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魂の変容
心的基礎概念の歴史的構成
心にかかわる基本用語の変容の歴史を解明し,内的で能動的存在という理解から「心」を解放する.
「対象」「感情」「想像力」「志向性」など,心のはたらきにかかわる基本用語の成立とその意味変容の歴史を古代ギリシアから歴史的にたどり,その言葉に織り込まれた意味を解きほぐす.内的で能動的存在という通念から解放された心の描像を提示し,心をめぐる探究に分野を超えて豊かな示唆を与える注目の書.
■著者からのメッセージ
「対象」「感情」「想像」「志向性」あるいは「能動と受動」――この本で論じたのは心のはたらきにかかわるこうした基礎的な概念です.これらの概念のほとんどは,日常会話にも頻繁に登場し,われわれにとってすでに必要不可欠なものとなっています.このような概念がなくては,世界のあり方や他者,そして自分自身を十分に理解したり説明したりすることがきわめて困難に思われます.
しかし,現在では不可欠で自明な存在に見える概念であっても,それが必要とされたために形成され,また受容され継承されることによって存続してきました.このことは,概念の形成もその理解の仕方も,特定の時代の特定の文脈によって何らかの仕方で規定されていることを示唆します.事実,こうした概念は,歴史のなかで意味の変貌を遂げてきました.しかしその過去の意味も,しばしば概念の現在的理解に何らかの形で痕跡を残しており,そのためにこうした基礎概念はいくつかの意味ないしは複数の思考が縒りあわされた織物のようになっています.
この本で私は,自分の目で文献を確かめながら,その概念が必要とされ,受容され,そして変容された経緯をたどり,そこに織り込まれた思考を解きほぐすことを試みました.その結果いわゆる通説的な概念史も再検討することになりました.たとえば,対象を表わすobjectという概念は,もともとは「心に与えられるもの」という「主観的」なものであり,逆に主観を表わすsubjectという概念はさまざまな存在の「基にあるもの」という「客観的」なものを意味した,と解説されています.しかしこうした解説も見直しが必要でした.通説の検証を含めて基礎概念の歴史をあらためてたどり直すというこの本での作業が,こうした概念の使用がわれわれのものの見方をどのように拘束しているのかを浮かび上がらせ,それぞれの概念の理解を反省するひとつの手がかりになれば,と願っています.
-
歴史的考察と現代的関心とが結合した豊かな成果 心にかかわる基本用語の成立・受容・変容の歴史をたどり、そこに織り込まれた意味を解きほぐすことで、内的で能動的な存在という従来の心の理解からの脱却をめざす。
■著者からのメッセージ
「対象」「感情」「想像」「志向性」あるいは「能動と受動」――この本で論じたのは心のはたらきにかかわるこうした基礎的な概念です.これらの概念のほとんどは,日常会話にも頻繁に登場し,われわれにとってすでに必要不可欠なものとなっています.このような概念がなくては,世界のあり方や他者,そして自分自身を十分に理解したり説明したりすることがきわめて困難に思われます.
しかし,現在では不可欠で自明な存在に見える概念であっても,それが必要とされたために形成され,また受容され継承されることによって存続してきました.このことは,概念の形成もその理解の仕方も,特定の時代の特定の文脈によって何らかの仕方で規定されていることを示唆します.事実,こうした概念は,歴史のなかで意味の変貌を遂げてきました.しかしその過去の意味も,しばしば概念の現在的理解に何らかの形で痕跡を残しており,そのためにこうした基礎概念はいくつかの意味ないしは複数の思考が縒りあわされた織物のようになっています.
この本で私は,自分の目で文献を確かめながら,その概念が必要とされ,受容され,そして変容された経緯をたどり,そこに織り込まれた思考を解きほぐすことを試みました.その結果いわゆる通説的な概念史も再検討することになりました.たとえば,対象を表わすobjectという概念は,もともとは「心に与えられるもの」という「主観的」なものであり,逆に主観を表わすsubjectという概念はさまざまな存在の「基にあるもの」という「客観的」なものを意味した,と解説されています.しかしこうした解説も見直しが必要でした.通説の検証を含めて基礎概念の歴史をあらためてたどり直すというこの本での作業が,こうした概念の使用がわれわれのものの見方をどのように拘束しているのかを浮かび上がらせ,それぞれの概念の理解を反省するひとつの手がかりになれば,と願っています.
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歴史的考察と現代的関心とが結合した豊かな成果 心にかかわる基本用語の成立・受容・変容の歴史をたどり、そこに織り込まれた意味を解きほぐすことで、内的で能動的な存在という従来の心の理解からの脱却をめざす。
序 異なる思考の方向感覚を取り戻すために
I 名づける,喩える,書き換える
1 何を名づけるのか
2 心の能動―受動という「メタファー」
3 「堪え忍べ,わが心臓」
4 プラトン――能動―受動はいかにして魂について語られるのか
5 アリストテレス――魂のはたらきはなぜパトスなのか
6 心の人文学,そして心の哲学へ向けて
II オブジェクトとの遭遇
――「主客転倒」以前の対象概念――
1 主―客は転倒したか?
2 「オブイェクトゥム」の参入
3 相関的対象――アリストテレスのアンティケイメノン
4 「オブイェクトゥム」の導入状況
5 魂が直面する身体への刻印――ボエティウスにおける「オブイェクトゥス」
6 小休止――哲学的含意
7 事物の形象(スペキエース)――アウグスティヌスにおける「オブイェクトゥス」
8 表象(ファンタシアー)――ストア派における「オブイェクトゥス」
9 オブイェクトゥムはいかにして<対象>となったか
10 精神はオブイェクトゥムに遭遇する
11 対象に開かれた心へ
III <感情>の論理,理論としての<感情>
1 <感情>の現在
2 古代感情論の再評価
3 <感情>の理論
IV ファンタシアーの変貌
――現われ・表象・想像――
1 ファンタシアーの略歴
2 アリストテレスのファンタシアー論の影響
3 アリストテレスのファンタシアー論の実際
4 ファンタシアーの像性
5 普遍化への指向
6 ファンタシアーの問題圏
V 志向性――現在状況と歴史的背景――
1 志向性素描
2 問題の図柄の定着
3 議論の諸前提
4 ブレンターノにおける「志向的内在」
5 アリストテレス・デカルト・ブレンターノ
6 アリストテレスの解釈史における志向性
7 異なる系譜づけの試み
註
あとがき
文献
古典引用索引
人名索引
事項索引
I 名づける,喩える,書き換える
1 何を名づけるのか
2 心の能動―受動という「メタファー」
3 「堪え忍べ,わが心臓」
4 プラトン――能動―受動はいかにして魂について語られるのか
5 アリストテレス――魂のはたらきはなぜパトスなのか
6 心の人文学,そして心の哲学へ向けて
II オブジェクトとの遭遇
――「主客転倒」以前の対象概念――
1 主―客は転倒したか?
2 「オブイェクトゥム」の参入
3 相関的対象――アリストテレスのアンティケイメノン
4 「オブイェクトゥム」の導入状況
5 魂が直面する身体への刻印――ボエティウスにおける「オブイェクトゥス」
6 小休止――哲学的含意
7 事物の形象(スペキエース)――アウグスティヌスにおける「オブイェクトゥス」
8 表象(ファンタシアー)――ストア派における「オブイェクトゥス」
9 オブイェクトゥムはいかにして<対象>となったか
10 精神はオブイェクトゥムに遭遇する
11 対象に開かれた心へ
III <感情>の論理,理論としての<感情>
1 <感情>の現在
2 古代感情論の再評価
3 <感情>の理論
IV ファンタシアーの変貌
――現われ・表象・想像――
1 ファンタシアーの略歴
2 アリストテレスのファンタシアー論の影響
3 アリストテレスのファンタシアー論の実際
4 ファンタシアーの像性
5 普遍化への指向
6 ファンタシアーの問題圏
V 志向性――現在状況と歴史的背景――
1 志向性素描
2 問題の図柄の定着
3 議論の諸前提
4 ブレンターノにおける「志向的内在」
5 アリストテレス・デカルト・ブレンターノ
6 アリストテレスの解釈史における志向性
7 異なる系譜づけの試み
註
あとがき
文献
古典引用索引
人名索引
事項索引
中畑 正志(なかはた まさし)
1957年,長野県生まれ.県立上田高等学校,京都大学文学部哲学科卒.1986年京都大学大学院文学研究科博士後期課程学修指導認定退学.
文学博士(2005,京都大学).東京都立大学助手,九州大学助教授を経て,現在,京都大学大学院文学研究科教授(西洋哲学史・古代).
共著:『哲学の歴史 第1巻』(中央公論社,2008)『岩波講座 哲学 第1巻』(岩波書店,2008.同講座編集委員)『イリソスのほとり』(世界思想社,2005)ほか.訳書:アリストテレス『魂について』(京都大学学術出版会,2001)ほか.
1957年,長野県生まれ.県立上田高等学校,京都大学文学部哲学科卒.1986年京都大学大学院文学研究科博士後期課程学修指導認定退学.
文学博士(2005,京都大学).東京都立大学助手,九州大学助教授を経て,現在,京都大学大学院文学研究科教授(西洋哲学史・古代).
共著:『哲学の歴史 第1巻』(中央公論社,2008)『岩波講座 哲学 第1巻』(岩波書店,2008.同講座編集委員)『イリソスのほとり』(世界思想社,2005)ほか.訳書:アリストテレス『魂について』(京都大学学術出版会,2001)ほか.
書評情報
信濃毎日新聞(朝刊) 2012年3月25日
信濃毎日新聞(朝刊) 2012年3月22日
信濃毎日新聞(朝刊) 2012年3月22日
受賞情報
第24回和辻哲郎文化賞〔学術部門〕(2012年)