災害都市,トゥルーズ

17世紀フランスの地方名望家政治

ペストや洪水,飢餓――様々な災害へのトゥルーズの対応の歴史を通して,生き生きとよみがえる都市のかたち.

災害都市,トゥルーズ
著者 宮崎 揚弘
ジャンル 書籍 > 単行本 > 歴史
刊行日 2009/06/26
ISBN 9784000230254
Cコード 3022
体裁 A5 ・ 上製 ・ 232頁
在庫 品切れ
南仏における王権の拠点都市として繁栄を誇ったトゥルーズは,次々に災害に見舞われた「災害都市」でもあった.ペスト,洪水,飢餓,プロテスタントや大貴族の叛乱──カピトゥールと呼ばれる市参事の指揮の下,様々な厄災に対応していったトゥルーズの歴史を辿ることで,当時の都市のあり方や人々の営みが生き生きとよみがえる.


■著者からのメッセージ
 一七世紀のヨーロッパ世界は政治,経済,社会,文化,精神等さまざまな分野で危機を迎えた時代であった.中でもフランスはそれらが如実に現れた国の一つであったと言ってよいであろう.そこでは,一七世紀固有の現象とでも言えるほど異常気象が頻繁に発生し,季節ごとに期待される気温,雨量,日照量等の条件に影響を与え,農作物の不作,凶作をもたらした.いや,それだけではない.異常気象は氷河の成長,雪崩の発生,土砂崩れ,河川の洪水をもたらし,農地の冠水,家屋,水車,道路,橋梁,堤防等の施設の破壊や流失,人命の損失等多大の被害を生んでいた.その結果,都市を取り巻く経済的,社会的状況は不安定で,産業の成長は一様ではなく,大規模な事業に乏しく,停滞気味であった.また,政治的,対外的状況では,王権が大貴族や地方と対立し,さらには三十年戦争を通じて神聖ローマ帝国の強大化を恐れ,戦争への参戦を覚悟したために,政治的支持でも財政負担でも,都市を当てにするに至ったのであった.以上の状況から,都市はさまざまな困難を抱えて,深刻で危険な状況だという意味で危機を経験することになったのであった.
 かくて,南部のトゥルーズもまたそれが置かれた自然環境,社会環境,さらには流動的な時代の枠組みの中で,多くの構造的,事件史的災害に遭遇したのであった.しかもトゥルーズの場合は念が入っていて,直面した危機は一六二八~一六三六年の九年間に直面した災害は,他都市に比較して突出している.その災害は,短期集中的,多面的,重層的であり,都市のあらゆる分野に打撃をもたらしたのであった.その危機は一七世紀フランスの自然環境の異常に起因する洪水,社会環境の整備の遅れに起因するペストの流行,飢饉の発生,絶対王政の体制が未熟で国民統合が確立していないために生じたプロテスタントの反乱,地方総督の反乱,民衆の騒擾の六つであった.そうした災害がもたらす危機に見舞われたにもかかわらず,トゥルーズは崩壊したり消滅せずに踏みとどまった.なぜであろうか? ここに,トゥルーズの一六二八~一六三六年の歴史を取り上げる理由がある.
――「序章」より
序章 近世初期フランス絶対王政と都市
一六世紀,一七世紀フランスの政治動向/社団と名望家/都市とその規模
第 I 部 トゥルーズの環境
第1章 トゥルーズをめぐる自然環境
  その位置/自然環境/気象条件/異常気象
第2章 トゥルーズの都市区間
  市域/市街地の形成/主な施設/市制/カピトゥールの権限/カピトゥールの報酬と特典/元カピトゥール/十人区長/市職員/各種の会議
第3章 トゥルーズの都市社会
  社会構成/人口/交通と輸送/産業と市/日常生活/生活時間/二つの言語の確立/トゥルーズ人の特性/信仰生活社会
第II部 トゥルーズの事件史
第4章 プロテスタントの反乱
  ラングドック地方と宗教対立/前線基地トゥルーズ/市内の状況
第5章 ペストの流行と飢饉
  原発地と侵入経路/社会的予防措置/医学的予防措置/ペスト侵入/流行の兆し/初期のペスト対策/初期の流行/都市生活の混乱/聖職者の態度/医師不足/都市財政の破綻/流行の様相と対策/最後の対抗策,消毒/流行の終息とペストの症例/流行の再燃/財政危機/飢饉の発生/飢饉の様相/流行の再々燃/診断書と医療体制/市民的モラルの喪失/最後の借入手段/飢饉の深刻化/緊急避難措置の発動/流行の急拡大/飢饉の消滅/ペスト対策/流行の深刻化と法院長の死/リベロン神父の活躍/流行の終息/復興に向けて
第6章 地方総督の反乱
  反乱の背景/反乱の発端/トゥルーズの反応/モンモランシー公軍の敗北/裁判と処刑
第7章 民衆の動揺と洪水
  ギュイエンヌの暴動/暴動,トゥルーズへ/洪水の発生/洪水の被害
終章 トゥルーズの被害とその後
  トゥルーズの被害/危機を克服できた理由/その後の状況/集権化の促進/都市特権の衰退/歴史の記憶

 あとがき
 トゥルーズ関係年表
 註/索引
宮崎揚弘(みやざき あきひろ)
1940年東京生まれ.慶應義塾大学大学院文学研究科史学専攻博士課程修了.慶應義塾大学商学部教授を経て,現在帝京大学文学部教授.近世フランス史.著書『フランスの法服貴族――18世紀トゥルーズの社会史』(同文舘出版,1994年),『ヨーロッパ世界と旅』(編著,法政大学出版局,1997年),『続・ヨーロッパ世界と旅』(編著,法政大学出版局,2001年)など.訳書アーサー・ヤング『フランス紀行――1787,1788&1789』(法政大学出版局,1983年),モニク・リュスネ『ペストのフランス史』(共訳,同文舘出版,1998年)など.

書評情報

週刊読書人 2009年7月31日号
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