎわ
『遠野物語』と意識の成立 河合俊雄
近代と前近代の狭間で消え去るお話たちのお話――「狼」話群からみた「遠野物語の意識」 田中康裕

Ⅱ 物語の豊饒を継いで
異人は遊ぶ 岡部隆志
抒情詩としての『遠野物語』――もう一つの言葉の可能性をめぐって 川野里子
「語ることのできないもの」――物語と共同性 猪股 剛
異界につながる物語の力――『遠野物語』と心理療法 岩宮恵子

Ⅲ 鎮魂の物語 第九九話を読む
九九話の女――遠野物語と明治三陸大津波 三浦佑之
和解について 赤坂憲雄
福二の三度の喪失 田中康裕
九九話におけるインターフェースと振り返り 河合俊雄

あとがき――新たな読みの作法は可能か 赤坂憲雄
河合俊雄(かわい としお)
ユング派分析家,臨床心理士,京都大学こころの未来研究センター教授.著書に『ユング派心理療法』(編著,ミネルヴァ書房,2013),『村上春樹の「物語」――夢テキストとして読み解く』(新潮社,2011),『心理療法の理論』(岩波書店,2000)など.

赤坂憲雄(あかさか のりお)
学習院大学文学部教授,福島県立博物館長.東北学を提唱し,99年『東北学』を創刊.著書に『震災考 2011.3‐2014.2』(藤原書店,2014),『北のはやり歌』(筑摩選書,2013),『岡本太郎の見た日本』(岩波書店,2007,ドゥマゴ文学賞,芸術選奨文部科学大臣賞)など.

今石みぎわ(いまいし みぎわ)
東京文化財研究所無形文化遺産部研究員.論文に「ボルネオ島サラワク州における削りかけ状木製具について――日本列島の削りかけ習俗との比較から」(『無形文化遺産研究報告』東京文化財研究所無形文化遺産部編,2013.7),「日本海沿岸地域のタブノキをめぐる民俗と景観」(『東北地方における環境・生業・技術に関する歴史動態的総合研究 研究成果報告書Ⅱ』東北芸術工科大学東北文化研究センター,2012)など.

田中康裕(たなか やすひろ)
ユング派分析家,臨床心理士,京都大学大学院教育学研究科准教授.著書に『大人の発達障害の見立てと心理療法』(河合俊雄と共編著,創元社,2013),著書に『魂のロジック――ユング心理学の神経症とその概念構成をめぐって』(日本評論社,2001)など.

岡部隆志(おかべ たかし)
共立女子短期大学教授.日本古代文学,近現代文学.著書に『神話と自然宗教(アニミズム)――中国雲南省少数民族の精神世界』(三弥井書店,2013),『七五調のアジア――音数律からみる日本短歌とアジアの歌』(共編書,大修館書店,2011)など.

川野里子(かわの さとこ)
歌人.歌集に『王者の道』(角川短歌叢書,2010,同年若山牧水賞),『太陽の壺』(砂小屋書房,2002,河野愛子賞),評論集に『幻想の重量――葛原妙子の戦後短歌』(本阿弥書店,2009,葛原妙子賞)など.

猪股 剛(いのまた つよし)
ユング派分析家,臨床心理士,帝塚山学院大学准教授.著書に『心理学の時間――歴史意識の時代の中で』(日本評論社,2005),『心理臨床関係における身体』(共著,京大心理臨床シリーズ,2009)など.

岩宮恵子(いわみや けいこ)
臨床心理士,島根大学教育学部教授.著書に『好きなのにはワケがある――宮崎アニメと思春期のこころ』(ちくまプリマー新書,2013),『フツーの子の思春期――心理療法の現場から』(岩波書店,2009)など.

三浦佑之(みうら すけゆき)
立正大学大学院文学研究科教授.国文学.著書に『古代研究――列島の神話・文化・言語』(青土社,2012),『口語訳 古事記』(文藝春秋,2002,角川財団学芸賞)など.

書評情報

東京新聞(朝刊) 2014年6月29日
読売新聞(朝刊) 2014年4月20日
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