作用素環入門 I

関数解析とフォン・ノイマン環

量子力学の誕生とともにつくられた新しい数学を,物理・数学諸分野での現代的関心を見据えて解説する.

作用素環入門 I
著者 生西 明夫 , 中神 祥臣
ジャンル 書籍 > 自然科学書
書籍 > 自然科学書 > 数学
刊行日 2007/04/20
ISBN 9784000054089
Cコード 3041
体裁 A5 ・ 上製 ・ カバー ・ 292頁
在庫 品切れ
作用素環は量子力学の数学的性質を論じるためにつくられた数学的概念である.その本質は無限次元線形代数であるが,位相を駆使して無限を調教することで,従来の数学にはない新しい世界が切り拓かれる.物理学はもちろん,他の数学諸分野とも関連し多くの関心を集めている.それらの現代的な関心も見据えた待望の入門書.(全2冊)

■編集部からのメッセージ

 作用素環は量子力学の数学的性質を論じるためにvon Neumannによってつくられた比較的新しい数学的概念である.量子力学では「固有値」と「波動関数」のように離散的な量と連続的な量を1つの体系として扱う必要がある.Hilbert空間と呼ばれる無限次元の線形空間上の作用素を用いることでこれが可能になる.「無限」「非可換」「位相」という1つだけをとっても深い内容をもつ概念を相互に駆使して,作用素の成す多元環の豊かな数理構造を解き明かしていくさまは従来の数学にはない新しい世界といえる.
 その生い立ちからもわかるように「量子力学」そして「場の量子論」とは深い関連があり,とくに「場の量子論」には作用素環が自然に現れてくる.そのため,数理物理との関係で非常に活発に研究され,誕生から現在までの発展にはめざましいものがある.日本の研究者による貢献も大きい.また,微分方程式,代数幾何,微分幾何など数学諸分野との関係からも多くの関心を集めている.これら活発な研究による近年の発展と多分野からの関心に応える入門書として本書と続く第II巻は構成されている.
 第 I 巻ではHilbert空間の定義から始めて,基礎的なIII型因子環の分類までを取り扱う.とりわけ関心の強いC*環については独立に読むことができるように第II巻として1冊にまとめてある.第 I 巻では,作用素環における微積分に相当するような基礎的な部分の解説を通して,用語,概念,基本事項を説明しているので,他分野の研究者や作用素環についての予備知識のない読者にはこの第 I 巻から読まれることをお薦めする.

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目次に斜字、環境遺存文字、上付き文字が複数ある
1 関数解析からの準備

1.1 ベクトル空間上の位相
 

1.1.1 局所凸空間
1.1.2 有向系と無限和
1.1.3 直 和
 
1.2 線形作用素
 
 
1.2.1 線形写像
1.2.2 線形汎関数
1.2.3 Banach環
1.2.4 スペクトル
 
1.3 Hahn‐Banachの定理
1.4 弱*位相とMackey位相
 
 
1.4.1 弱位相と弱*位相
1.4.2 線形写像の列
1.4.3 Mackey位相
 
1.5 一様有界性定理と開写像定理
1.6 Hilbert空間
 
 
1.6.1 Hilbert空間の定義
1.6.2 Rieszの定理
 
1.7 Hilbert空間上の有界線形作用素
 
 
1.7.1 半双線形汎関数の極分解
1.7.2 随伴作用素
 
1.8 C*環の定義
 
 
1.8.1 Banach*環とC*環
1.8.2 イデアルと準同型と表現
1.8.3 コンパクト作用素環
1.8.4 Calkin環
 
1.9 Banach環におけるスペクトル
1.10 可換Banach環のGelfand表現
1.11 可換C*環のGelfand表現
1.12 コンパクト凸集合
 
 
1.12.1 Kreĭn‐Milmanの定理
1.12.2 閉凸包の性質
 
1.13 C*環の正錐
1.14 正線形汎関数と巡回表現
 
 
1.14.1 Banach*環上の正線形汎関数
1.14.2 多元環の表現とGNS構成法
1.14.3 包絡C*環と群C*環
1.14.4 Gelfand‐Naimarkの定理
 
1.15 既約表現と純粋状態

2 von Neumann環

2.1 von Neumann環の定義
 

2.1.1 ( )上の弱位相と定義
2.1.2 ( )上の局所凸位相
2.1.3 ( )と( )*の双対ペア
2.1.4 von Neumann環の特徴づけ
2.1.5 Kaplanskyの稠密性定理
 
2.2 スペクトル分解とトレイス類
 
 
2.2.1 スペクトル分解
2.2.2 σ弱閉イデアルと加群と因子環
2.2.3 巡回ベクトルと分離ベクトル
2.2.4 トレイス類
2.2.5 Schmidt類
 
2.3 正線形汎関数とW*環
 
 
2.3.1 正規正線形汎関数
2.3.2 線形汎関数の極分解
2.3.3 普遍包絡von Neumann環
2.3.4 W*環
2.3.5 表現の準同値
 
2.4 可換von Neumann環
2.5 von Neumann環とC*環のテンソル積
 
 
2.5.1 von Neumann環のテンソル積
2.5.2 Banach空間のテンソル積
2.5.3 C*環のテンソル積
2.5.4 von Neumann環のテンソル積の一意性
2.5.5 可換子環定理
 
2.6 von Neumann環の分類
 
 
2.6.1 射影とvon Neumann環の分類
2.6.2 I 型von Neumann環
2.6.3 自己同型群
2.6.4 有限von Neumann環とトレイス
2.6.5 半有限von Neumann環
2.6.6 テンソル積の型
 
2.7 因子環の例
 
 
2.7.1 群の表現の生成する因子環
2.7.2 接合積による因子環
2.7.3 von Neumann環の無限テンソル積
2.7.4 AFD因子環
2.7.5 充足的von Neumann環
 
2.8 直積分分解の理論
 
 
2.8.1 Hilbert空間の直積分
2.8.2 von Neumann環の直積分
2.8.3 直積分の性質
2.8.4 von Neumann環の直積分分解
 
2.9 III型von Neumann環の分類
 
 
2.9.1 Banach空間上の表現とスペクトル
2.9.2 荷 重
2.9.3 冨田‐竹崎理論
2.9.4 III型因子環の分類

付 録

A.1 Kreĭnの定理とRyll‐Nardzewskiの定理
参考文献
索 引
生西明夫(いくにし あきお)
1948年生まれ.東京工業大学大学院理工学研究科修士課程修了.現在,専修大学商学部教授.専門は,作用素環論.
中神祥臣(なかがみ よしおみ)
1940年生まれ.東京工業大学大学院理工学研究科博士課程中途退学.現在,日本女子大学理学部教授.横浜市立大学名誉教授.専門は,作用素環論

書評情報

数学セミナー 2007年7月号
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