人工林荒廃と水・土砂流出の実態

実務者に役立つ基本図書.林斜面から河川流域までの水・土砂移動のメカニズムを初めて解き明かす.

人工林荒廃と水・土砂流出の実態
著者 恩田 裕一
ジャンル 書籍 > 単行本 > 総記
刊行日 2008/10/17
ISBN 9784000054638
Cコード 3061
体裁 A5 ・ 上製 ・ カバー ・ 260頁
在庫 品切れ
本書は,国や自治体の実務者,施策立案者にとって必ず役立つ本である.年々荒廃してゆく人工林を,いかに修復し,健全に維持・管理するか.本書で解説される実態調査と実証研究の成果は,その難題に対処する指針を与えてくれる.林斜面から河川流域までの水・土砂移動のメカニズムを解き明かす,初めての研究書.

■編者からのメッセージ

現在,日本の森林は,40%以上が人工林となっており,森林の質的特徴は大きく変化してきている.これには,戦後の拡大造林ブームにより植裁されたスギ・ヒノキ等の人工林の面積増加が大いに関係している.これらの人工林が近年,間伐の時期を迎えているにもかかわらず,間伐がなされていないため,樹木は細く,林の中は昼なのに真っ暗であり,「荒廃」しているという指摘がなされている.その原因として,材価の下落により,人工林が適切に管理されていないためといわれている.
 編者らは,およそ15年前よりこの問題に取り組んできたが,まず問題になったのが,人工林が「荒廃」した場合,どのような問題が生じるかについての既存の研究例が,きわめて少なかったことである.1×2 mの小区画(プロット)から水と土砂を集めた研究が数件散見されるのみであった.
 真っ暗で荒廃した人工林に足を踏み入れたとき,編者はここで発生した水と土砂がどのように下流に影響するのであろうか,と興味をかき立てられた.また,このような状況の中で,多くの市民やNPOのメンバーが,荒廃した人工林の管理をすることにより,森林ときれいな水を守ろうという運動をしてきている.しかし,ややもすると「山を手入れすれば環境によい」といった予定調和論的な論旨が目立つのも現実であった.
 本書は,荒廃人工林からの水・土砂流出について,初めて総合的な観測の結果を総括したものである.荒廃人工林の水・土砂流出の実態について,ある程度は明らかにできたと自負している.近年,荒廃人工林の管理を,森林環境税という地方税でまかなおうという動きが各地で加速してきている.また,企業もCSR活動として森林管理に貢献する例が増えてきた.本書によって得られた知見が,荒廃人工林の適切な管理に貢献できれば望外の幸せである.

――本書「はじめに」より

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放置され,荒廃が進むヒノキ人工林.
はじめに
1 人工林荒廃とは何か
1.1 誤解の多い人工林荒廃の問題
  1.2 従来の人工林の荒廃に関する研究とその問題点
  1.3 環境と森林政策
  1.4 本書の構成
2 人工林における表面流の発生
  2.1 従来の人工林の荒廃に関する研究とその問題点
  2.2 ヒノキ林内における雨滴の変化
  2.3 樹幹流の量と分布
  2.4 雨滴衝撃と表面流の発生
  2.5 撥水性と表面流の発生
  2.6 土壌表層で生じるバイオマットフロー
3 表面流は河川へどう流れるか?
  3.1 森林流域における降雨流出に関する従来の研究
  3.2 斜面スケールにおける表面流の流出
  3.3 ヒノキ林流域と広葉樹林流域の降雨流出の違い
  3.4 水文トレーサを用いた降雨流出における表面流の寄与の推定
  3.5 森林の種類による栄養塩流出の違い
4 人工林の荒廃で土砂が川に流れ込む
  4.1 人工林の土壌侵食に関する従来の研究
  4.2 森林の状態と土壌の変化
  4.3 雨滴侵食のメカニズムと森林における雨滴侵食の実態
  4.4 人工林斜面の土壌侵食
  4.5 放射性降下物を用いたヒノキ林における土壌侵食量の推定
  4.6 放射性降下物を用いた河川浮遊土砂の起源推定
5 これからの流域森林管理に向けて
  5.1 流域森林管理の歴史と現状
  5.2 森林政策の現状と森林管理
  5.3 下層植生に配慮した森林管理の試み
  5.4 人工林管理においてなぜ下層植生が必要か
  5.5 流域森林管理と市民参加
付 録
  A.1 観測地概要
  A.2 観測機器
引用・参考文献
索 引
恩田 裕一(おんだ ゆういち) 1章,2.1節,2.4節,3.3節,5.4節,付録担当
1962年生まれ.筑波大学大学院生命環境科学研究科准教授.専門は,水文地形学.
南光 一樹(なんこう かずき) 2.2節,4.3節担当
1980年生まれ.サウスカロライナ大学地質学部研究員.水文地形学,森林水文学.
二塚 勇吾(ふたつか ゆうご) 2.3節担当
1983年生まれ.キャタピラージャパン株式会社勤務.森林水文学.
北原 曜(きたはら ひかる) 2.3節,4.4節担当
1952年生まれ.信州大学農学部教授.治山学,森林機能学.
宮田 秀介(みやた しゅうすけ) 2.5節担当
980年生まれ.東京農工大学大学院共生科学技術研究院産学官連携研究員.砂防学,森林水文学.
小杉 賢一朗(こすぎ けんいちろう) 2.5節担当
1968年生まれ.京都大学大学院農学研究科助教.砂防学,森林水文学.
寺嶋 智巳(てらじま ともみ) 2.6節,3.3節担当
1961年生まれ.京都大学防災研究所准教授.水文地形学.
平野智章(ひらの とものり) 2.6節担当
1981年生まれ.千葉大学大学院理学研究科博士課程.水文学.
五味 高志(ごみ たかし) 3.1節,3.2節,3.3節,3.4節担当
1969年生まれ.東京農工大学大学院共生科学技術研究院講師.森林水文学,砂防学,流域資源管理学.
Roy C. Sidle(さいどる ろい) 3.2節担当
1948年生まれ.京都大学防災研究所教授.水文地形学,自然災害科学,流域水文学.
水垣 滋(みずがき しげる) 3.3節,4.1節,4.6節担当
1974年生まれ.筑波大学大学院生命環境科学研究科研究員.砂防学,森林水文学
平松 晋也(ひらまつ しんや) 3.3節担当
1958年生まれ.信州大学農学部教授.砂防学,流域保全学.
浅野 友子(あさの ゆうこ) 3.4節担当
1972年生まれ.東京大学大学院農学生命科学研究科助教.森林水文学,生物地球化学.
福島 武彦(ふくしま たけひこ) 3.5節担当
1952年生まれ.筑波大学大学院生命環境科学研究科教授.環境科学.
張 朝(ちょう あさ) 3.5節担当
1971年生まれ.北京師範大学地表過程資源生態重点実験室准教授.水環境科学.
田村 憲司(たむら けんじ) 4.2節担当
1959年生まれ.筑波大学大学院生命環境科学研究科准教授.土壌学.
金 栄麒(きむ よんぎ) 4.4節担当
1981年生まれ.東京個別指導学院勤務.山地環境保全学.
福山泰治郎(ふくやま たいじろう) 4.5節担当
1974年生まれ.金沢大学環日本海域環境研究センター博士研究員.森林立地,森林水文,環境放射能.
蔵治 光一郎(くらじ こういちろう) 5.1節,5.5節担当
1965年生まれ.東京大学愛知演習林講師.森林水文学,河川・流域ガバナンス,地域森林自治.
野々田 稔郎(ののだ としろう) 5.2節,5.3節担当
1961年生まれ.三重県林業研究所森林環境研究課主幹研究員.森林防災.
山本 一清(やまもと かずきよ) 5.3節担当
1967年生まれ.名古屋大学大学院生命農学研究科准教授.森林計測学,リモートセンシング.
平岡 真合乃(ひらおか まりの) 5.4節担当
1981年生まれ.筑波大学大学院生命環境科学研究科博士課程.森林水文学,水文地形学
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