独裁者になるために

1939年,目下の西欧の状況を睨んでアメリカで独裁者たらんと願う政治家を取り巻き抱腹絶倒の激論!

独裁者になるために
著者 I.シローネ , 齋藤 ゆかり , 加藤 周一 解説
ジャンル 書籍 > 単行本 > 文学・文学論
刊行日 2002/12/20
ISBN 9784000241212
Cコード 0097
体裁 四六 ・ 上製 ・ カバー ・ 306頁
在庫 品切れ
1939年,アメリカで独裁者たらんと願う政治家が,博学多識の教授を従えて模索の旅の途上スイスのジュネーヴに.迎えるは海千山千の亡命知識人.目下のヨーロッパのキナ臭い政治状況を視野に独裁者の条件をめぐって辛辣にして抱腹絶倒の激論が続く.1962年に書かれた作品ながら,まさに世界の今を照射する政治小説![解題:加藤周一]


■緊急対論!? なぜ、いま独裁者なのか
Q)――こんな「独裁者」の亡霊がなんで今時,いつだか流行ったけど「狼少年」と一緒に,もうとっくに済んでるんじゃないかな.
A)お言葉ですが,この本の中身についてちょっと言いますと,1939年, あのアメリカ合衆国で独裁者たらんと志す政治家が,その知的懐刀(パトロン)である博学の教授を伴って模索の旅の途上スイスのチューリッヒに登場.これにイタリアからの亡命者の海千山千の論客がひとり加わる.独裁と言えば,じつに目下のホットな政治状況――南を望めばイタリア王国のドゥーチェ・ムッソリーニ,北の方にはドイツ共和国のヒットラー総統,はるか彼方にスターリン書記長の率いるソ連邦,ヨーロッパの領袖国たる英・仏の方々――を睨んで,独裁者たちに成り上がったうさん臭い来し方に遠慮なく立ち入っての売り言葉に買い言葉,上げたり下げたり,はては古今東西の独裁者たちまでも俎上に呼び込んでの抱腹絶倒のバトルにつぐバトル.はてさて,その独裁者の条件に叶うものとは,というもの….加藤周一さんは,「解題」で『三酔人経綸問答』との類似を言ってる.

Q)――独裁というのは国家体制を当然超える・・・・
A)もちろん超えるけど, 独裁者の定義はちょっと不能. とはいっても国家元首が国民投票で90%も取っちゃう国もあるんだし,どっかの大統領の身ぶりもこの頃おかしいだろ,危ない議論の続くこの書物メディアの「バラエティ番組」を覗いて,そっと辺りを窺ってみるのも,時宜には適っていると思う.

Q)――いま流行の民主主義という大衆社会への皮肉,シニシズム?
A)いや, 独裁者をめぐって実も蓋もなくズッコケたり,ユーモアを交えての激論なんだけど, 皮肉,シニシズムそのいずれでもない.「さればこの本は,今こそ読むに値いするだろう,と私は思う」と,加藤周一さんは引き取っているんだ.
【編集部:星野紘一郎】
本書の刊行によせて
独裁者について(加藤周一)

1 著者,コロンブスの卵を求めてヨーロッパにやってきた2人のアメリカ人に会う.相手は,独裁者志望のダブル氏と氏のイデオロギー顧問,かの有名なピックアップ教授
2 伝統的政治術と,大衆文化の時代におけるその限界
3 われわれの時代において全体主義的傾向を助長するいくつかの条件について
4 革命失敗後のクーデタ計画
5 独裁を志す男の文芸の女神(ミューズ)への片思い,ナンセンスな家系図と偏頭痛について
6 素質ある者多かれど,選ばれる者少なし
7 独裁志願者の政党について
8 綱領は無用の長物.議論は禁物.いかにして大衆を暗示にかけるか
9 民主主義はいかにしておのれを食い尽くすか.どさくさに紛れて漁夫の利を得る術の参考例
10 二枚舌の使い方と自分の嘘に騙される危険について
11 全体主義の天命に嫌気がさして,プライヴェートな生活が恋しくなる
12 警察と軍隊の後ろ盾がない陰謀,反乱の孕む危険性について
13 溺れる者への藁(レンズ豆スープ)作戦と当局の手を借りたクーデタ
14 国民総賛成,国家=党の浸透,濡れ衣の大量生産について
 
訳者あとがき/人名註
本書の装丁者:宇野泰行


イニャツィオ・シローネ(1900-78)
イタリア中部,アブルッツォ地方の生まれ.10代半ばから農民運動に投じ,19歳の若さで,イタリア社会党青年部の週刊誌「ラヴァングアルディア」を手にして戦う作家に.著作に,『フォンタマーラ』『葡萄酒とパン』『雪の下の種子』『非常口』などがある.国際色の豊かできわめて水準が高い文芸・政治誌の編集・論説にも腕を振るった.

齋藤ゆかり(1959-)
イタリア文学の翻訳家.イタリア在住.訳書に『葡萄酒とパン』(シローネ),『亡命家族の肖像――ムッソリーニのイタリアを逃れて』(フランカ・マニャーニ)など.

書評情報

図書新聞 2003年8月2日号
ダ・ヴィンチ 2003年3月号
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