岩波科学ライブラリー 115

新鉱物発見物語

「新鉱物」の発見への挑戦にはさまざまな人との出会いやドラマがある.石を愛する著者が自然観も交えて語る.

新鉱物発見物語
著者 松原 聰
ジャンル 書籍 > 単行本
書籍 > 自然科学書
書籍 > シリーズ・講座・全集
書籍 > 岩波科学ライブラリー > 宇宙・地球
日本十進分類 > 自然科学
シリーズ 岩波科学ライブラリー
刊行日 2006/01/20
ISBN 9784000074551
Cコード 0344
体裁 B6 ・ 並製 ・ カバー ・ 142頁
在庫 品切れ
「新鉱物」発見という世界初への挑戦には,それを支えるさまざまな人や石との出会いがあり,また失敗談やフィールドでのハプニングなどのさまざまなドラマがある.長年に渡って実際にフィールドを歩いて調査してきた著者が,発見にまつわる物語や三宅島噴火などを紹介して石から見た自然観を語る.カラー写真6ページ付.

■著者からのメッセージ

現代の日本では,「石」はどう思われているのだろう.鉱山がほとんどなくなってしまったので,金属を含む「石」,つまり鉱石のことは大部分の人の意識から遠ざかってしまっている.金や銀がどんな「石」の中に入っているのだろうかと疑問をもつ人がどれだけいるだろうか.それより今は,マイナスイオンだ,パワーだ,水がうまくなる,そんな秘力?を持つ「石」が欲しいという人が増えてきた.魔法の石が出てくる映画も盛況だ.どこか古めかしい中世の世界に逆戻りしているようにも思える.最近読んだおもしろい本がある.13世紀のヨーロッパで発行されたアルベルトゥス・マグヌスの『鉱物論』(編訳:沓掛俊夫,朝倉書店,2004年)だ.この中に出てくる宝石(といっても石でないものも入っているが)九九種類には,今では一笑に付したくなるさまざまな効能が書かれている.著者自身は「科学にとって何ら役立たないものについては何も述べない」と書いているぐらいだから,その時代の人々はそれらを本当に信じていたのであろう.そんな怪しげな効能はさておき,現代の宝石にしても,それに不可思議な願いを託している人もいるだろう.たとえば,誕生石という言葉自体がすでに「石」の秘力を織り込んでいるのだ.
 科学の進歩によって,「石」,つまり岩石が地球の表層部を作っている物質だとわかってきた.岩石は鉱物という物質が集まってできていて,鉱物は元素からできているということもわかった.地球がたどってきた歴史は鉱物にしか語ることはできない.鉱物・岩石・地質に関連した研究者たちは,それを何とか聞き取ろうと努力している.そういう人たちにとって,「石」は宝物である.しかし,研究者だけにそんなおもしろいことをさせておいてはいけない.好奇心を持つ人は誰でも「石」の中に宝物を見つけることができる.地面に目を向け,少し脳を働かせてやれば…….
 鉱物研究の一つに,新種の鉱物,つまり新鉱物の発見がある.地殻に遍在する元素と地質環境の組み合わせでできた未知の物質が,地球のどこかにまだまだ隠れているはずである.我々は小さな「石」の中にそれらを求めてフィールドや実験室での探究をおこなってきた.そこには人との触れ合いを通じたさまざまな物語がある.
(第一章から抜粋)
1 地球からの贈り物たち
 
不思議がつまった石たち――地面の石に目を向けよう
 
新しいものを求めて探検することはおもしろい!
 
 ◆コラム 元素と化学分析

2 どんな石が新鉱物?
 
青い翡翠?!――糸魚川石
 
20世紀最後の元素鉱物――パラ輝砒鉱
 
佐賀のタマちゃん――ランタン弘三石
 
小さいけれど中身は濃い――東京石
 
 ◆コラム 新鉱物とは何か

3 新鉱物,命名にも一工夫
 
意外と少ない県名のついた鉱物――岡山石
 
アマチュア鉱物研究家が鉱物名に――長島石
 
鉱物にも体格がある――鈴木石
 
先生の名前が二転三転――木村石
 
父は姓,息子は名が鉱物に――ネオジム弘三石
 
自分の名前を石に付けられない――松原石
 
名前にこだわるのも楽しみの一つ――わたつみ石
 
 ◆コラム 鉱物の名前はどうやって決める?

4 新発見には物語がつきもの
 
ちょっとした違いに目を向ける――磐城鉱
 
二つの故郷を持つ石――種山石
 
青森で見つかった石はスイスが故郷?――津軽鉱
 
東京都で最初に見つかった新鉱物――多摩石
 
目からウロコの発見――プロト直閃石
 
棚の中に眠っていた新鉱物――渡辺鉱
 
あやうくさらわれそうになった石――苦土フォイト電気石
 
 ◆コラム 少しの遅れで新鉱物を逃す!

5 石は地球そのもの
 
地球を形作る石たち――鉱物から見た自然観
 
噴火は地球の脈動

 
あとがき
松原 聰(まつばら さとし)
1946年愛知県生まれ.1969年,京都大学理学部地質学鉱物学科卒業.1971年,京都大学大学院博士課程中退後,国立科学博物館地学研究部に勤務.現在,国立科学博物館地学研究部長.理学博士.
専門は,鉱物科学全般.特に,野外鉱物学,記載鉱物学.著書は,『鉱物採集の旅 東京周辺をたずねて』,『鉱物採集の旅 東海地方をたずねて』(ともに築地書店),『フィールド版 鉱物図鑑』,『鉱物ウォーキングガイド』(ともに丸善)など.

書評情報

しんぶん赤旗 2006年3月5日

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