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岩波科学ライブラリー

協力と罰の生物学

生きものたちのうるわしき「協力」のからくりと,その裏にひそむ「罰」の世界をいきいきと描く.

協力と罰の生物学
著者 大槻 久
通し番号 226
ジャンル 書籍 > 自然科学書 > 岩波科学ライブラリー
書籍 > 岩波科学ライブラリー > 人間・心理
日本十進分類 > 自然科学
シリーズ 岩波科学ライブラリー
刊行日 2014/05/22
ISBN 9784000296267
Cコード 0345
体裁 B6 ・ 並製 ・ カバー ・ 126頁
在庫 品切れ
排水溝のヌメリにアリのコロニー,花と昆虫,そしてヒトの助け合い.この世界はうるわしき協力であふれている.容赦ない生存競争の中で,生きものたちはなぜ自己犠牲的になれるのか.ダーウィン以来,この謎に果敢に挑んできた研究者たちの軌跡と,協力の裏にひそむ,ちょっと怖い「罰」の世界を生き生きと描く.


■著者からのメッセージ
 進化は,単純な初期状態から複雑性を生み出す驚きのプロセスです.生命は,40億年ともいわれる想像もつかない長い時間を経て,現在の姿に進化してきました.進化の原動力は,遺伝子のコピーミスなどによって引き起こされる突然変異であり,つまりは偶然です.しかし,全てが偶然かというとそうではなくて,突然変異で生じた個体の中でも,繁殖や生存に有利なものだけが生き残り,その他が淘汰されていくことで,偶然を原動力としながらも,生命のもつ複雑性は徐々に増してきました.
 生物の社会性についても同じことがいえます.生物の協力や罰といった性質は,あたかも神様がいて,その神様が前もってデザインした仕組みのようにすら見えますが,これも元々は小さな突然変異の積み重ねでできたものです.
 一方で,我々ヒトは,この進化の流れとは別に,自らの意思で考えて,改善を重ねることで,協力や罰の仕組みを社会の中につくり上げてきました.もちろんヒトの思考能力自体は,進化でつくられたものなので,そういった意味では,我々の思考も進化とは無縁ではありません.しかし,そうであっても我々がもっている(と,我々が信じている)「自由意志」によってつくられる罰の形態は,進化がつくり出す罰の形態とは大きく異なってもよいはずです.
 にもかかわらず,ヒトが用いる罰が,他の生物で用いられている罰に似ているのは特筆すべき点です.このような,ヒトとヒト以外の類似点の面白さを,読者の方々に伝えられたらと思い,この本を執筆しました.
――本文「あとがき」より抜粋,一部改変


■編集部からのメッセージ
 生物の世界における協力や罰という,いま非常にホットなテーマについて,気鋭の研究者である著者が豊富な例とともに平易に語りおろした楽しい本です.すこぶるやさしい調子の文章の中に「ええっ!?」というようなショックな例がいろいろと出てきて,ジェットコースターのような急降下気分が味わえます.
 生き物の「かたち」のみならず,他者との「関係性」を維持するしくみもまた,進化の賜物と考えられること.単細胞生物とヒトのように大きくかけ離れた生き物のあいだにも,似たようなしくみがみられること…….他人を見る目が変わってしまうかもしれませんが,それでも,「世界はまだまだおもしろい」と感じさせてくれる一冊です.
1 仲良きことは美しきかな――自然界にあふれる協力のすがた
協力というシステム/くっつくバクテリア――ヌルヌル物質の秘密/キイロタマホコリカビ――みんなでつくる集合体/働きアリの献身/オナガの共同繁殖/血を分けてあげるコウモリ/敵が来たぞ――ミーアキャットの警戒声/嬉しい声――フードコール/チンパンジーの道具の貸し借り/植物と細菌の助け合い/クマノミとイソギンチャク/ようこそ!クリーニング場へ
 第1章のまとめ
 BOX 協力とは

2 ダーウィンの困惑――なぜ「ずるいやつら」ははびこらないか
ダーウィン登場/強い者が生き残る――適者生存の「自然淘汰」/ただ乗りという誘惑/ミクロの世界のフリーライダー/蛍光菌のフリーライダー/働く気のないアミメアリ/養蜂業者の誤算/蜜だけ盗むハチ
 第2章のまとめ
 BOX 共生とフリーライダー

3 協力の進化を説明せよ!――男たちの挑戦
フリーライダーという矛盾/「群れの利益のため」理論/ハミルトンの血縁淘汰理論――働きアリのからくり/もちつもたれつ――直接互恵性理論/ハミルトン,政治学者と出会う/囚人のジレンマ/しっぺ返し戦略/情けは人のためならず――間接互恵性理論
 第3章のまとめ
 BOX 間接互恵性と我々の道徳心

4 罰のチカラ――自然界には罰がいっぱい
罰にもいろいろ/大腸菌のお仕置き?――制限修飾酵素系/用心棒の逆襲/親しき仲にも礼儀あり――ユッカとユッカガの相利共生/植物から細菌への罰/キイロタマホコリカビの村八分/磔にされるアリ/掃除をさぼるのは誰だ!/ミーアキャットのイジメ
 第4章のまとめ
 BOX 懲罰と制裁

5 ヒトはけっこう罰が好き?
社会脳仮説/ヒトの親戚びいき/裏切り者には敏感/目があるだけで協力/公共財ゲームと罰/高次のフリーライダー問題/二度と会わないのに懲らしめたい――利他的罰/罰の文化差/協力する人に罰をする?/罰のある社会とない社会/罰と快感/罰が勝るか,報酬が勝るか/罰のもつイメージ
 第5章のまとめ
 BOX 制度化された罰

おわりに――ヒトと罰,その未来
あとがき
参考文献
大槻 久(おおつき ひさし)
1979年福島県生まれ.2006年九州大学大学院理学府生物科学専攻修了(理学博士).ハーバード大学Program for Evolutionary Dynamicsポストドクトラルフェロー,科学技術振興機構さきがけ「生命現象の革新モデルと展開」専任研究者を経て,現在,総合研究大学院大学先導科学研究科助教.専門は数理生物学.協力の進化理論をはじめ,進化ゲーム理論,人間行動進化学の研究に携わる.最近は文化現象にも興味をもっており,知識や流行というものがどのように伝達されるかを調べたいと思っている.

書評情報

Zoo and Wildlife News No.45(2017年12月)
遺伝 68巻5号(2014年9月)
現代化学 2014年8月号
日経サイエンス 2014年8月号
公明新聞 2014年7月28日
朝日新聞(朝刊) 2014年7月27日

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