歴史が後ずさりするとき

熱い戦争とメディア

政治とメディアの現実を鋭く批判し,狂信と軽信におおわれた時代の行方に警鐘を鳴らすエーコの評論集.

歴史が後ずさりするとき
著者 ウンベルト・エーコ , リッカルド・アマデイ
ジャンル 書籍 > 単行本 > 文学・文学論
刊行日 2013/01/24
ISBN 9784000256629
Cコード 0098
体裁 四六 ・ 上製 ・ カバー ・ 390頁
在庫 品切れ
政治とメディアの現実を鋭く批判するエーコの評論集.グローバル化の中の軍事衝突,原理主義の台頭,とめどなく娯楽化していくメディア――.社会が狂信と軽信にますますおおわれ,歴史があたかも進歩をやめて後ずさりし始めたかに見える21世紀の行方に,エーコは知識人の使命を問い直しながら激しく警鐘を鳴らす.

■編集部からのメッセージ

『永遠のファシズム』(1996年)以来,ひさびさのエーコの社会評論集です.
いかにもエーコらしい,ちょっとひねった書名の原題は A passo di gambero.「エビの歩き方で」という意味です.訳者によれば,イタリア人にとって,エビとは,歩くときに後ろへ下がるような歩き方をするもの,というイメージがまずあるとのこと.
人類は本来なら「進歩」しなければならないのに,最近の世界的な出来事や社会現象を見ると,むしろ昔の状態に戻りつつあるのではないか? 歴史は後戻りを始めたのではないか? ――21世紀の世界を見つめる知識人エーコの抱いた感懐が,まさに「エビの後ずさり」だったのです.
本書には,政治,宗教,教育,メディア,科学技術,グローバル化,大衆文化,などなど,幅広いテーマをとりあげた長短42篇のエッセイが収められていますが,徹底した論理と鋭い批判の眼に裏打ちされた明快な論旨展開には,いつもながら,エーコ一流の機知とユーモアがミックスされていて,思わず引き込まれます.
また,末尾の2篇はエーコが(珍しく?)自分の人生観を吐露したとも言える内容で,近年の心境の一端がうかがわれます.
ぜひご一読ください.
エビの歩き方――歴史の後ずさり

I 戦争,平和,その他のこと
戦争と平和をめぐるいくつかの考察
アメリカを愛し,平和行進には参加
ヨーロッパの展望
狼と羊――濫用の修辞学
ノルベルト・ボッビョ――学者の使命についての再考察
啓蒙主義と常識
遊びからカーニヴァルへ
プライヴァシーの喪失
ポリティカリー・コレクトについて
私立学校とは何か
科学,技術,魔術

II グレート・ゲームへの逆戻り
ワトソンとアラビアのロレンスとの間で
この話はどこかで聞いたことがある
まず資料をそろえる
戦うには文化を要する
正義の側に立たなくても勝てる
グレート・ゲームの記録
言葉は石のようなものだ
言葉の戦争
ビン・ラディンを「理解している」人たち
原理主義,十全主義(インテグラリズム),人種差別主義
内戦,レジスタンス,テロリズム
カミカゼと暗殺者

III 十字軍への逆戻り
聖戦,感情,理性
多民族社会における交渉のしかた
エルサレム陥落――生中継
ミス,原理主義者,ハンセン病患者
アダム以前の人間の存在をどう取り扱うか

IV 『神学大全』その他
ヨーロッパの根源
キリストの十字架像,風俗と習慣
胎芽の霊魂について
偶然と知的設計論
わしの息子から手を引け
神を信じなくなった人間は何でも信じる
ゼロ年を信じる
錬金術を信じる
アーモルト神父を信じる
超能力者を信じる
テンプル騎士団を信じる
ダン・ブラウンを信じる
伝統を信じる
トリスメギストスを信じる
第三の秘密を信じる
PACSとルイーニ枢機卿
相対主義なのか?

V 人種の防衛
イタリア人は反ユダヤか?
陰 謀
私の最も親しい友人の何人かは
彼の最も親しい友人の何人かは

VI 第三千年紀初めの黄昏
ある夢
死の短所と長所について

訳者あとがき
ウンベルト・エーコ(Umberto Eco)
1932年,北イタリアのアレッサンドリャに生まれる.世界的な記号論学者にしてヨーロッパを代表する知識人.評論・創作に幅広く活躍する.著書に,『記号論』『永遠のファシズム』『カントとカモノハシ』『エーコの文学講義』(以上,岩波書店),『開かれた作品』(青土社),『完全言語の探求』(平凡社)ほか.小説に,『薔薇の名前』(東京創元社),『フーコーの振り子』『前日島』(以上,文藝春秋),『バウドリーノ』(岩波書店)など.
訳:リッカルド・アマデイ(Riccardo Amadei)
1945年,北イタリアのトリーノに生まれる.1968年,日本政府給費留学生として来日,東京藝術大学に学ぶ.現在,翻訳者・同時通訳者として活躍.訳書に,ジャンナ・スケロット『誰もがみんな嘘をついている』(青山出版社)など.

書評情報

日本経済新聞(朝刊) 2013年3月24日
徳島新聞(朝刊) 2013年3月17日
週刊文春 2013年3月7日号
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