元禄和歌史の基礎構築

和歌というジャンルを広く近世の時代思潮のなかで捉える基礎的研究書.「近世歌書刊行年表」を付す.

元禄和歌史の基礎構築
著者 上野 洋三
ジャンル 書籍 > 単行本 > 文学・文学論
刊行日 2003/10/07
ISBN 9784000227360
Cコード 3091
体裁 A5 ・ 上製 ・ 函入 ・ 440頁
在庫 品切れ
日本文学史を上代から貫く和歌というジャンル.後水尾院と続く霊元院の元禄時代を近世和歌の到達点とする独創的視点から,同時代の他の領域との関わりを視野にいれつつ,広く近世初頭の文学活動のなかでの和歌の具体的様相,位置付けを明らかにする.付録「近世歌書刊行年表」は,寛永から元禄期までの歌書出版の資料.

■著者からのメッセージ

 俳諧を,特に芭蕉の発句を,十分に理解するために,二十歳代の前半には,元禄期の漢詩文のことを勉強しました.指折り数えて五言詩,七言詩を読み,平平仄仄……と一字一字,辞書を引いて,印をつけて行くような稽古の学習でしたが,見兼ねた先輩・先学に手足をとって教えていただきました.
 同じように,芭蕉の発句の理解のためにという目的で,同時代の和歌史を勉強し始めたのは,もう三十歳近い頃で,すでに教鞭をとって居りましたので,一々先輩を追いかけ廻している暇がありませんでした.それに和歌史の資料というのが,厖大(ぼうだい)に,ほとんど活字化されていない状態で,各地に存在していましたので,写真撮影の機材を持って,友人・学生とともに,東西を跳びまわりました.クルマの運転を身につけたのも,機材や旅装を積んでまわるためでした.国文学研究資料館が発足する頃でしたから,こんにちのように大量のフィルムを一挙に閲覧できるなどということは,夢のような時代の話です.
 しかし,中古・中世の和歌史研究の先学たちの,さらに気の遠くなるような資料探索の話を洩れ伺えば,うじうじしていられません.
 集めた材料を読むたびに,教えられること,見えてくるものが,別々の興奮と感慨を与えてくれました.別々のこころの状態を,それぞれに文章にしました.このたびの書物が,一冊の本としては,あきれるほどバラバラの紙面を持つのは,そのためです.題材が要求する文体を,そのときそのとき,自らが熱中できる文章で書き終えた結果が,これです.
 ゆるされたこれからの時間の中で,これらを一貫した文体で綴り直す機会が,あるでしょうか.しかし,江戸時代の和歌は,総歌数が何万首になるのか,まだ数えることさえ出来ていません.あるいは,この多様の文体のまま,書きつづけることが,最もふさわしいのかもしれません.
はじめに
I 近世和歌史再考
第1章 江戸時代前期の歌と文章
一 継承した人々
二 再構成した人々
三 武家の歌よみ
四 教えを説く人々
五 旅する人々
六 隠棲する人々
第2章 堂上と地下
  ――江戸時代前期の和歌史
一 御所伝受の始まり
二 万治御点と第二次伝受
三 霊元院と伝受の整備
四 霊元院時代の俊秀たち
五 冷泉家の復興
六 堂上歌人と地下歌壇
七 地下歌壇の流れ
八 大阪の歌人と歌学
九 木下長嘯子と江戸歌壇
十 戸田茂睡の反抗?
十一 堂上和歌集の刊行
第3章 寛永の京都文化
一 鎖国する武家
二 鬱屈する朝廷
三 文化の枠組み
四 信仰の体現
五 文芸の体得

II 地下歌人の成長と充実
第1章 『歌枕名寄』の板下筆者
〈付〉良玄略年譜
第2章 有賀長伯の出版活動
一 著  述
二 同時代に占める位置
三 当代の秘伝
第3章 跡部良隆の
  『近代一人一首』
一 旗本跡部氏
二 撰集を作る
三 当代の和歌史観
四 西行の人気
第4章 『若むらさき』の歌風

III 堂上歌論の再構築
第1章 元禄堂上歌論の到達点
  ――聞書の世界
一 出発と前提
二 時代区分と資料
三 いかに詠むべきか
四 聞書の世界
第2章 『渓雲問答』の成長
第3章 歌論と俳論
一 方寸を責む
二 誠をせめる
三 道の根元のまこと
四 文芸理論のまこと
五 三條西實教のまこと論
六 性情論・歌論・俳論
第4章 歌俳趣向論
一 『雑談集』より
二 堂上歌論の「趣向」
三 俳論の「趣向」

IV 元禄の和歌史と芭蕉の表現
第1章 『挙白集』と『奥の細道』
第2章 春雨・蜂の巣・蜘蛛の囲
一 和歌の変容
二 春雨の俳諧
三 物にいたる
第3章 芭蕉と同時代の歌壇

V 和歌の理想のありか
第1章 柳沢吉保と『松蔭日記』
一 柳沢吉保の時代
二 『松蔭日記』の時代
三 『松蔭日記』の影響
第2章 百年の交誼
付 近世歌書刊行年表
  ――寛永~元文――
初出一覧
索  引
「近世歌書刊行年表―寛永~元文―」索引(書名・人名・書肆名)
人名索引
書名索引
上野洋三(うえの ようぞう)
1943年生.1971年京都大学大学院博士課程修了.現,九州大学大学院人文学研究院教授.近世日本文学専攻.
著書
『芭蕉論』筑摩書房,1986年.『近世和歌撰集集成』明治書院,1985―88年.『芭蕉,旅へ』岩波新書,1989年.『芭蕉七部集』岩波セミナーブックス・古典講読シリーズ,1992年.『芭蕉自筆 奥の細道』岩波書店,1997年.『「奥の細道」の謎』二見書房,1997年.『近世宮廷の和歌訓練―『万治御点』を読む―』臨川書店,1999年.『万治御点―校本と索引―』和泉書院,2000年.『奥の細道』(21世紀に読む日本の古典)ポプラ社,2002年.『吉原徒然草』岩波文庫,2003年.
校注書
新日本古典文学大系70『芭蕉七部集』岩波書店,1990年.新日本古典文学大系67『近世歌文集(上)』岩波書店,1996年.江戸詩人選集1『石川丈山 元政』岩波書店,1991年.
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