不規則系の物理

コヒーレント・ポテンシャル近似とその周辺

不規則系研究の金字塔とされるコヒーレント・ポテンシャル近似(CPA)理論を徹底解説する.

不規則系の物理
著者 米沢 富美子
ジャンル 書籍 > 自然科学書 > 物理・化学
刊行日 2015/10/28
ISBN 9784000059695
Cコード 3042
体裁 A5 ・ 上製 ・ カバー ・ 266頁
在庫 品切れ
結晶のような周期性をもたない凝縮系を,不規則系とよぶ.周期性欠如の故に困難とされた不規則系の理論構築.その困難を乗り越えて提案されたコヒーレント・ポテンシャル近似(CPA)は,完成度の高さと普遍性の広がりで,不規則系研究の金字塔とされる.さまざまなアプローチから到達したCPAは「発見され,再発見され,再々発見され続けた理論」だ.そのCPAの徹底解説が本書の目的である.


■著者からのメッセージ
 本書では,不規則系における準粒子(電子など)を扱うための理論「コヒーレント・ポテンシャル近似(Coherent Potential Approximation――CPA)」と,それに関連した理論を論じる.CPAは,複数の理論的方法で導かれた.一番基本的なのは,不規則系における1 電子グリーン関数を摂動展開し,展開項のアンサンブル平均を「正しく」実行し,〈自己完結的な手続き〉で必要な項を拾って「単一サイト近似」として求めたものだ.この他にも,電子相関を考慮したハバード理論,有効媒質近似,連分数表現に対する近似などからも,同じ形の結果が得られている.物理学者のKrumhansl, J. A. はCPA を「歴史上,発見され,再発見され,そして再々発見され続けた理論」と評した.異なるアプローチが同じ形に行きつくのは,この近似の奥深さを物語っている.
 ノーベル物理学賞受賞者のAnderson, P.W.はCPAを「静かだが過激な革命」と位置づけた.CPAは近似理論として,無比の完成度を誇っており,また普遍性の広さは肩を並べるものもない.それゆえにCPAは,不規則系研究の金字塔とされている.(中略)
 本書では,CPAを利用した最近の研究や,CPA拡張の新しい試みについては,頁を割かなかった.そういうものは,やがて時とともに取捨選択される.一方,世紀を跨いで選択されてきたコア部分がある.CPAに関する,そういうコア部分の記述に力を注いだ.
 「不規則系」「アモルファス」「液体金属」などのキーワードを表題に含んだ本は,世界中を探せば他にもあるだろう.しかしそれらの本のいずれにも書かれていないことを,本書に書いた.その意味で「さぁ,買った,買った.絶対に損をさせないよ」と自信をもって言える.それが,著者のスタンスである.
――「まえがき」より一部抜粋
はじめに
第1章 不規則系――事始め
1.1 不規則系とは何だろうか
1.2 結晶の定義と不規則系
1.3 不規則系の分類
1.4 短距離秩序と長距離秩序
1.5 液晶と準結晶
第2章 結晶に関する議論――まず規則系を復習しておこう
2.1 空間格子と逆格子
2.2 結晶の電子バンド構造
2.3 金属と非金属
第3章 不規則系の一般論――不規則であるにもかかわらず出現する性質
3.1 エネルギー・ギャップの問題
3.2 モデルハミルトニアン
3.3 アンサンブルの概念
第4章 簡単な近似からでも見えてくるもの――置き換え型不規則系の真骨頂
4.1 モデルの設定と理論の方針
4.2 摂動項のアンサンブル平均
4.3 簡単な近似
第5章 摂動項をダイアグラムで表示する――直観的な把握
5.1 ダイアグラムによる表現
5.2 和の制限解除とキュムラント
5.3 摂動による無限和
第6章 自己完結的な無限和がCPAを与える――近似の数学的な素性と完成度の高さ
6.1 自己完結性が必要
6.2 自己完結性の概念
6.3 自己完結的に求めた解の優越性
第7章 コヒーレント・ポテンシャル近似の普遍性――再発見され続けて……
7.1 さまざまな方法で同じ結果が得られる
7.2 CPA――多元合金と複数サイト
7.3 CPAから広がる世界
第8章 アンダーソン局在――不規則であるからこそ出現する性質
8.1 電気伝導度は状態密度に比例する
8.2 アンダーソン局在
8.3 スケーリング理論
8.4 移動度端
第9章 位置の不規則性をもつ系――コヒーレント・ポテンシャル近似はここでも有効
9.1 位置の不規則系に対するアンサンブル平均
9.2 位置の乱れに対するコヒーレント・ポテンシャル近似
9.3 多バンドの場合への拡張
おわりに
付録A モーメントとキュムラント
付録B アンサンブル平均に対する《和の制限解除》――3次の項の場合
付録C 母関数から定義したPn(c)と漸次式から求めたP~n(c)との等価性
付録D 自己完結的な単一サイト近似――バーテックスの因子Qn(c)
付録E ハバード理論の解析
付録F 連分数の導出
文 献
索 引
米沢富美子(よねざわ ふみこ)
1938年大阪府生まれ.1966年京都大学大学院理学研究科博士課程修了.理学博士.京都大学基礎物理学研究所助手,助教授,慶應義塾大学教授を経て,現在,慶應義塾大学名誉教授.
著書として,『ブラウン運動』(共立出版),『金属‐非金属遷移の物理』(朝倉書店), 『〈あいまいさ〉を科学する〈時代のカルテ〉』 『猿橋勝子という生き方【岩波科学ライブラリー】』 『人物で語る物理入門〔全2巻〕【岩波新書】』 (以上,岩波書店)など多数.
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