「大フィンランド」思想の誕生と変遷

叙事詩カレワラと知識人

フィンランドの国民国家形成過程における,文化・学問・政治の緊張に満ちた関係を描いた意欲作.

「大フィンランド」思想の誕生と変遷
著者 石野 裕子
ジャンル 書籍 > 単行本 > 歴史
刊行日 2012/08/30
ISBN 9784000238007
Cコード 3022
体裁 A5 ・ 上製 ・ カバー ・ 266頁
在庫 品切れ
フィンランド民族文化の象徴,叙事詩カレワラ.この叙事詩は,フィンランドの国民国家形成に深く結びつき,その思想的背景をなした.1917年の同国の独立前夜から第二次世界大戦における二度の対ソ戦敗戦,そして戦後に至るまでの,文化・学問・政治の緊張に満ちた関係を,フィンランドを代表する3人の知識人を軸に描いた意欲作.


■推薦のことば
北欧の神話的な風景を通じて若き俊英が切り拓いてくれたのは、民族、国家、言語が織りなす未踏の沃野である。
――沼野充義(東京大学教授)


■著者からのメッセージ
韻を踏んだ格調高い言葉で書かれ,豊かな世界観が描かれているカレワラは,詩という形式をとるがゆえに幅広く解釈できる要素を持つ文化的産物である.加えて,フィンランド人がフィンランドという領域を認識し,自分たちは何者かという問いを持ち始めた時に誕生したという歴史的背景のために,カレワラは独立時,独立の危機,戦後の新たな国家建設といった時代の節目ごとに,その時代にふさわしい「フィンランド性」の象徴として担ぎ出された.しかし,その一方で,様々な分野でカレワラは学問的な研究対象となり,その研究が進展していったことも事実である.この点を認識することこそが,文化を対象とした学問研究と政治の関係を考察するにあたって不可欠であると,筆者は考える.
(結論より)
凡例
序論


第1章 「大フィンランド」思想の誕生と変遷――「言語民族」と「国家民族」

第1節 スウェーデン統治時代におけるフィンランドの民族意識
第2節 ロシア帝国統治時代における民族意識の覚醒とカレワラ
第3節 独立後のフィンランドの民族意識
第4節 2つの対ソ戦争におけるフィンランドの民族意識と安全保障問題
第5節 戦後フィンランドにおける民族意識


第2章 フィンランド学派の創始者カーレ・クローン

第1節 クローンの生涯とカレワラ研究
第2節 クローンのカレワラ解釈の変化をめぐる議論


第3章 「忘れられた」歴史学者ヤルマリ・ヤーッコラ

第1節 ヤーッコラの生涯とカレワラ研究
第2節 ヤーッコラの歴史観
第3節 第二次世界大戦期におけるヤーッコラの活動
第4節 戦後フィンランド歴史学の潮流とヤーッコラ


第4章 詩人ムスタパー,あるいは民俗学者マルッティ・ハーヴィオ

第1節 ハーヴィオの生涯とカレワラ研究
第2節 戦前におけるハーヴィオのカレワラ研究
第3節 戦間期および継続戦争時のハーヴィオの活動とそのカレワラ解釈への影響
第4節 戦後の展開


結論


付属資料――『カレワラ』のあらすじ
参考文献
あとがき
索引
石野 裕子(いしの ゆうこ)
1974年生まれ.2005年津田塾大学大学院後期博士課程(国際関係学研究科 国際関係論専攻)単位取得満期退学.2011年博士号(国際関係学)取得.現在,津田塾大学国際関係研究所研究員.専攻は国際関係学,フィンランド史.
著作に,『フィンランドを知るための44章』(共編,明石書店,2008年),『フィンランドの歴史』(D. カービー著,共監訳,明石書店,2008年),『世界史のなかのフィンランドの歴史――フィンランド中学校近現代史教科書』(共訳,明石書店,2011年),「「大フィンランド」思想の変遷――三人の研究者によるカレワラ研究と「近親民族」思想の分析を通して」(『国際政治』第165号,2011年)などがある.

書評情報

UP 2012年9月号
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