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岩波科学ライブラリー 220

キリンの斑論争と寺田寅彦

キリンの斑模様は何かの割れ目ではと論じた物理学者に,危険な発想と生物学者が応じた有名な論争の顛末?

キリンの斑論争と寺田寅彦
著者 松下 貢
ジャンル 書籍 > 自然科学書 > 物理・化学
日本十進分類 > 自然科学
シリーズ 岩波科学ライブラリー
刊行日 2014/01/08
ISBN 9784000296205
Cコード 0342
体裁 B6 ・ 134頁
在庫 品切れ
キリンの斑模様は何かの割れ目と考えることができるのではないか.そんな論説を物理学者が雑誌『科学』に寄稿したことに生物学者が危険な発想と反論したことから始まった有名な論争の顛末は? 現在の科学から論争の意味と意義を評価する.主導的な役割を果たした寺田寅彦の科学者としての視点の斬新さ・先駆性が浮かび上がる.


■編集部からのメッセージ
 寺田寅彦が亡くなる2年前(昭和8年)のことですが,岩波書店が発行する雑誌『科学』で,ある論争が起こりました.寺田の弟子でもあった平田森三博士が,「キリンのまだら模様と地面の割れ目模様はどこか似ている.これは単に似ているだけでなく,もっと深いところで何か関係があるのではないか」と問題提起したことが発端です.平田森三は,戦後のある時代,物理学の教科書として一世風靡した『PSSC物理』(岩波書店)の訳者としても知られている方です.
 今もそうですが,生物の専門外の人が生物学に踏みこんで何かを言うと,必ず,生き物のことを何も知らない輩が机上でものを言うと反論されることが多く,当時もやはりそうでした.生物学者の俊英である丘英通博士が平田の提起に「危険な思想」として反論したことから始まった論争です.丘は動物学者である丘浅次郎の息子で,本人も実験動物学者として著名でした(『岩波 生物学辞典』第5版より).
 いずれにせよ,この論争で大きな役割を果たしたのが寺田寅彦です.
 この本でとくに注目してほしいのは,寺田の「割れ目と生命」と題した論説です.この論説で,そもそもなぜ物理学者はこれを問題提起したのか,を明らかにしたばかりか,それを確認するためにはどのようなアプローチをするべきか,きわめて具体的に書いています.もとは講演録だったというだけに,とても読みやすく,またユーモラスなところもあります.(ちなみに,このなかで書かれている実験を再現してみたらどうなるか,というのが寺田寅彦の地元高知の高知県立文学館のなかにある「寺田寅彦記念室」でビデオ映像として見られます.とても面白いです.高知に行かれたら,ぜひお寄りください.)
 こんなユニークな論説ですが,『新版 寺田寅彦全集』(Ⅰ期17巻,Ⅱ期13巻)にも,もちろん『寺田寅彦随筆集』(全5冊,岩波文庫)にも入っていません.戦前に刊行した「科学篇」には収録されていましたが,今となっては本書ぐらいでしか読めない貴重なものです.
 寺田寅彦の科学観や科学的方法が凝縮された,この論説をぜひ読んでみてください.
はじめに――いまなぜ「キリンの斑論争」か(松下 貢)

第Ⅰ部――発端
 キリンの斑模様に就いて(平田森三)
 キリンの斑模様に関する平田氏の説に就きて(丘 英通)
 再びキリンの斑模様に就いて(平田森三)
 キリンの斑模様に就いて(3)(平田森三)
 生物と割れ目(寺田寅彦)
 割れ目と生命(寺田寅彦)

第Ⅱ部――現代科学との関わり
 キリンの斑論争と非平衡科学(佐々真一)
 割れ目(佐野雅己)
 風紋と砂丘(西森 拓)
 キリンの斑論争と現代の分子発生学(近藤 滋)
 [解説]

あとがきにかえて――寺田寅彦が伝えたかったこと(松下 貢)
松下 貢(まつした みつぐ)
1943年富山県生まれ.東京大学工学部物理工学科卒.同大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了.日本電子(株),東北大学電気通信研究所,中央大学理工学部で勤務.現在は,中央大学名誉教授.専門は統計物理学,パターン形成の物理.著書に『フラクタルの物理Ⅰ,Ⅱ』(裳華房),『英語で楽しむ寺田寅彦』(共著,岩波科学ライブラリー)などがある.

■ 執筆者一覧
平田森三(ひらた もりそう)
 1906-1966.物理学者.

丘 英通(おか ひでみち)
 1902-1982.実験動物学者,実験発生学者.

寺田寅彦(てらだ とらひこ)
 1878-1935.物理学者.随筆家,俳人,映画評論家.

佐々真一(ささ しんいち)
 京都大学大学院理学研究科物理学専攻教授.

佐野雅己(さの まさき)
 東京大学大学院理学研究科物理学専攻教授.

西森 拓(にしもり ひらく)
 広島大学大学院理学研究科数理分子生命理学専攻教授.

近藤 滋(こんどう しげる)
 大阪大学大学院生命機能研究科教授.

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