岩波科学ライブラリー

どうする・どうなる口蹄疫

海をも越えて広がる口蹄疫.ウイルス学の出発点となったその歴史・性質・対策を科学的に概観する.

どうする・どうなる口蹄疫
著者 山内 一也
通し番号 175
ジャンル 書籍 > 自然科学書 > 岩波科学ライブラリー
書籍 > 岩波科学ライブラリー > 生命・医学
日本十進分類 > 自然科学
シリーズ 岩波科学ライブラリー
刊行日 2010/10/26
ISBN 9784000295758
Cコード 0347
体裁 B6 ・ 並製 ・ カバー ・ 126頁
在庫 品切れ
海をも越えて被害が広がる口蹄疫.2010年宮崎県の流行では殺処分対象となった家畜は30万頭近く,深刻な事態を招いた.欧米ではアリストテレスの時代から知られ,対策の歴史も長い.一方,日本では科学的視点に欠ける対策との批判が大きい.本書はウイルス学の出発点ともなった口蹄疫の歴史を振り返り,正確な科学的知識を提供する.


■著者からのメッセージ
 2010年に宮崎県で発生した口蹄疫は29万頭に達する大量の家畜の殺処分というこれまで日本では経験したことのない事態となり,全国民に大きな衝撃を与えた.
 その約10年前,2001年に英国で600万頭の家畜が殺処分されるという,大きな口蹄疫の発生が起こった.この発生で英国政府が行った対策を調査した委員会の2002年の報告は,殺処分のみに依存してきた対策をきびしく批判し,いくつかの勧告を行った.これがきっかけになって,口蹄疫対策には大きな転換が起きてきた.「生かすためのワクチン」に関わる研究が盛んになってきたのである.
 今回の宮崎での農林水産省の対応を見ていると,2001年に英国で大発生した口蹄疫が「殺すためのワクチン」から「生かすためのワクチン」への方針転換をもたらし,ワクチン接種を最初の選択肢とみなすようになっていたことを認識していたとは思えない.
 マスコミ報道は殺処分に重点が置かれ,口蹄疫に関わる研究の進展が取り上げられることはほとんどなかった.そこで改めて最新の学術情報を収集し,それにもとづいて口蹄疫という病気の実態,口蹄疫の歴史,対策の変遷,今後の問題点などを紹介することにした次第である.
――本書「まえがき」「あとがき」より抜粋,一部変更
はじめに

第1章 口蹄疫とは?――症状は軽いが急速に広まる伝染病
1 ウイルス学の出発点
2 口蹄疫は軽い病気
3 人の衣服や風に乗って海を越えて運ばれるウイルス
4 口蹄疫ウイルスとポリオウイルス
  コラム 牛疫/ウイルスの発見/パーブライト研究所

第2章 口蹄疫と殺処分――長い対策の歴史
1 殺処分による対策のはじまり
2 ワクチンか? 殺処分か?
3 ワクチンへの大きな転機
4 研究所から漏出した口蹄疫ウイルス
5 オランダでは緊急ワクチン接種
6 北米での口蹄疫――日本のウイルスが初期の発生源に
7 メキシコでの大発生と国境封鎖
  コラム 天然痘ワクチン

第3章 口蹄疫ワクチン――新しい展開
1 口蹄疫ワクチンの歴史
2 マーカーワクチン――殺すためのワクチンから生かすためのワクチンへ
3 組み換えDNA技術による新しいマーカーワクチンの開発研究
  コラム カッター事件

第4章 口蹄疫と日本――21世紀に初めて問題となる
1 明治時代における発生:重要視されなかった口蹄疫
2 台湾の養豚産業の壊滅
3 2000年・宮崎――100年ぶりの発生
4 2010年・宮崎――欧米の教訓が活かされず
5 日本の口蹄疫対策に見られる非科学性
  コラム 豚コレラ撲滅計画/ベルギー国王と口蹄疫/口蹄疫ウイルス遺伝子の輸入についての私の経験

第5章 口蹄疫とどう付き合うか?
1 口蹄疫バイオテロ
2 動物福祉と口蹄疫対策
3 口蹄疫は人が作り出した疫病

 あとがき
 参考文献
山内一也(やまのうち かずや)
1931年生まれ.
北里研究所,国立予防衛生研究所,東京大学医科学研究所教授,日本生物科学研究所主任研究員などを経て,現在,東京大学名誉教授.
著書に『狂牛病と人間』(岩波ブックレット),『異種移植』(河出書房新社),『プリオン病の謎に迫る』(日本放送出版協会),『ウイルスと人間』,『史上最大の伝染病 牛疫』(岩波書店)ほか多数.訳書に『異種移植とはなにか』(岩波書店),『カミング・プレイグ』(河出書房新社)ほか.

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