岩波科学ライブラリー 183

惑星気象学入門

金星に吹く風の謎

なぜ地球だけが温暖なのか? 太陽からの距離だけでは説明しきれない,惑星気象の謎の解明に挑む.

惑星気象学入門
著者 松田 佳久
ジャンル 書籍 > 自然科学書 > 岩波科学ライブラリー
書籍 > 岩波科学ライブラリー > 宇宙・地球
シリーズ 岩波科学ライブラリー
刊行日 2011/08/25
ISBN 9784000295833
Cコード 0344
体裁 B6 ・ 並製 ・ 122頁
定価 1,430円
在庫 在庫僅少
地球は温暖な環境なのに,双子の惑星といわれる金星は灼熱地獄.地上には,地面の回転と同じ方向に60倍もの高速で風が吹く.火星は酷寒・乾燥の地,木星は底なしの大気――この違いはなぜ生じるのだろう? 太陽からの距離だけでは説明しきれない惑星気象の謎の解明に,金星の気象研究35年の著者が挑む.


■著者からのメッセージ
 2010年5月21日に日本の金星探査衛星「あかつき」が打ち上げられた。同年12月7日に金星軌道投入に失敗したが、衛星本体は維持されており、再投入の試みが期待されている。
 「あかつき」の主な目的は雲の動きを観測することにより、金星に吹く風を立体的に明らかにすることである。地球以外で気象観測を中心にすえた探査衛星の打ち上げは初めてであり、成功すれば、日本による快挙となる。それでは、なぜ金星の風を測るのであろうか。一口でいえば、金星には長年謎とされているスーパーローテーションという大気全体が高速で回転する大変不思議な現象があり、その構造や原因を観測によって調べるためである。このスーパーローテーションという謎の解明こそ筆者の三〇年来の研究テーマであり、本書の主要なテーマの一つである。
 金星に限らず、水星以外の太陽系の惑星は大気をもっている。近年、観測が進むに従い、そこでは、地球の気象とは異なった独特の気象が展開されていることがわかってきた。それぞれの現象を理解し、その原因を究明するだけでも興味深いが、それらを集積し、惑星気象学という形で体系化できれば、より有益であろう。各惑星を比較することにより、われわれの住む地球の気象が惑星気象全体の中で位置づけられ、地球の気象に対する理解も深まることになる。
 本書ではこのような視点の下に、地球型惑星である金星、地球、火星の気象の基本を順次、説明し、比較した。紙数の関係で、木星型惑星についてはくわしく説明できなかったが、木星については基本的な現象の説明を行った。なお、金星のスーパーローテーションのメカニズムの説明は少し複雑なので、最後の第5章にまわした。各惑星の気象を一通り理解したあとで、じっくり読んでいただきたい。また、第1章の金星の大気が高温であることについての説明は、地球や火星にも共通する温室効果の議論が中心なので、そのつもりで読んでもらいたい。
――「まえがき」より
まえがき

1 焦熱地獄の世界――金星
Y字形の雲の模様――スーパーローテーションの発見/高速東風のピークは高度七〇キロメートル/地表面温度はセ氏四六〇度、大気圧は九二気圧!/地表面温度は太陽からの距離で決まる?/濃硫酸の雲/有効放射温度より地表面温度が高いわけ/温室効果/太陽光が地面に届かない場合/金星の温室効果/温室効果を正確に計算すると/対流の効果

2 中庸を得た温暖な世界――地球
地球の温室効果/地球対流圏の特徴/成層圏では夏極で最高温度・冬極で最低温度/なぜ風が吹くのか/赤道地方から極地方への水平対流/対流圏の中緯度では偏西風が卓越/傾圧不安定波/複数の気候状態

3 酷寒と乾燥の世界――火星
地表面温度はセ氏マイナス一〇〇度から零度/熱しやすく冷めやすい大気/大気量の季節変化と極冠/火星大気の放射対流平衡温度分布/火星の大気大循環/ダスト・ストーム/火星の気候変動

4 底なしの大気――木星
地球型惑星と木星型惑星/層をなすアンモニアの雲・硫化水素アンモニウムの雲/帯状の構造をもつ大気/東西風が卓越/木星気象学の課題/大赤斑/土星、天王星、海王星に吹く風/タイタンの大気とそのスーパーローテーション

5 超高速回転する大気――金星の謎を解く「あかつき」
夜昼間の温度差/夜昼間の大気の流れ/高速東風の風速の緯度分布/金星の熱潮汐波/波が運ぶ運動量/フェルスとリンゼンの研究/高木・松田の研究/子午面循環の作用/スーパーローテーションと夜昼間対流/子午面循環によるメカニズムの数値実験/金星大気の観測の必要性と「あかつき」

あとがき
松田佳久(まつだ よしひさ)
1951年生まれ.東京大学大学院理学系研究科博士課程修了.東京大学理学系研究科助教授などを経て,現在,東京学芸大学教育学部自然科学系宇宙地球科学分野教授.1982年度山本賞,2003年度堀内賞を日本気象学会から受賞.著書に『惑星気象学』(東京大学出版会),共著書に『人類の住む宇宙』(シリーズ現代の天文学第1巻,日本評論社)などがある.

書評情報

天気〔日本気象学会〕 Vol.59 No.8(2012年8月)
しんぶん赤旗 2011年11月6日

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