フィリピンと対日戦犯裁判

1945-1953年

東京裁判とBC級戦犯裁判──戦後日比関係の出発点となった二つの対日戦犯裁判のプロセスをたどる労作.

フィリピンと対日戦犯裁判
著者 永井 均
ジャンル 書籍 > 単行本 > 歴史
刊行日 2010/02/17
ISBN 9784000246545
Cコード 3021
体裁 A5 ・ 上製 ・ 454頁
在庫 品切れ
フィリピンでの日本軍の残虐行為の捜査が本格化した1945年から,国交が回復されない中モンテンルパのBC級戦犯全員が釈放された1953年までの8年間,アジア・太平洋戦争をめぐって日比両国は何を考え,どのように向き合ったのか.戦後日比関係の出発点となった対日戦犯裁判のプロセスをたどった労作.

■著者からのメッセージ

 本書には,第二次世界大戦から派生した数多くの人々の痛みが描かれている.フィリピンでは日比米の兵士が戦死,あるいは戦病死しただけでなく,現地に暮らす一般市民の人生や命が犠牲となった.米国からの独立を間近に控えたフィリピンの国民が,ある日突然,外国(日本)の軍隊の占領下に置かれ,壮絶な戦場のただ中に放り込まれた末に,老若男女を問わず数多く生命を落とした事実はやはり重いと思う.本書は,戦争で亡くなった犠牲者の痛みを覚え,死者たちの無念さ,残された人々の苦しみを(自分の理解がごく限られたもので,不十分であることは承知しつつも)意識の中に収めながら書き進めた.そしてそれは,一面では日本という国を外の視点から見る著者なりの一つの試みでもあった.体験者の方々の証言や様々な記録から紡ぎ出された本書が,その主題である戦犯問題をめぐる日比関係史の輪郭を浮かび上がらせるだけでなく,「占領した側」と「占領された側」の体験感覚や痛みを知り,対話と共感の可能性を探る一助となれば,著者としてこれ以上の喜びはない.
――「あとがき」より
はじめに
第一章 日本軍による残虐行為の衝撃
  ――高まるフィリピンの対日告発の機運
 一 ワシントンの戦争犯罪局
 二 フィリピン戦線での捜査活動
  1 捜査態勢の構築/2 捜査報告書第一号――カモテス諸島の住民虐殺事件/3 その他の捜査報告書
 三 フィリピン人の怒りの原像
  1 ロムロ駐米委員のロビー活動/2 激昂するフィリピン世論/3 憤怒の受け止め方
第二章 「敗者の裁き」という隘路
  ――敗戦直後の日本側戦犯政策とフィリピン問題
 一 東久邇宮内閣の戦犯政策
  1 国内裁判方式の模索/2 総司令部との交渉と首相談話/3 陸軍中央の政策
 二 政権交代と幣原内閣の立場
  1 「戦争責任裁判法」の見送り/2 捕虜虐待関係者の処罰問題
 三 本間雅晴中将の処罰問題
  1 バタアン「死の行進」の内部調査/2 陸軍省幹部と昭和天皇の決断/3 本間中将の処罰の位相
 四 「敗者の裁き」の幕引き
  1 本間ケース以後の軍内部の動向/2 日本側戦犯裁判の禁止をめぐって
第三章 フィリピンから見た東京裁判
  ――被占領体験を伝え,忘却に抗する
 一 フィリピンの参加経緯と判検事
  1 米国の庇護のもとで/2 ペドロ・ロペス検事/3 デルフィン・ハラニーリャ判事
 二 ロペス検事の来日と初期行動
  1 立証事項と担当被告/2 フィリピンと天皇問題/3 起訴状の起草作業
 三 フィリピンからの告発
  1 東京裁判の開廷直後/2 ロペス検事の立場/3 「フィリピン段階」――立証と反証
 四 東京裁判の判決とフィリピン
  1 多数判決/2 ハラニーリャ判事の「同意意見」/3 判決をめぐる世論動向――新聞論調を中心に/4 東京裁判と日比関係
第四章 フィリピン軍による戦犯裁判
  ――モンテンルパのBC級戦犯の軌跡
 一 対日戦犯処理への着手
  1 国立戦争犯罪局の発足/2 弁護体制の整備/3 国立図書館の被害調査
 二 フィリピン軍の戦犯裁判
  1 工藤忠四郎裁判/2 裁判の概略と政策的意義
 三 モンテンルパの日本人戦犯たち
  1 マンダルーヨンからモンテンルパへ/2 モンテンルパでの服役生活/3 予期せぬ死刑執行の衝撃/4 獄窓での内省
 四 戦犯釈放の政治力学
  1 加熱する助命嘆願運動/2 講和後の減刑という幻想/3 日本送還問題の進展/4 キリノ大統領による恩赦の決定/5 日本への送還と元死刑囚の釈放
 おわりに
 註
 あとがき
 索 引
永井 均(ながい ひとし)
1965年生まれ.立教大学文学部卒業.立教大学大学院文学研究科博士課程後期課程満期退学.博士(文学).現在,広島市立大学広島平和研究所講師.
論文に「連合国民間人抑留者の戦争」(『岩波講座 アジア・太平洋戦争』第4巻,岩波書店,2006年),「戦争犯罪人に関する政府声明案」(『年報日本現代史』第10号,2005年),「日本・フィリピン関係史における戦争犯罪問題」(池端雪浦・リディア・N.ユー・ホセ編『近現代日本・フィリピン関係史』岩波書店,2004年),“The Tokyo War Crimes Trial” (Setsuho Ikehata and Lydia N. Yu Jose eds., Philippines-Japan Relations, Quezon City: Ateneo de Manila University Press, 2003) ,編書に『戦争犯罪調査資料――俘虜関係調査中央委員会調査報告書綴』(東出版,1995年),監修書に『新聞史料にみる東京裁判・BC級裁判』全2巻(現代史料出版,2000年)などがある.

書評情報

日本経済新聞(朝刊) 2010年5月2日
週刊現代 2010年5月1日号
日刊まにら新聞 2010年4月26日
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