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イタリア・ユダヤ人の風景

苦難に生き,闘い,斃れたイタリア・ユダヤ人の足跡をローマ・ヴェネツィアなど4都市に訪ねる.

イタリア・ユダヤ人の風景
著者 河島 英昭
ジャンル 書籍 > 単行本 > 文学・文学論
刊行日 2004/12/10
ISBN 9784000221450
Cコード 0098
体裁 四六 ・ 上製 ・ 382頁
在庫 品切れ
第2次大戦下のイタリア.ファシズムとナチズムが交錯する都市の片隅で,戦火とは異なる暴力が多くの命を奪おうとしていた.どんな運命がイタリアのユダヤ人たちを待ちうけ,何が彼らの命運を分けたのか.苦難に生き,闘い,斃れた彼らの声を沈黙する街路から聞き取るために,ローマ,ヴェネツィア,トリエステ,フェッラーラを訪ねる.


■著者からのメッセージ
 前著『ローマ散策』(岩波新書,2000年11月刊)は,小著とはいえ,積年の旅の経験をそのなかに注ぎ込んで,《永遠の都》ローマの魅惑の秘密をほぼ明るみに出すことができた.安堵の胸を撫でおろすとともに,他方で新書の制約上,どうしても盛りきれなかった項目がいくつかあり,心が落ち着かなかった.そのひとつが,イタリア半島における古くからのユダヤ人問題であり変貌するゲットーの現在であった.
 2001年9月11日,ニューヨークで事件は起こった.背後にユダヤ人国家イスラエルの問題が蟠っていることは明らかであろう.目を閉じれば,巨大なビル爆破の残映が生々しく浮かんでくる身を,座席にゆだねながら,私は成田空港を飛び立ち,ローマへ向かった.そしてたちまちにユダヤ人街区の外れに赴き,古代ローマの廃墟に近い草むらの前に佇んだ.あの日,家畜の群れのようにそこに集められた,1000名以上のユダヤ人のなかの,10歳の子供のひとりの気持になって,それからは列車に揺られながら,私は半島の鉄路を北上した.
 ヴェネツィア,トリエステ,またフェッラーラの各都市で,ユダヤ人街区の小路の奥に私が見届けた彼らや彼女らの現在は,そして幻影のように浮かび上がってきた私の思念のうちの彼女らや彼らの過去は,どのように読者に伝えられたのであろうか.
(「あとがき」より)


■編集部からのメッセージ
 〈シンドラーのリスト〉〈戦場のピアニスト〉など映像作品からも明らかなように,ホロコーストは今も世界的に大きなテーマであり続けています.それはなぜでしょうか.ナチスの人種絶滅政策という時間的にも空間的にも特殊限定的に見えるこのテーマの投げかけるものが,宗教や民族といったいわば大上段の問いだけでなく,嫌悪や差別,裏切りや密告,あるいは犠牲的精神や連帯,個人の信念や家族愛など,人間の本質的なありようを映しだす強烈な鏡だからではないでしょうか.本書は,ホロコーストとは一見無縁に思いがちなイタリアの四都市への旅を通じて,ゲットーの歴史や大戦下イタリアの姿と今日の日常風景とを見事に重ねあわせ,「生還者」やパルチザンの証言,ナチス側の記録,市民の記憶にさまざまな文学作品も加えて,もう一つのイタリアを立体的に描き出す,稀有な作品です.ユダヤ人非ユダヤ人を問わず,また歴史であろうと文学であろうと,「過去」とどう向き合い,どのように自身の生を生き続けていくか.多くの登場人物の生と死から浮かび上がるこうした人間の営みへと向かう強烈な意志が,厖大な資料と長年格闘しつづけてきた著者の奥行きある文章とともに鮮やかに甦り,読む者の胸を打ちます.
プロローグ 旅のはじまり

第1章 戦線へのピクニック
1 ふたりの逃避行
2 1943年10月16日
3 真実への意志
4 ローマの南,ナーポリの北

第2章 ローマ,2001年10月16日
1 ゲットーの内側へ
2 ローマの惨劇
3 反ファシズムの闘士たち
4 脱獄
5 スパイ

第3章 無防備都市 ローマ
1 ラゼッラ街の襲撃
2 フォッセ・アルデアティーネの虐殺
3 報復の名の下に

第4章 島のゲットー ヴェネツィア
1 ローマ発ヴェネツィア行
2 水に囲まれたゲットー
3 最後の列車

第5章 丘と港の町で トリエステ
1 鉄路の先に
2 消されたゲットー
3 商都の文学者たち

第6章 愛と憎しみのフェッラーラ
1 ポー・デルタの城郭都市
2 1943年の長い夜
3 マッツィーニ街の墓碑

エピローグ ふたたびローマへ

あとがき
主要参考文献
関連年表

河島英昭(かわしま ひであき)
1933年東京生まれ.現在,東京外国語大学名誉教授.イタリア文学.主な著書に『叙事詩の精神』(岩波書店),『ローマ散策』(岩波新書),『イタリアをめぐる旅想』(平凡社ライブラリー),『世界の歴史と文化 イタリア』(監修,新潮社)などのほか,主な訳書に,マキアヴェッリ『君主論』,ヴェルガ『カヴァレリーア・ルスティカーナ』,カルヴィーノ『イタリア民話集』,モラーヴィア『無関心な人びと』,パヴェーゼ『故郷』(以上,岩波文庫),エルサ・モランテ『カテリーナのふしぎなお話』(岩波書店),P・マルヴェッツィ/G・ピレッリ『イタリア抵抗運動の遺書』(富山房百科文庫),ボッカッチョ『デカメロン』(講談社学芸文庫),エーコ『薔薇の名前』(東京創元社)などがある.

書評情報

朝日新聞(朝刊) 2005年3月6日
毎日新聞(朝刊) 2005年2月6日
日刊ゲンダイ 2005年1月27日
読売新聞(朝刊) 2005年1月10日

受賞情報

第57回読売文学賞〔随筆・紀行賞〕(2005年)
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