岩波科学ライブラリー 173

天文学の誕生

イスラーム文化の役割

占星術が天文学となるまでには,中世イスラームの強い影響があった.なぜか.知られざる事実を追う.

天文学の誕生
著者 三村 太郎
ジャンル 書籍 > 単行本
書籍 > 自然科学書
書籍 > シリーズ・講座・全集
書籍 > 岩波科学ライブラリー > 宇宙・地球
日本十進分類 > 自然科学
シリーズ 岩波科学ライブラリー
刊行日 2010/08/26
ISBN 9784000295734
Cコード 0344
体裁 B6 ・ 並製 ・ カバー ・ 126頁
在庫 品切れ
古代より,天球のふしぎな運行を予測し,天変地異の前触れを読みとることは,国の政治を司ることであった.しかし,占星術に端を発する天文学が科学として成立するには,バビロニアや古代ギリシアの成果をどん欲に取り入れざるを得なかった中世イスラーム文化の強い影響がある.残された文献から知られざる事実を追う.

■著者からのメッセージ

日本人にとって,イスラームは,いまだになじみが薄い宗教.テレビなどを通して見る典型的な場面は,荘厳なモスクで多くの人々が伏して礼拝している風景だろう.宗教色の薄い日常を送る日本人にとって,宗教に従順なイスラームの人々の行動は奇異に映るかもしれない.
  現在,モスクがイスラームの人々の宗教生活の中心にあるのはたしかである.人々は毎日モスクへと礼拝に集い,特に金曜日には大きなモスクへと赴き,そこで説教を聞くのが常である.大きなモスクにはマドラサ(学院)がしばしば併設されている.マドラサでは,人々に聖典『クルアーン』の詠み方を教える一方で,聖職者を養成するための講義も行われている.まさに,マドラサはイスラーム布教の要だといえる.
 (中略)
 その昔,多くの神学校マドラサは,聖職者となるために必要な書物を集めた図書館を備えていた.とりわけ印刷術以前の時代にあったニザーミーヤ・マドラサでは,数多くの写本が製作され,収集された.
 その一つが現在ヴァチカンの図書館に残されている.それは,ギリシャ天文学の立役者プトレマイオスによる『アルマゲスト』に基づいた天文学書『世界の仕組みの学覚書』である.実は,マドラサでは,この写本にとどまらず,天文学書の写本が多数製作された.イスラームという宗教に正反対に位置するように見える天文学という科学が,マドラサというイスラーム布教の要で必要とされたのは驚きである.
 なぜイスラームは天文学を必要としたのだろうか.
――本書「はじめに」より
三村太郎(みむら たろう)
1976年生まれ.2008年東京大学大学院総合文化研究科(広域科学専攻相関基礎科学系)博士課程修了(学位(学術)).現在,カナダMcGill大学イスラーム学研究所助手.著書として,『科学の真理は永遠に不変なのだろうか』(中根・佐藤編,第2章執筆,ベレ出版,2009).訳書として,『アラビア数学の展開』(ロシュディ・ラーシェド著,コレクション数学史4,東京大学出版会,2004).

書評情報

東京新聞(朝刊) 2010年10月3日

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