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宇宙開発と国際政治

「夢」や「希望」でもなく,軍事利用の告発でもなく,政治学の視点から捉え直した今日の宇宙開発.

宇宙開発と国際政治
著者 鈴木 一人
ジャンル 書籍 > 単行本 > 政治
刊行日 2011/03/30
ISBN 9784000222174
Cコード 3031
体裁 A5 ・ 上製 ・ カバー ・ 310頁
在庫 品切れ
宇宙開発は,冷戦期を通じて米ソの軍拡競争の一環として進められてきた.冷戦終焉後の今日,各国は何をめざして宇宙開発に取り組んでいるのか.宇宙を語る際にありがちな「夢」や「希望」といった美化されたイメージを離れ,また,宇宙の軍事利用を告発するセンセーショナリズムとも一線を画し,宇宙開発を今日の国際政治の中で捉え直す.


■著者からのメッセージ
 しばしば,テレビや新聞で宇宙開発に関するニュースが報じられる際,無条件で「日本の技術力」が称賛され,宇宙開発は「夢がある」から頑張ってほしいとエールが送られ,「無限に広がる宇宙への挑戦」の大切さが論じられる.こうした報道に接するたびに,どうにもぬぐい去れない違和感を覚え,居心地の悪い気分になる.
 他方,宇宙開発を進めると「GPSのような衛星で自分の居場所を常に監視される」とか「軍事的に利用することが目的で,民生利用は単なるカモフラージュにすぎない」といった意見を聞くこともある.技術の発展に対するある種の不安や慎重さから来る意見と考えられるが,しばしば宇宙開発で圧倒的な存在感を見せるアメリカへの反発であったり,「軍産複合体」論に基づく批判のための批判とも思えるような,乱暴な議論もしばしば見受けられる.
 本書で筆者は,このような宇宙開発に関する偏った理解が一般に流通している状況に対し,異なる視座から議論を提起し,宇宙開発国の政策意図と目的を歴史的に明らかにし,そうして発達した技術が地域協力やグローバル・コモンズのガバナンスへと展開してきたことを論じ,宇宙開発は政治的・歴史的・財政的コンテキストの中でしか進みえないこと,そしてそうしたコンテキストの中で理解されるべきであると主張することを意図した.また,宇宙システムがもつ「越境性」が国際政治の在り方に少なからぬ影響を与えてきたこと,さらに,各国の宇宙開発が技術の成熟とともに国際的な協調・調整を必要としてきていることを示唆することを目指した.この狙いが成功したかどうかは読者の判断に委ねるしかないが,これからの宇宙開発の在り方を考えるきっかけくらいにはなったのではないかと自負している.
(「あとがき」より)
序章 国際政治における宇宙開発
1 「ハードパワー」としての宇宙システム
  宇宙開発におけるハードパワーとは何か/軍民両用技術と技術の陳腐化
2 「ソフトパワー」としての宇宙システム
  宇宙開発におけるソフトパワーとは何か/最強のソフトパワー,有人宇宙飛行
3 「社会インフラ」としての宇宙システム
  グローバルな公共財としての宇宙システム/GPSの両義性
4 公共事業としての宇宙開発
  利益誘導型政治の対象としての宇宙開発/「軍産複合体」論は妥当か/
  市場の失敗/有人宇宙飛行という公共事業
5 コモディティ化する宇宙開発
  取引される宇宙技術/取引上手な国々
まとめ

第Ⅰ部 宇宙開発国の政策目的
第1章 アメリカ――技術的優位性の追求
1 スプートニク・ショック
  宇宙開発に関心の低かったアメリカ/スプートニクによる大転換/
  さらなるショック
2 ガガーリン・ショック
  「米ソ宇宙競争」の「新たなゲームのルール」/ケネディへの政権交代と新たな
  宇宙戦略
3 人工衛星の開発による「ハードパワー」と「社会インフラ」の獲得
  通信衛星/地球観測衛星/測位衛星
4 アポロ計画
  予算から見るアポロ計画/ニクソンへの政権交代とスカイラブ計画/
  アポロ計画とは何だったのか
5 ポスト・アポロ計画
  複数あったポスト・アポロ計画/なぜスペースシャトルが選ばれたのか/
  意図せざるハードパワーとしてのスペースシャトル
6 国際宇宙ステーション
  シャトルの目的地としての宇宙ステーション/トラブル続きの宇宙ステーション/
  宇宙ステーションとの決別
7 冷戦の終焉と軍事宇宙開発
  SDIと宇宙開発/冷戦終焉のインパクト/「万能」ではない宇宙システム
まとめ

第2章 欧州――政府間協力からの変容
1 ESROとELD
  CERNの成功から生まれた欧州協力/異なる性格をもつ双子
2 自律性を求めて
  商業化と独自のロケット/ESAの創設
3 宇宙システムの商業化
  アリアンロケット/SPOT衛星/意図せざる「社会インフラ」化
4 有人宇宙飛行と欧州
  スペースラブの教訓/自律性をもった宇宙ステーションへの参加/
  冷戦の終焉と財政的制約
5 ポスト冷戦とグローバルな競争力の強化
  欧州航空産業の再編/欧州宇宙産業の再編/それでも強化された欧州の
  競争力/ポスト冷戦期の新しい「ゲームのルール」
6 EUの参入
   EU参入の背景/ガリレオ計画/GMES/ESAとEUの関係
まとめ

第3章 ロシア――冷戦時代からの遺産の活用
1 偶発的衛星打ち上げ
  ドイツの技術者とコロリョフ/ソ連国内のスプートニク・ショック/
  ソ連の宇宙開発文化
2 人類初の有人宇宙飛行
  チーフデザイナー,コロリョフ/軍を説得するためのガガーリンの飛行/
  有人宇宙飛行のインパクト/コロリョフ後のソ連の宇宙開発
3 軍主導の社会インフラ化
  軍事インフラとしての宇宙システム/第9次五カ年計画の中の宇宙開発
4 長期宇宙滞在計画とその遺産
  名誉挽回に向けて/長期有人宇宙滞在への挑戦/ソ連の崩壊と有人宇宙
  技術の行方
5 もう一つの遺産としてのロケット打ち上げ能力
  国際商業市場への参入/21世紀のロケット事情
6 プーチンによる「強いロシア」の復活
  プーチンの宇宙開発戦略/宇宙科学分野の復活を目指す
まとめ

第4章 中国――大国の証明
1 マッカーシズムと銭学森の帰国
  中国宇宙開発の父,銭学森/帰国後の銭学森
2 大躍進から文化大革命へ
  大躍進の混乱/中ソ対立による独自路線の強化/文化大革命による再度の
  混乱
3 宇宙開発の再スタート
  「社会インフラ」としての宇宙開発へ/FSWと通信衛星/商業打ち上げサービス
  市場への参入/ITAR-Free
4 有人宇宙飛行への野心
  「社会インフラ」と有人宇宙事業のジレンマ/有人宇宙事業への邁進
5 対衛星攻撃実験と軍事宇宙システム
  不透明な軍事宇宙利用/ASAT実験はなぜ実施されたか
まとめ

第5章 インド――途上国としての戦略
1 独立と宇宙開発
  独立後のインド/「途上国の宇宙開発」という理念/インド宇宙開発の基礎
  となったサラバイの構想/「社会インフラ」路線の確立
2 インドのロケット開発
  民生技術によるロケット開発/低軌道から静止軌道へ
3 「社会インフラ」としての宇宙開発
  選択と集中が徹底した衛星開発/アプリケーション主導の宇宙開発/
  「社会インフラ」の商業化
4 大国としての宇宙開発――月探査と有人宇宙事業
   「途上国」からの卒業/宇宙開発の拡大局面へ/アジアにおける「宇宙競争」?
5 大国としての宇宙開発――軍事宇宙利用
   安全保障と不即不離の宇宙開発/ASATと宇宙システムの保護
まとめ

第6章 日本――技術開発からの出発
1 学術研究としての宇宙開発とアメリカの介入
  技術開発の制限と糸川英夫の功績/アメリカの懸念/アメリカからの「ギフト」と
  日本の対応
2 「平和利用原則」の確立
  アメリカが求めた「平和利用」/日本では意識されなかった「平和利用」の問題/
  「平和利用原則」決議の採択
3 キャッチアップと「研究開発」への邁進
  宇宙開発コミュニティの形成/キャッチアップ後の政策目標/「一般化原則」
  の導入/日米貿易摩擦と衛星調達合意
4 省庁再編とJAXAの発足
  省庁再編前の政策決定システム/省庁再編と三機関統合
5 テポドン・ショック
  情報収集衛星の導入/「平和利用原則」と衛星調達合意の間で/情報収集
  衛星が抱える弊害
6 宇宙基本法の制定
  河村懇話会の発足/「平和利用原則」の解釈見直しの背景/宇宙の「産業化」/
  宇宙基本法の制定
7 まとめ


第Ⅱ部 グローバル・ガバナンスと宇宙技術
第7章 地域協力――途上国開発への活用
1 商業サービスによる宇宙システムへのアクセス
  宇宙システムへのアクセスの必要性/商業サービスの段階的発展/
  民間主導型サービスの発達/小型衛星事業の展開
2 アジアにおける中国と日本の覇権争い
  アジアにおける宇宙開発への関心/APRSAFの設立/APSCOの登場/
  APRSAFの方針転換
3 ラテンアメリカ
  CEAの設立/CEAがもたらした効用/中国からのアプローチ
4 宇宙開発に目覚めるアフリカ
  UNISPACE IIIから広がった宇宙開発への関心/ALCの発足/欧州からの
  アプローチ/中国の参入
まとめ

第8章 グローバル・コモンズとしての宇宙――宇宙空間のガバナンス
1 静止軌道のガバナンス
  周波数の割当と「ペーパー衛星」問題/ボゴタ宣言
2 地球観測のガバナンス
  偵察衛星と「平和利用」/「リモートセンシングに関する原則」
3 軌道上のガバナンス
  大規模に増加しているデブリ/デブリ抑制に向けての取り組み/デブリの除去と
  回避/アメリカの覇権と各国の対応/民間からの提案
4 宇宙の「兵器化(weponization)」は止められるか
  ASATに対する規制/国連軍縮会議での議論/「宇宙空間における兵器」の
  定義をめぐる問題/EUの「行動規範」/「行動規範」に対する各国の反応
まとめ

終章 宇宙開発は国際政治に何をもたらすか――グローバル化時代の宇宙開発
1 21世紀の宇宙政策をめぐる政策軸
  有人宇宙事業vs. 財政的制約/効率性vs. 自律性/ハードパワーvs. 社会
  インフラ/ソフトパワーvs. 社会インフラ/国家利益vs. グローバルな利益
2 グローバル化時代の宇宙開発
  「社会インフラ」のオーナーシップとその責任/宇宙開発の転換期としての現在

宇宙開発年表
あとがき
鈴木一人(すずき かずと)
1970年生まれ,立命館大学国際関係学部中途退学,同大学院国際関係研究科博士後期課程退学後,英国サセックス大学ヨーロッパヨーロッパ研究所博士課程修了.筑波大学大学院人文社会科学研究科准教授などを経て,現在,北海道大学公共政策大学院准教授.
専攻は,国際政治,ヨーロッパ研究,宇宙政策.
著書に,Policy Logics and inshtitutions of European Space Collaboration,Ashgate, 2003, 『グローバリゼーションと国民国家』(田口富久治との共著,青木書展,1997年),「「規制帝国」としてのEU」(山下範久編『帝国論』講談社選書メチエ,2006年),「21世紀のヨーロッパ統合――EU-NATO-CE体制の終焉?」 (遠藤乾編『ヨーロッパ統合史』名古屋大学出版会,2008年),「「ボーダーフル」な世界で生まれる「ボーダーレス」な現象――欧州統合における「実態としての国境」と「制度としての国境」」(『国際政治』第162号,2010年12月,1-15頁)などがある.

書評情報

Cosmopolis.No.6(2012年)
国際法外交雑誌 110巻4号(2012年1月)
国際安全保障 第39巻第3号(2011年12月)
図書新聞 2011年9月3日号
日本経済新聞(朝刊) 2011年6月12日

受賞情報

第34回サントリー学芸賞〔政治・経済部門〕(2012年)
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