延安リポート

アメリカ戦時情報局の対日軍事工作

大戦末期,日本攻略のために軍事視察団を延安に派遣したアメリカ.米戦時情報局リポートの全文を翻訳.

延安リポート
著者 山本 武利 編訳 , 高杉 忠明
ジャンル 書籍 > 単行本 > 歴史
刊行日 2006/02/24
ISBN 9784000222716
Cコード 3022
体裁 A5 ・ 上製 ・ 890頁
在庫 品切れ
大戦末期,アメリカの軍事視察団が延安を訪れた.日本兵捕虜を使って有利に戦いを進める八路軍の戦略にアメリカは多大の関心を示し,中共側も進んで情報を提供した.米戦時情報局が野坂参三らの協力を得て作成したリポートは,戦後の米中関係の悪化で長い間ベールに覆われていたが,この度情報公開された.これはその全訳である.

■編集部からのメッセージ

 第二次大戦末期の44年7月,米国は中国共産党の根拠地延安に軍事視察団を派遣した.当時八路軍は捕虜を反戦兵士として育成し,日本軍に対する有効なプロパガンダ戦を展開していた.米国は八路軍の戦略を学んで,日本兵の戦闘心をそぐことによって太平洋戦線での自軍の犠牲を減らすとともに,来るべき日本占領を円滑に進めたいと考えていた.また中国共産党も,自らを世界に宣伝する格好の機会ととらえ,視察団に進んで情報を提供する.本書は,視察団派遣の44年7月から,米国と中国共産党との関係に陰りが兆す45年前半までの束の間の「米中蜜月時代」に,米戦時情報局によって作成・配布された71本のリポートの全訳である.加えて本書では,リポートで取り上げられたビラのうち土屋礼子氏(大阪市立大学教授)が収集したもの約270点を併せて収録した.巻末の年表・地図などの付録とともにリポートの立体的解読を可能にするものである.
 本レポートの取り扱うテーマは多岐にわたるが,その柱は以下の三点である.1)共産党・八路軍の日本人捕虜に対する処遇の歴史及びその実態.開戦以来「日本人捕虜を優遇せよ」とたびたび命令してきた八路軍の戦略が具体的に記されている.2)野坂参三が米軍に提供した情報の詳細.彼個人の経歴から,秘密ルートを通じてもたらされる日本国内の最新情報にまで及ぶ.野坂は当時延安にあって岡野進と名乗り,捕虜教育等の諸活動に当たっていた.3)日本兵捕虜たちによる反戦活動の内容,彼らを対象にした,さまざまな意識調査の結果,米軍が作成した日本兵向けビラや放送原稿に対する批評など.
 本書によって明らかになることは多いが,とりあえず3点だけをあげておく.まず,1)当時の米中関係の実態は,その後の情勢の急変(冷戦)で長い間ベールに包まれていたが,今回その一端が明らかになる.2)米国は44年の後半には日本の敗北を確信し,その後は日本進駐時の自軍の人的被害を避ける方策を探っていた.その米国が日本占領のデザインを考える上で天皇と天皇制を極めて慎重に検討していたことが,野坂への意見聴取,捕虜へのアンケート調査などから明らかになる.3)敗北後の日本の民主化について野坂がどのような見方をもっていたのか.戦後の政治状況の変化の中で秘されてきた当時の野坂の見解が史料によって示される.
延安リポートの性格……山本武利
延安リポートの宣伝ビラについて……土屋礼子

第1号
延安旅行――概要
第2号
八路軍による対日心理戦争の進展
第3号
「敵軍工作の目的と方針について」  譚政
第4号
日本人民解放連盟が作成したビラのサンプル
第5号
良いビラの書き方
第6号
日本で禁止された流行歌
第7号
日本における心理戦争の標的に関する概略的分析
第8号
岡野 進 伝記ノート
第9号
日本共産党ノート
第10号
日本共産党の計画――岡野 進の見解
第11号
八路軍による戦争捕虜の処遇
第12号
宣伝の作成方法
第13号
自殺防止のための宣伝――日本人の自殺心理の研究
第14号
八路軍の宣伝の内容
第15号
連合国の心理戦争に対する日本側の危惧
第16号
1944年8月の東京朝日新聞の批評
第17号
岡野によるアメリカ軍作成ビラへの概括的批評
第18号
日本国民に訴う――「支那事変」六周年に際して  岡野 進(野坂 鉄)
第18号―A 国民読本  岡野 進(野坂 鉄)
第19号
日本の天皇に対する連合国の政策――岡野 進へのインタビュー
第20号
心理戦争に対する提言〔日本人捕虜からの手紙〕
第21号
八路軍の対日本人捕虜政策
第22号
日本人捕虜の一般的意識調査
第23号
アメリカ軍の残虐行為に関する日本軍部の欺瞞的な宣伝
第24号
日本労農学校における捕虜による座談会
第25号
日本向け宣伝のテーマ
第26号
日本人戦争捕虜の心理
第27号
八路軍前線地域における日本人心理戦争工作者の体験
第28号
冀南地区における八路軍の心理戦争
第29号
新たに捕虜となった日本兵向けパンフレット
第30号
連合国軍の心理戦争に対する日本側の心の備え
第31号
「連合国軍の日本抹殺計画」なる日本軍の宣伝路線
第32号
朝鮮の生活状況
第33号
満州,華北の朝鮮人に対する心理戦争の背景
第34号
日本兵士代表者大会――効果的な宣伝へのワンステップ
第35号
連合国軍の日本上陸に関する座談会の記録
第35号―A 第35号の分析
第36号
日本人民解放連盟綱領草案
第37号
日本兵士の要求書(全文)
――1942年8月華北日本兵士代表者大会第一回大会
第38号
一九四五年前半の宣伝委員会の活動計画
第39号
日本宣撫のための若干の提案――岡野 進の見解
第40号
日本の労働者への宣伝と彼らの連合国軍との協力の可能性
――岡野 進の見解
第41号
延安におけるエマーソンとアリヨシの講演に対する反応
第42号
ポウェイの反日ビラの批評
第43号
岡野 進(野坂 鉄)小伝
第44号
日本兵士代表者大会及び華北日本人反戦団体代表者大会の諸決定
第45号
日本労農学校――一つの研究
第46号
捕虜の扱い方――敵軍工作ハンドブック第五版
第47号
戦時情報局のビラに対する延安の批評――(付)投降通行証の翻訳
第48号
八路軍部隊と民間人の捕虜教育法
第49号
日本の宣伝に見る「敵愾心」への対抗策――岡野 進の見解
第50号
日本労農学校の最近の捕虜再教育
――A学級の学習の記録と現状に関する概観的リポート
第51号
解放連盟宣伝委員会による座談会(1945年1月23日)の抜粋
第52号
民主日本と連合国の勝利に関するシンポジウム
――重慶の鹿地研究室にて
第53号
ハワイで制作されたビラに対する解放連盟宣伝委員会の批評
第54号
捕虜の思想の無記名アンケート調査
第55号
捕虜の処遇
第56号
ホノルルのビラに対する延安の批評
第57号
アメリカ軍によって発行された昆明のビラの分析
第58号
朝鮮独立同盟からの最新情報
第59号
八路軍に捕えられた日本人捕虜の統計
第60号
八路軍の敵軍工作
第61号
傀儡軍に対する八路軍の宣伝
第62号
八路軍に対峙する日本軍への宣伝用ポスター六例
第63号
華北に駐留する日本軍の士気低下の変遷
――1937年~1943年
第64号
ビルマのアメリカ軍制作ビラの分析
第65号
サンフランシスコ,ハワイの日本向けラジオ放送の批評
――(付)日本のラジオ受信機調査
第66号
鈴木内閣と日本の進路――岡野 進の分析
第67号
日本の反戦歌
第68号
延安および前線で制作されたビラ――二つの付表
第69号
南西太平洋のビラに対する批評
第70号
中国在住日本人居留民への政策草稿
第71号
民主的日本の建設  岡野 進(野坂 鉄)


あとがき

参考文献


日本人民解放連盟組織図
 
 
地図(華北の地図,北ビルマの地図)
 
 
原題とリポーター一覧
 
 
年表(1937年~1945年)
山本武利(やまもと・たけとし)
1940年生.一橋大学商学部卒.早稲田大学政治経済学部教授.
『新聞と民衆――日本型新聞の形成過程』(1973年,紀伊國屋書店)
『占領期メディア分析』(1996年,法政大学出版局)
『日本人捕虜は何をしゃべったか』(2001年,文春新書)
『ブラック・プロパガンダ――謀略のラジオ』(2002年,岩波書店)
http://www8.ocn.ne.jp/~m20th/yamamoto/index.html
高杉忠明(たかすぎ・ただあき)
1952年生.慶應義塾大学法学部卒.神田外語大学外国語学部教授.
『現代の国際政治』(共編著,2002年,ミネルヴァ書房)
『国際機構の政治学』(共編著,2003年,南窓社)
『敗北を抱きしめて』増補版(共訳,2004年,岩波書店)
『軍事力と現代外交』(共訳書,1997年,有斐閣)
土屋礼子(つちや・れいこ) (資料提供)
1958年生.一橋大学社会学部卒.大阪市立大学大学院文学研究科教授.
『大衆紙の源流――明治期小新聞の研究』(2002年,世界思想社)
『米国のメディアと戦時検閲』(共訳,2004年,法政大学出版局)
http://www.lit.osaka-cu.ac.jp/~tsuchiyr/

書評情報

熊本日日新聞(朝刊) 2007年1月14日
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